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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第1章パラダイスワールド
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帰還

 ミーアノーアが去った(あと)の、パリークの街。

 スゥイ達の努力のおかげで、グランドキャッスルを攻め落とそうとしていた魔兵士達は、ほぼ撤退していた。

 闇の規模も小さくなっている。

 ただ、人々は家を壊され、行く宛もないので、グランドキャッスルの中に集まっていたのだが、居心地が良いため、文句を言う人はいなかった。魔兵士がいるから、外に出ると危険というのも分かっていた。

 が、自分達もやれることはあると、掃除、洗濯、料理など、みんなで分担して行った。優しいスゥイ達の、負担になってはいけない。ミーアノーアが帰って来るまで、この街は自分たちで守る。そのために、できることをしようと決めたのだった。


 スゥイは外を巡回していた。毎日毎日、見回りながらミーアノーアが帰って来るのを待っていた。やはり、心配でたまらないのだ。

 花壇に、彼女が()でていた花がある。その花を見つめ、スゥイは心で囁いた。


(ミーアノーア様。急いで帰って来て下さいとは申しません。怪我のないよう、ゆっくりと来て下さればいいのです。ただ、今どうしているのか。会えないことが、不安でたまりません。ここのことは大丈夫です。俺達でなんとかやっています。ミーアノーア様……)


 彼は空を仰ぎ、ミーアノーアの無事を祈った。



 聖なる龍の力で作られた光の玉は速い。あんなに苦労して渡ったメモリクルから牙龍の谷までの道が、ほんの一瞬だった。

 メモリクルの入り口で一旦、光の玉は消える。

 ミーアノーアは、ジョアンのリュックと遺骨を持って、ジェイの待つ村長の家に向かった。

 出迎えてくれたのは、ジェイの奥さんだった。奥さんはさっそく、ジェイを呼びに行ってくれた。


 ドドドドドド。


 廊下を駆けて来る音がする。


「ミーアノーア様!」


 部屋に入ってきたジェイ。

 ミーアノーアの後ろに父親の姿がない事に、一瞬、悲しい顔をした。


「ジェイ。あなたのお父様は……」

「ミーアノーア様。最後までおっしゃらなくても分かっていました。父は、死んだんですよね」

「ジェイ……」

「………」


 ジェイの奥さんも側に来る。ジェイは、悲しみを必死に耐えていた。ミーアノーアは、ジョアンのリュックを渡す。


「これは、父さんのリュック……」

「ええ。牙龍の谷のすぐ側にあった、洞窟の中に置いてあったんです。手紙も、中に」


 ジェイは手紙を開いて読む。

 涙が溢れてきた。


「父さん、父さん……!」

「それから、これを」


 ジェイの手の中に、そっと布で包んだ物を忍ばせる。

 布をほどいていくジェイ。

 声を無くす。


「ジョアンさんの、あなたのお父様の、遺骨です」


 ジェイは崩れ落ちた。


「あ、アアアア……! ウッ……ウッ……!」


 嗚咽が響く。

 本当は、期待もあったのではないだろうか。

 父親が、帰って来るんじゃないかという。

 しかし、現実は、非常だった。

 奥さんがそっと、ジェイの肩を抱きしめる。

 彼女の目からも、涙が溢れていた。

 ミーアノーアも、彼が落ち着くまで側にいた。


 村の人達が、何事かと窓の外から家の中を覗く。

 そしてジェイの様子を察して、切なそうに離れた。

 彼らも、ジェイと同じ気持ちだったのだろう。

 ジョアンが、いかにこの村にとって大切な存在だったのかを、ミーアノーアは理解した。

 やがて、落ち着きを取り戻したジェイが立ち上がる。


「ジェイ、大丈夫なのですか?」


 ミーアノーアの問いかけに、なんとか笑顔を作って答えるジェイ。


「大丈夫ですミーアノーア様。ご心配をおかけしました。覚悟はしていたのです。もう、父はいないのだと。でも、あの父のことだから、ふらっといつか帰って来るんじゃないかと、待っている自分もいました。だから、父の遺骨を見た時、ああ、もう駄目なんだ。いないんだって悟りました。悲しいです。今も。あの時、どうして父を止めなかったんだって。悔やんでます。父さん、どうして……!」


