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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
最終章いつか生まれる戦士達へ
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最終話 そして未来へ

 ミーアノーアとスゥイ、二人が固く握った手の中から、光が輝き出す。

 その光に包まれ、二人の体が上昇し始めた。


「何だと!?」


 地上からその光景を見上げるダークキング。

 ミーアノーアとスゥイの心が一つになった。


「遥かな時の狭間から、わたし達の下へ運ばれし宝、聖光石よ」

「我らの願いを聞き、その光を解き放て」

「どんな邪悪にも負けない強き心と」

「平和を愛する力で」

「今、黒き雲を貫き、ファイヤーストーンとして生まれ変わりたまえ!」


 光が溢れ出し、辺りを輝く大地へと変えていく。

 これが平和を愛する者の力なのか。

 しかし、ダークキングは諦めてはいない。


「ハアアアアアア!」


 聖なる龍から奪った力を活用し、自分の気を高めた。


「ダークネスパワー!!」


 闇の力を増大させ、反撃に転じる。

 黒き闇と、輝く光の激突。


 ドドドドドド。


 大地が激しく揺れる。

 空中のミーアノーア達に向かって、闇が迫っていた。


 二人は繋いだ手を前の方に伸ばす。

 光が闇を押し始めた。

 ダークキングは二人を動揺させようとする。


「いいのか? この闇はここだけではないぞ。お前達の街パリークや、メモリクルにも広がっているのだぞ」

「えっ!?」

「お前の知り合いや子どもが死んでもいいのか? ミーアノーア」

「……っ!」


 その瞬間、ファイヤーストーンに微かなヒビが入った。

 光が弱まり、ミーアノーアとスゥイは地上に落ちる。

 上手く着地はしたが、心の動揺は隠せない。


「フハハハハ! さて闇よ。パリークとメモリクルを占拠しろ!」

「させません!」


 聖なる龍の声。

 二つの光の玉が遠くへ飛んで行く。


「ミーアノーア。パリークとメモリクルは闇に落ちましたが、人々は安全な場所へ逃がしました。あなたの赤ちゃんも無事ですよ」


 聖なる龍の力で、何とか助かった。


「聖なる龍。ありがとうございます」

「さあ早く。まだファイヤーストーンの光は完全に消えていません。闇の封印を急ぎなさい」

「はい!」


 ミーアノーアとスゥイが目を閉じる。


「おのれ聖なる龍。まだそんな力が残っていたか!」


 ダークキングが牙龍の谷の闇を操ろうとした。

 それをミーアノーアとスゥイが防ぐ。


「おのれ! 邪魔しおって!」


 やはりまずはミーアノーアとスゥイを倒さねば。

 闇が再び二人に向けられた。


「ダークネスパワー!」


 力と力がぶつかり合う。


「ダークキングぅぅぅ!」


 光が闇を押し返し、ダークキングは吹き飛ぶ。


「ぐわっ!」


 闇の中を転がる。

 ミーアノーアとスゥイは、その場で待っていた。

 まだ闇を封じ込めた訳ではない。

 すると突如、

 パラダイスワールドの闇に包まれていた部分が、割れて離れた。


「えええっ!?」


 驚いて近づく二人。

 ダークキングは、その大地の上に立った。


「フハハハハ! これは愉快。パラダイスワールド全体とはいかないが、せめてこの大地だけでももらっておくぞ!」

「そんなこと、させない!」


 ミーアノーアは、ファイヤーストーンを構える。

 が、今度は光が出ない。


「まさか、この微かなヒビで……?」

「やはりさっき落としたショックで、ですか?」


 慌てるスゥイとミーアノーア。

 ダークキングはチャンスとばかりに笑った。


「ならば逆転といこうか、ミーアノーア!」


 気を溜めて放つ。

 危険を感じたミーアノーアは、側にいたスゥイを突き飛ばす。

 彼女の回りが、黒い炎で囲まれた。


「ミーアノーア様!」


 炎はミーアノーアの背の高さまで届き、スゥイは近づけない。


「アアアアアアッ!」


 炎が、ミーアノーアの体を焼く。


「どうだ。焼き殺される気分は?」


 ミーアノーアを救おうとしたスゥイを、闇の鎖で抑えながらダークキングが言う。


「ミーアノーア!」


 聖なる龍が、彼女の心に話しかける。


「聖なる……龍……」

「わたしの残った力を、あなたに流し込みます。それでファイヤーストーンを」

「しかし、そんなことをすれば、あなたが……」

「わたしは、牙龍の谷の中で死ぬつもりでした。この命、あなたに捧げるのも悪くありません。それで世界が救われるなら。さぁ、ミーアノーア」


 聖なる龍の力が、ミーアノーアの中に入って来る。


「受け取って、わたしの命!」

「ハアアアアアアッ!」


 ミーアノーアが思い切り気を高める。


「レインリバー!」


 黒い炎は大量の雨により消え失せた。


「何だと!?」

「ダークキング、覚悟!」


 ファイヤーストーンの輝きが広がる。

 スゥイを縛っていた鎖も消えた。


「お願い、ファイヤーストーン」


 ミーアノーアとスゥイが叫んだ。


「世界を、救いたまえ!」


 優しい光に、ダークキングは溶けていったように見えた。

 牙龍の谷はファイヤーストーンの洗礼を受け、ようやく闇の支配から解放された。

 ゆっくりと、パラダイスワールドから離れて行く。


「ミーアノーア様、ダークキングが倒れたのなら、あとはあの闇の大地を元に戻しましょう!」


