さよなら、ドラミール
「あのバリアーを、破る方法はないのか?」
スゥイが考える。
三人はなんとかバリアーを壊そうとして魔法や剣を当ててみたけど、びくともしない。
中のダークキングは余裕で笑っていた。
「ミーアノーア、スゥイ。今まで三人バラバラに攻撃していたから駄目だったのかも」
ダークキングに背を向ける形で、作戦会議を始めた。
少々危険かと思われるが、バリアーの中にいる限りダークキングは攻撃してこない。むしろ、体力を回復しているようだ。
「どういう事だ? ドラミール」
ダークキングに聞こえないように、声は小声だ。
「僕ら一人一人の攻撃じゃ、衝撃が小さ過ぎたんだ。だったら、三人で一斉に同じ場所を狙った方がいい。そうすれば、衝撃は倍になる」
「でも、実際にはどうやるの?」
「それはね……」
ミーアノーアとスゥイの耳元でドラミールは囁く。
二人は頷いた。
「むっ、何だ?」
ダークキングがミーアノーア達の様子に気付く。
何か仕掛けてくるようだ。
「行くよ! 二人とも!」
「OK!」
ドラミールの合図に、ミーアノーア達が返事をした。
「アクアビーム!!」
ミーアノーアとドラミールが同じ場所を狙う。
ダークキングのお腹の辺りだ。
ピシッ。
バリアーにヒビが入った。
「スゥイ!」
そのヒビに向かってスゥイが剣を刺す。
「何をするつもりだ!?」
焦り出すダークキング。
剣はバリアーを貫通したが、まだ壊れない。
その剣に向かって、
「ライディンスピリッツ!」
雷の力が剣を通してバリアーに伝わり、衝撃が走った。
バリバリバリッ。
バリアーは粉砕される。
「何っ!?」
バリアーを壊されたダークキングは驚いた。
スゥイが剣を拾う。
さすがにあれだけの衝撃で壊れたかと思ったが、なかなかに丈夫な剣で大丈夫だった。
一応予備の剣もあるのだが、出す必要はなさそうだ。
ミーアノーア達の瞳がダークキングを捕らえる。
「さぁ、ダークキング」
ミーアノーアが聖麗剣を構えた。
「あなたの野望を打ち砕きます! 聖麗剣!」
「ふっ」
ダークキングが笑ったように見えた。
「えっ!?」
「ミーアノーア!」
「ミーアノーア様っ!」
黒っぽい霧が彼女の体を包んでいた。
その霧に触れたミーアノーアは動けない。
「くっ……!」
「無駄だ。足掻けば足掻くほど、そいつはお前の体を締め付ける」
痛みで叫ぶミーアノーア。
「止めろ!!」
スゥイが彼女を救おうと、霧の中に飛び込んだ。
ビシュウウウウ。
気合いを込めて剣を一振り。霧は消えた。
その場にへなへなとミーアノーアは座り込む。
「大丈夫ですか? ミーアノーア様」
「ええ、何とか……」
スゥイが手当てする。
「隙あり!」
ダークキングがダークネスパワーをミーアノーアめがけて撃った。
「危ないっ!」
咄嗟にドラミールが飛び込み、自分の剣でダークネスパワーを弾いた。
そのエネルギーは大地に激突する。
ドッシャーン。
あまりの凄さに地面はえぐれ、大きな穴が開く。
「あ、ああ……」
唖然とするミーアノーア達。
「どうだ。わしが本気を出せばこんな大地などひとたまりもない。お前達もなかなかの強さだが、その怪我ではもう戦えまい。せめてもの情け。苦しまぬよう一気に片付けてやろう」
ゴゴゴゴゴゴ。
ダークネスパワーのエネルギーが今までとは違う。
このままだとパラダイスワールドが本当に滅んでしまいそうな勢いだ。
小石が吹き飛んでいく。
風が何処からか吹いてきてダークネスパワーと重なり、巨大な竜巻を呼んだ。
「危なっ!」
何とかその竜巻を避けたものの、地面は傷つき、割れ、黒い闇が彼方から迫ってきていた。
「ミーアノーア様……」
ミーアノーアとスゥイは動けない。
ダークキングの高笑いだけが空に響いた。
「さぁ、恐怖の時間が始まろうとしているぞ! わしにとっては、楽しい闇の宴だがな! ハハハハハハ!」
そんな中、ドラミールはある決意をしていた。
「ダークキング。僕達は負けない。たとえ誰かが倒れても、次の誰かが必ずその意志を継いでくれる。そう信じている!」
ドラミールがダークキングに剣を向け叫んだ。
「ふっ。わしと戦うというのか? 愚かな奴め!」
「何とでも言え!」
ドラミールが剣を構えてダークキングに挑む。
その少し無茶な行動に、ミーアノーア達も心配顔で見つめていた。
カッ。
ダークキングの目が妖しく見開かれる。
「無駄だと言っているだろう!」
身体中のダークネスパワーをドラミールに向け発射するダークキング。
強烈な光が雲を蹴散らし襲ってきた。
その黒き輝きの中に、ドラミールの体が吸い込まれていく。
「ドラミール!」
半分泣きそうな顔で叫ぶミーアノーア。
友人が心配でたまらないのだ。
闇に閉じ込められたドラミールの体は、ボロボロに傷ついていた。
手足から赤い血が流れ、意識も薄くなっていく。
黒い光が晴れた時、ミーアノーアとスゥイがそこに見たのは、まっ逆さまに落ちていくドラミールの姿だった。
「ドラミール!」
地上に叩き潰された彼の体を、スゥイが抱え起こした。
ミーアノーアも側に来る。
「ううっ」
うっすらとドラミールが目を開けた。
「何て無茶な事をしたんだ!」
傷ついたドラミールをスゥイが叱る。
そのスゥイに向かって、ドラミールは笑いながら言った。
「守りたかっただけだよ。大切な人達を。二人とも、僕の友達だから」
「しかし……」
「そんな顔しないで、スゥイ。そして、ミーアノーア」
ミーアノーアは目を真っ赤にしていた。
「とにかく、これを飲んで」
ドラミールに薬草を水で溶かしたものを手渡す。
時間がない時でも飲めるように、工夫したものだ。
「ありがとう」
一口飲んだところで、ダークネスパワーの衝撃に襲われる。
気配を消して、ダークキングが近づいていた。
三人とも吹き飛ばされ、地に倒れた。
それでもーー、
よろよろとドラミールが立ち上がる。
「ほう」
その姿を見て、ダークキングが笑みを浮かべた。
「まだ戦うつもりか? 竜王子。そんなフラフラな体で」
「僕は負けない! 大切な人達を守るために!」
「ほう。ではその力を見せてみよ! ダークネスパワー!」
ダークネスパワーは、ドラミールの剣によって弾かれた。
彼の後ろには、スゥイとミーアノーアがいるのだ。
「ドラミール、無茶よ!」
ミーアノーアが起き上がり、ドラミールを助けようとする。
「ドラミール、まさか……」
スゥイは、嫌な予感に襲われていた。