到着
一体、どのくらい流されたのだろう。
気が付いたらそこは、ゴツゴツした岩肌の開けた場所だった。
首まで浸かっていた水は、もう無い。
立ち上がり、自分の体を確かめる。
怪我はしていないようだ。
ただ服が濡れているが、着替えている余裕は無い。
いつどこで、モンスターに会うか分からないから。
服の水気を絞り、先へ進む。
通路の向こうからバタバタとやってきたのは、ミイラ男の群れだ。
「ギャア」
包帯を飛ばして攻撃してきた。
ミーアノーアは華麗に避けながら反撃する。
「フレィムガン!」
ミイラ男は焼け崩れ、消滅した。
油断はできない。
警戒しながら聖なる龍の元に走る。
「……っ」
マグマが吹き出す池。橋はかかっていない。
一体どうやって渡ろうか。
見渡しても、橋の代わりになるものは見つからない。
戻って別の道を探そうかと振り返ったら、新たなモンスターが迫って来ていた。
棍棒を持った、大きな巨人だ。
ビュッ。
棍棒を避ける。
二発目、三発目。地面に穴が開く。
後ろにマグマの池。前に巨人。
逃げ場はない。
ミーアノーアは膝の屈伸を使い、高くジャンプした。
「アクアビーム!」
巨人の目を狙う。
巨人がひるんだのを見て、着地と同時に、後ろに回り込む。
ミーアノーアの姿を探す巨人。
倒せるかどうか。
「ウォーターフラッシュ!」
両手のひらから大量の水しぶきを浴びせる。
彼女の魔法力は美理子達よりかなり上。
杖の力を借りなくても、自分の力で撃つことができる。
巨人は前のめりに倒れかけた。が、踏ん張る。
「ふんっ」
ミーアノーアの姿を見つけると、棍棒を高く振り上げ一気に下ろした。
ビュン。
空気を裂く音。
ミーアノーアのいた場所に大きな穴が開いた。
ぺしゃんこになっただろうか。確かめる。
しかし彼女はいない。
後ろにジャンプしてギリギリ避けていたのだが、右肩から血が滴っていた。
巨人が近づく。
一回、大きく息を吸うとミーアノーアは、全身に気を溜め始めた。
「はあああああ……!」
巨人の腕から肩にかけ登り、大きくジャンプ。
ちょうど見下ろす形だ。
「ライディンスピリッツ!」
巨人の濡れた体に雷が駆け巡る。
水の力で威力が増している。
「ギャアアアアア」
白目をむいて巨人は腹這いで倒れた。
棍棒を頭の上に上げていたため、マグマの池に架かる橋のようになっている。
ミーアノーアはためらわず、その上を渡った。
「ごめんね」
渡り終わって一言謝り、次の場所に急ぐ。
巨人はマグマの池に落ちていった。
谷をさまようこと二時間。奥へ奥へと進むごとに、周りの闇が濃くなっているのを感じる。
モンスターの数も増えてきていた。
さすがは魔空間の影響でできた谷。パラダイスワールドの大地とは違う。何があるか分からない。そんな恐怖すら覚える。
「ハア、ハア……」
魔法力がだいぶ少なくなってきた。
体へのダメージも大きい。
薬草で傷を癒しながら、懸命に前に進む。
水を一口飲む。
歩き疲れたミーアノーア。
ついに、その場で倒れ込んでしまった。
キキッ。キキッ。
吸血コウモリ、ドラキュロスの群れだ。
この時から、ドラキュロスはいたのか。
「キキッ」
一斉に、ミーアノーアめがけて降りてくる。
体は動かない。
(やられる……)
目を閉じ覚悟した、その時。
スゥイから貰って、懐に入れていた聖光石のお守りが光り出した。
「スゥイ?」
その光を浴びたドラキュロスの群れは、奥へと逃げていった。
ミーアノーアは、そのお守りを手にする。
心の中に、送り出してくれた人々の顔が浮かぶ。
兵士達や女官達、戦士達。パリークの街の住民達。そして、心配しながらも、自分を信じてこのお守りを渡してくれたスゥイ。
「そうだわ。こんな所で逃げちゃ……」
ここで倒れては、スゥイ達に申し訳が立たない。
ミーアノーアはそう思った。
再び、彼女は立ち上がり、聖なる龍がいるという龍の穴を目指す。
遠くから、優しい光を感じた。
洞窟が見える。
「あったわ! あれが聖なる龍がいるという龍の穴!」
嬉しさで駆け出していた。
傷の痛みなど忘れるように。
もう少し。あと三百メートル。
手を伸ばす。
あと二百メートル。
だが、あまり冷静さを失うとーー、
ガバッ。
落とし穴だ。
いきなり足元から落下した。
下に竹で作られた槍のトラップが、何本も彼女を狙っていた。
「危なっ」
持っていた短剣を穴の縁に刺す。
その短剣にぶら下がる形で、槍を回避した。
「危ない危ない。串刺しになる所だったわ」
穴の上に上がる。
今度は油断しない。
慎重に確認しながら、龍の穴に入っていった。