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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第1章パラダイスワールド
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谷への道

 メモリ山の頂上にある村、メモリクル。

 山の山頂だけあって、空気は薄いが、澄んでいる。

 ミーアノーアは村長のジェイの家の窓から、太陽が昇るのを見た。


 綺麗だ。


 涙が出るほど美しい。

 ミーアノーアはこの光景を、一生忘れまいと誓った。

 外に出るとジェイの奥さんが、野菜を両手いっぱいに摘んで歩いて来た。

 畑で自家栽培しているらしい。


「ミーアノーア様。朝ごはんになさいますか? わたしの家で取れた野菜、たくさん食べて下さいね」


 昨日は緊張していただけのようだ。朝になったら落ち着き、なるべく普通に話そうとしてくれる。


「ありがとう。わたしのような者に、ここまでしてくれて」

「いいえ。ミーアノーア様は、わたし達パラダイスワールドに住む者の、憧れの的ですから。それに、今日は牙龍の谷へ向かう日です。栄養をつけて頂かないと」


 そう。今日はいよいよ、牙龍の谷へ向かうのだ。ジェイとの約束もある。途中で倒れる訳にはいかない。ミーアノーアは、奥さんのご厚意に甘え、もうしばらく楽しい時間を過ごした。


 そしてーー、


 ジェイ他、メモリクルの人々に見送られ、ミーアノーアは山の反対側を下って行った。



 山を下ってしばらく行くと、西の方に道がカーブしている。その道を真っ直ぐ行くと突き当たりになる。そこはほぼ垂直の崖だ。ロープがぶら下げてあるので、そのロープを使って下に降りる。

 下の地面はけっこう広い。ここで一息つけそうだ。そして、目の前の闇に包まれた場所が、牙龍の谷だ。ただ、距離が一メートル位離れている。飛び移るにしてもギリギリだろうと、ジェイは言っていた。

 それにしても、こんな危険が(ともな)う道を、ジェイのお父さんは進んだのだろうか。一年間も行方不明で、さぞジェイは心配しているだろう。

 どうか無事でいて欲しい。

 そんな事を考えながら進むと、例の崖に出た。

 聞いていた通り、垂直の崖だ。

 木にロープが縛りつけてある。

 ミーアノーアはそのロープをしっかり握り、後ろ向きでゆっくり崖を下って行った。

 少しでも足を滑らせたらアウトだ。手に力が入り汗がにじむ。

 やっとの思いで崖を降り、地面に足をつける。

 振り向いた瞬間見えたのは、闇に包まれた小さな大地だった。

 ふわふわと、空に漂っている。


「あれが、牙龍の谷……」


 何とかして、あの場所へ行かなくては。

 辺りを見回す。

 すると、崖の右側、ロープからさほど離れていない所に、洞窟のような穴が開いているのに気が付いた。


 天井は低い。


 ミーアノーアは腰をかがめて、とりあえず入ってみる事にした。

 低いのは入り口だけ。

 中に入ると、普通に歩ける。

 ランプを点けて灯りを照らすと、奥に続く道がある。道幅は狭いが行ってみる。すぐに行き止まりになったが。

 広い空間に出る。部屋の真ん中に、薪で火を燃やした跡があった。隅に、リュックが置いてある。

 汚れて、時間が経った物のようだ。そのリュックの側にあった物に、ミーアノーアはハッと息を飲んだ。人の骨だ。よく見ると血の跡のようなものもある。リュックの中に、この人物の手掛かりが見つかった。手紙が入っていたのだ。

 文字は、血文字だった。


 〈わたしは、メモリクルにいる、ジェイの父ジョアン。ジェイ、牙龍の谷の魔物を調査するためにここまで来たが、もう少しというところでモンスターに傷を負わされ、動けなくなった。済まないジェイ。お前には苦労をかけることになる。せめてもう一度、お前に会いたかったが、ここまでのようだ。ジェイ、幸せに。奥さんを大事に。

 ジェイ、わたしの息子ジェイ。ああ、会いたい〉


 手紙を読んでいたミーアノーアは、涙を流した。

 父の息子への思いが、懸命に書かれていたから。

 どんなに、ジェイに会いたかったか。

 無念だったはず。

 ジェイと約束したのに。

 こんな形で、お父様を見つけることになるなんて。

 ごめんなさいジェイ。

 何とも言えない悲しい気持ちで、ミーアノーアはジョアンの骨に手を合わせた。

 遺骨を、布に包む。リュックの側に、摘んできた花と共に置いた。


「ジョアンさん。後で必ずあなたを、息子さんの元に返してあげます。だから、もうしばらく、ここで待っていて下さいね」


 ミーアノーアはそう一声かけると、洞窟を出て行った。


 今は、牙龍の谷へ急ごう。これ以上、犠牲になる人が増えないように。

 外は日射しが明るい。気温が上昇しているみたいだ。谷の中はどうなっているだろう。

 見てみたいが、闇が邪魔をして見ることができない。なるほど、ここへたどり着いた人達が諦めた訳だ。だけど、わたしは諦める訳にはいかない。

 ミーアノーアは、谷へ向かって魔法を放った。


「ファイヤー!」


 一瞬でも、中が見えればいい。

 炎に照らされ、入り口が見えた。四角い門、みたいな形。二本の太い木の柱が、両脇に建っている。

 炎が消えないうちに、ロープを投げる。柱の一つに巻き付いた。引っ張っても、ほどけない。


「よし」


 腰にランプを結び、両手が使えるようにする。ちょうどいい岩を見つけて、ロープを固定した。

 あとは、橋のようにロープを渡って行くだけだ。


 ほふく前進の体制で、ロープの上に乗る。腕と足に力を入れ、ゆっくり進む。

 途中、バランスを崩しひっくり返ったが、手は離さない。足をロープに絡め、何とか元の体勢に戻した。


「ハア、ハア……」


 手が柱に触れる。力を込め、一気に中に飛び込んだ。


 パシャッ。


 水だ。一面水で覆われている。


(息が……)


 天井近くに隙間があった。必死に顔を上げる。


「助かった……」


 首から下は水に埋まった状態だが、呼吸は確保できた。

 これからどうしよう。

 泳ぐしかないかな? と、思った時だった。


 ゴゴコゴゴコ。


 水が奥に引っ張られる。

 ミーアノーアは壁に手をかけようとしたが、間に合わない。


「キャアアアアア」


 あまりに凄い水の流れに、彼女の体は巻き込まれた。

 奥に、奥に、流れていく。

 ミーアノーアは、意識を失った。



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