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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第1章パラダイスワールド
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聖なる龍

 中に入ってみると、そのあまりの明るさにミーアノーアはびっくりした。が、眩しいというのとは違う。優しい光に包まれている感じだった。

 洞窟というと暗いイメージがあったのだが、この龍の穴は電気の下にいるかのように、回りの物がはっきり見えた。

 しかし、龍の姿は見えない。

 どこにいるのだろう。

 敵のモンスターの気配は感じない。

 傷を治しながら、探索を続ける。

 静かだ。

 物音一つしない。

 こんなのは初めてだ。


「聖なる龍。ミーアノーアです。お姿をお見せ下さい」


 返事は聞こえなかったが、代わりに後ろから足音がした。


「そこにいたのですね」


 ミーアノーアは後ろを振り向く。

 そこにいたのは、パリークで待っているはずのスゥイだった。


「スゥイ? どうしてここに? はっ、その傷は……?」


 スゥイの右腕から血が流れている。


「待っていて。薬草残っているから今、傷の回復を……。はっ、スゥイ!」


 ガタッ。


 スゥイの頭の上から、巨大な岩が落ちてきた。


「危ないっ!」


 ミーアノーアはスゥイを守るために、彼の上に覆い被さった。


 ゴロゴロゴロ。


 その巨大な岩はそのまま二人の上に落ち、ミーアノーアの意識は飛んだ。


「う、うん……」


 ゆっくりと目を開けてみる。

 背中に、重い岩が乗っている感じはしない。

 スゥイの姿も消えていた。

 驚いて立ち上がる。

 周囲の景色も変わっていた。

 さっきまでの洞窟じゃなく、神殿の中にミーアノーアはいた。


「一体ここは……? スゥイ、どこ? スゥイ」

「ミーアノーア」


 スゥイを探すミーアノーアの耳に、きれいな声が届いた。


「誰?」


 声がした方向を見る。


「はっ?」


 金色の光を輝かせる(ドラコン)

 その瞳は優しくミーアノーアを見つめている。


「もしかして、あなたが聖なる龍?」


 ミーアノーアのその言葉に、龍は答える。


「その通りですミーアノーア。救世主の定めを持つ者」

「救世主? わたしが?」


 少し間をおいて、龍は話し出した。


「ええ。わたしはずっとここで、救世主が来るのを待っていました。あなたはパリークで、人々をまとめるリーダーとなり、今やその人気は、パラダイスワールド全土に広がっています。わたしはあなたこそ、救世主に相応しいと考えています。

 人はみな、大地より生まれ、大地に帰って行きます。その営みの中、争いは生まれ、たくさんの人々が苦しみ、血を流し、土へ帰って行きました。そんな中希望を託したのが、救世主という存在なのでしょう。

 ミーアノーア、先ほどは、あなたを救世主としてテストするために、スゥイの頭上から岩が落ちてくる幻覚を見せたのです。結果、あなたは自分の身をかえりみず、スゥイを守ろうとしました。その慈愛の心こそ、救世主として一番大切な精神です。救世主ミーアノーア。今こそ、このわたしの涙の雫で作った聖剣を持って、生まれつつある魔の神、ダークキングを倒して下さい」

「魔の神、ダークキング?」


 聞いたことのない名前だ。

 一体どんな人物なのか。

 ミーアノーアは興味を持った。


「そうです。魔空間の闇から生まれし、邪悪な心の生命体、ダークキング。彼が生まれてしまえば、パラダイスワールドの支配など容易いこと。

 今はまだ、パラダイスワールドに広がっている闇の勢いは早くありません。が、ダークキングの誕生により、一気に闇が広がる可能性があります。ですから、この聖剣でダークキングを倒してもらいたいのです。わたしはあなたを、信じています」

「聖なる龍。分かりました。夢でわたしに告げたお告げは、このことだったのですね」


 ミーアノーアは力強く、龍に向かって微笑んだ。

 それを見て、龍も微笑み返す。


「ありがとうミーアノーア。それでは、この箱の中身をあなたに託します」


 龍が横に置いてあった箱をミーアノーアに手渡す。

 細長く、赤と青のストライプ模様の箱。


 パカッ。


 蓋を開ける。

 細くしなやかな片手剣。まるでフェンシングに使われる剣のようだ。


「これが、聖剣……」

「そうですミーアノーア。それがわたしが生み出した聖剣、その名も聖麗剣(せいれいけん)です。見た目は華奢かもしれませんが、切れ味は良いと思いますよ。どうです。一つ、試し切りしてみませんか?」


 聖なる龍が放り投げた紙に向かって、ミーアノーアは剣を振った。


 ビュッ。


 空気を切り裂く鋭い音。紙は真っ二つに切れた。

 切れ味は抜群のようだ。


「凄い。軽くて扱いやすい。これが、聖麗剣」

「フフッ。気にいってくれたら何よりです。さてミーアノーア、ここまでの長旅で、身体は疲れているでしょう。癒しのお湯に浸かっていらっしゃい。その後で、わたしがあなたをパリークまで飛ばしましょう」


 聖なる龍の後ろに、その癒しのお湯への入り口があった。ミーアノーアは一言礼を告げ、癒しのお湯へと進んだ。


 癒しのお湯、要するにお風呂なのだが、温泉の効果があるらしく、身体の疲れがよく取れた。充分に足が伸ばせる広さで、気持ちいい。

 すでに、タオルと着替えの服が用意してあった。何から何まで、龍には感謝しなくては。


「上がりましたね。ミーアノーア」

「はい。ありがとうございます。岩風呂風で、とても気持ち良かったです」

「それは良かったです。さて、そろそろ参りましょうか。パリークの人々も、心配しているでしょうから」

「お待ち下さい。聖なる龍。パリークの前に、寄りたい場所があるのです」


 両手に気を溜め始めた龍を静止して、ミーアノーアは叫んだ。そして、メモリクルのジョアンとジェイ親子の事を話す。


「分かりました。あなたはいつでも、人の事を気にかけているのですね。パリークの前に、メモリクルに寄りましょう。荷物も、途中で拾います。

 では、ミーアノーア、近くに来て下さいね」

「はい」


 聖なる龍が気を溜める。光の玉が、ミーアノーアを包んだ。


「さぁ、行きなさい。はっ」


 玉はミーアノーアを乗せ、あっという間に空の彼方へ消えた。


「頼みましたよ。救世主……」


 ミーアノーアが消えた空を見上げ、龍は一人呟いた。






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