 スゥイがミーアノーアの顔を見る。

 ミーアノーアは力強く頷いた。


「ええ、スゥイ」


 ファイヤーストーンを闇の大地に向ける。

 その時ーー、


「誰が倒れたって?」


 闇の大地の上にダークキングの姿があった。

 だけど、その姿は今までとは異なっていた。

 肉体はない、透き通った魂だった。


「これ以上、大切な肉体を傷つけられると困るのでな。肉体は、この闇の大地で休ませてある。いつか復活する時の為にな」

「その前に、その闇ごと、あなたを浄化する」


 ミーアノーアとスゥイがダークキングの魂をキッと見つめた。


「そうか。わしも一つ言っておく。ミーアノーア、さっき浴びた黒い炎の力で、お前の肉体はもうすぐ溶ける。わしと同じ、魂だけの存在となるのだ」

「何ですって?」

「肉体を失った魂は、やがて死ぬ。その前に、わしを封じ込めることができるか?」

「くっ……」

「せめて、時間を稼ぐとするか」


 ダークキングの魂が、パチンと指を鳴らした。

 ミーアノーアとスゥイの足元の地面が崩れる。

 二人は穴の中に落ちていった。



「スゥイ」

「ミーアノーア様、ご無事ですか?」


 互いの無事を確かめ合い、安堵する。

 そんなに深い穴じゃない。すぐ登れそうだ。


「では、ダークキングを封じ込めに……」

「待って、スゥイ」


 穴を登ろうと足をかけたスゥイを、ミーアノーアが止める。


「どうかしましたか? ミーアノーア様」


 彼女はあることを、心に決めていた。


「スゥイ。あなたはサイーダの、わたし達の子のところに戻って。ダークキングの魂は、わたしが何とかする」

「ミーアノーア様、一体何を言っているのですか?」

「このまま戦ったら、二人とも死ぬだけよ。そうしたら、残された人、わたし達を待っている人達はどうなるの? それに、わたしの体はもう……」


 ミーアノーアの肉体は、足元から溶け始めていた。


「この肉体は煙から力の結晶になる。いつか未来でこの結晶に反応した者が、次の救世主になるの」

「しかし……」

「スゥイ。もう、時間がないわ」


 肉体が溶けるスピードが意外と早い。

 もう首の辺りまで来ている。

 そうすれば、もうミーアノーアに触れることはできない。


「これで最後なら……」


 スゥイは覚悟を決めて、ミーアノーアと口づけを交わした。

 その感触だけが、彼女の、ミーアノーアの、最後の温もりだった。

 こぼれ落ちる涙が、熱い。


「ありがとう、スゥイ。最後に、あなたと結婚できて、良かった」

「ミーアノーア……っ!」


 肉体は完全に滅び、結晶となってスゥイの手の中に握られた。

 透き通った魂は、微笑む。

 ファイヤーストーンは、胸元に浮いて、離れようとしない。


「ファイヤーストーン。ついて来てくれるのね」


 この時ミーアノーアは理解した。

 戦士達、ドラミール、この戦いで死んだ人達の思いが、この宝石に宿っていると。


「じゃあ、スゥイ」


 彼は無言でうつむく。

 涙が頬を伝い、肩が震えている。

 光の玉に包まれた。

 ミーアノーアが、サイーダのところまで飛ばすつもりだ。

 彼は顔を上げた。


「駄目だ、ミーアノーア!」

「またね!」

「ミーアノーアぁぁぁ!」


 ミーアノーアの魂は、闇の大地に向け、飛んだ。

 スゥイは飛ばされながら、ただ、絶叫するしかなかった。


 闇の大地で、ミーアノーアはダークキングと対峙していた。

 二人とも魂だったが、ダークキングは肉体がある。いつ復活してもおかしくない。

 その前に、


「ファイヤーストーン、力を貸して」

「やらせん!」


 ダークキングが猛攻を仕掛けた。

 ファイヤーストーンの光が押されている。


「ミーアノーア、その魂を消してやる!」

「まだよ! まだ、わたしは消えない! お願いみんな、わたしに力を!」


 ミーアノーアの願いに、ファイヤーストーンが輝きを増す。


「ハアアアアアアッ!」


 戦士達の、ドラミールの、ミーアノーアの思いが一つになる。

 ついに、ダークキングの魂を封じ込めた。

 だが、闇の大地の浄化には至らず、ミーアノーアの魂も消えた。

 ファイヤーストーンは役目を終え、五つの欠片に分かれ、彼方へと飛んだ。

 未来の戦士達を待つ為に。

 そして闇の大地は、魔空間へと旅立った。



 あれから、長い年月が過ぎた。

 緑の丘の上に、老人と女性が座っている。

 老人の名は水仙人。女性の名は女王サイーダ。

 水仙人は、あの長く激しい戦いの生き残りで、ミーアノーアの騎士(ナイト)スゥイと、かつて呼ばれていたことがあった。彼はサイーダに、自分が父親だと伝えていない。彼女に危険が及ぶのを防ぐ為だ。そのため仙人の力を得て、名を変え、側で守っていた。

 丘の上には、ミーアノーアのことを称える石碑が立っている。

 そう、ここはチルルの丘。

 ふもとには、村が建設されていた。

 人々の笑い声。

 水仙人とサイーダは、この平和を守っていくことを誓った。

 かつての救世主が、そう願ったようにーー。



 その小高い丘の上に、彼女はずっと立っていた。

 ただ一人、遥か彼方遠くを見つめてーー。


  〈終わり〉


 



長い間ご愛顧頂いた、mirikoworld外伝ミーアノーア物語は、これで終わりです。今まで読んで下さり、ありがとうございました。次回作は決まっていませんが、また皆さんに読んで頂けるよう頑張ります。それまで待っていて下さい。

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