 ジェイはまた涙目になっていた。

 ミーアノーアが、ジェイの手を自分の手で包む。


「ジェイ、辛いでしょう。あなたの気持ちは分かります。今まで、ずっと我慢していたのでしょうね。悲しい時は、思い切り泣いていいのですよ」

「ありがとうございます。ミーアノーア様。あなたには、感謝しています。骨になったとはいえ、父をここに連れて来て下さったこと。わたしは、この村の村長です。父の墓を建てて、みんなと共に、この村を守っていきます」


 ジェイが奥さんと顔を見合わせる。奥さんも、こくりと頷いた。

 もう大丈夫だろう。ミーアノーアは手を離す。


「そうですか。あなたならきっと立派な村長として、この村を守っていくことでしょう。遠くから、応援しています。頑張ってくださいね」

「はい!」


 最後は笑顔で別れた。手を振るメモリクルの人々に見送られ、ミーアノーアは再び光の玉に乗って、パリークへ飛び立った。

 いよいよ帰るのだ。腰に聖麗剣を携えて。


(スゥイ、待っていて。今、行くよ)


 ミーアノーアはパリークへの帰還に、胸を高ぶらせた。



 ヒュルルルルル。


 ラキ村を越える。

 パリークとラキ村の間に流れている河の上を通った。

 もう少しだ。もう少しでみんなに会える。

 空の上から、パリークの街が見える。

 地上に降りた。

 光の玉が消える。

 ミーアノーアは、送ってくれた聖なる龍にお礼を言った。


「聖なる龍。ありがとうございました。パリークまで送って下さって」

「いいえ。あなたには、救世主として闇と戦ってもらわなくてはなりません。これくらいの事はさせて下さい。とにかく、パリークの闇が広がっていなくて良かった」

「ええ。本当に」

「さぁ、もう行きなさい。みんなが待っていますよ」

「はい! 聖なる龍。お元気で」


 ミーアノーアは、グランドキャッスルに向かって走る。

 花畑の側を通った時、花を摘んでいた女官が彼女に気付いた。


「み、ミーアノーア様……!」

「ただいま」

「お帰りなさい。ああ、ミーアノーア様……!」


 無事な姿を見て、女官は泣き出す。


「大丈夫よ。わたしは生きているわ。さぁ、その花を持ってグランドキャッスルに行きましょう」

「……はい」


 目を赤くしながら、女官は歩き出す。

 懐かしいグランドキャッスル。

 その変わらない姿に、ミーアノーアは安堵した。

 城の窓から、ミーアノーアの姿を確認した住民達が次々飛び出して来る。


「ミーアノーア様ーーーっ!」

「ミーアノーア様。お帰りなさい!」


 たちまち人の波ができた。

 その波をかき分け、スゥイが前に出てくる。


「お帰りなさいませ。ミーアノーア様。よくご無事で」


 一礼して挨拶をかわす。


「スゥイ、ありがとう。あなたがくれたお守りのおかげよ。これのおかげで、無事わたしは、聖剣を手に入れることができたの」

「いやあ」


 ミーアノーアの言葉に、スゥイが頭をかきながら少し照れる。


「さぁ、これが聖なる龍の涙の雫で作られたという伝説の聖剣、聖麗剣よ」


 鞘から外された聖麗剣の輝きは、美しい。

 凄く優しい光。

 その輝きに、みんなは魅了された。


「美しい……!」

「これが聖麗剣」

「まさに、ミーアノーア様に相応しい聖剣だ」


 興奮気味の人々に、ミーアノーアは、自分が聖なる龍から、救世主に選ばれたことを告げる。

 人々の間から、どよめきと歓声が上がる。

 スゥイが言った。


「おめでとうございます。ミーアノーア様。俺達も、ミーアノーア様なら、救世主に相応しい方だと思います」

「そう、かなぁ?」


 スゥイの言葉に戸惑う。


「ええ。あなたは、もう少しご自身の力に自信を持たれてもいいと思います。ずっと、俺達のリーダーとして、戦ってこられましたから。でも、あなただけに苦労はさせません。これからも、俺達があなたを支えます」


 スゥイが騎手らしく、ミーアノーアの前にひざまずき、彼女の右の手の甲にキスをした。


「ありがとうスゥイ。あなたには、これからも頼りにさせてもらうね」

「はい」


 そして、ミーアノーアはスゥイにエスコートされ、グランドキャッスルに入って行った。

 人々も続く。

 ようやく帰ってきたパリーク。

 話したいことはたくさんある。

 今は、闇は来ないで。もう少し、このままで。

 ミーアノーアは、そっと願った。




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