絶望の宴
「とりゃーっ!」
先頭にたったスゥイが、その剣技で黒魔族を追い詰めていく。ミーアノーアとドラミールは魔法でカバー。戦士達も続く。
彼らの活躍で、黒魔族は残り僅かしか残っていない。
しかしミーアノーア達の軍勢も、ほとんどの戦士達がその若い命を散らし、絶望の中にいた。ダークキングにも、致命傷を与えることはできずに、時間だけが過ぎていく。
あまりにも長く、激しい戦いで、両者とも疲れきっていた。
「ほう、ここまで長くもつとは思わなかったぞ」
疲労の色を見せながらも、今だ余裕を失わないダークキング。
「わたし達が、すぐ負けるとでも思っていたのかしら?」
それに対しミーアノーアは強気の口調で返す。
「いや。敵とはいえあっぱれだと言いたかったのだ。女とか男とかいうことは関係なくな」
「それは、褒め言葉と受け取っていいのかしら?」
「そう受け取ってもらって構わんよ。味方になればこれほど強い者はいない。だが、お前は闇に落ちる気はないだろうがな」
「ええ」
ダークキングとミーアノーア、二人の顔が、少し笑った。
「ならば、倒しがいがあるというもの!」
ダークキングの手に、闇が集まってきた。
ミーアノーアは聖麗剣を構える。
「ダークネスソード!」
剣と剣がぶつかる鈍い音がする。
だが力比べでは、女のミーアノーアの方が不利だ。
「ミーアノーア、離れて!」
ドラミールがアクアビームを放った。
見事ダークキングに命中。
その隙にミーアノーアは聖麗剣でダークキングを斬った。
はずだった。
バシュッ。
黒い布が飛び散る。
聖麗剣で斬り裂いたのはダークキングの前に飛び出した黒魔族だった。
ダークキングは無事。
彼は怒りの目でこちらを見ている。
「許さん。許さんぞ。ミーアノーア……!」
爪が長く伸びていく。
それは鋭い刺に変わった。
両手の爪の刺がミーアノーアを狙う。
「ミーアノーア様っ!」
戦士達が彼女を庇うため走り出る。
「だめっ、あなた達!」
ズバズバ。
十本の爪が戦士達の体を貫く。
容赦なくダークキングはその爪を勢いよく抜いた。
「あ……」
血が固まらないうちに流れ出す。
「みんなっ!」
スゥイ、ドラミール、ミーアノーアが、倒れた彼らの止血をしようと布を巻くが、出血がひどい。
みるみる顔が青くなる。
「ごめん、ごめんね。みんな」
戦士達は痛みをこらえ必死に笑顔を作った。
「ミーアノーア様。スゥイ殿、ドラミール殿。泣かないで下さい……。我らは、あなた方とここまで戦ってこられて……、誇りに、思います」
「でも、こんな……」
「我々こそすみません。最後までお守りできなくて……。まだ戦いは続きます。諦めないで下さい。先にガウン達の所に、逝きます」
「だめ、だめだよ」
「ミーアノーア様……。スゥイ殿……。ドラミール殿。本当に、ありがとう、ござい、ました……」
そう言い残し、彼らは動かなくなった。
これでとうとう、ミーアノーア、ドラミール、スゥイ三人だけになる。
悲しみの中、ダークキングを見る。
守護の黒魔族は二人だけ。
涙を払い、ミーアノーアが叫ぶ。
「ここまで来たんだもの! 最後まで行くわよ、二人とも!」
「おう!」
二人が答えた。
ミーアノーア達三人が力を合わせダークキングに挑む。
「ダークキング様、ここは我々が……」
「うむ」
守護の黒魔族が前に出てくるが、スゥイとドラミールの剣であっさりやられてしまった。
「ダークキング、後はあなただけよ!」
「よかろう。お前達ともども、この世界を闇に変えてやるわ! ダークネスパワーっ!」
身体中のありったけの気を高め、攻撃するダークキング。
「キャアアアアア」
ミーアノーア達は吹き飛ばされ、後ろの岩に激突する。
それでも三人は立ち上がろうとした。
「愚かな。そんな体で戦っても、負けるだけだぞ」
ダークキングが彼女達を嘲笑うように言う。
「ダークキング……」
傷だらけの体でミーアノーアが立ち上がる。
「ダークキング。どんなに苦しくても、わたし達は負けません。たとえこの身が滅びようと、この世界を守り抜きます」
「愚かな! そんな勝利など、一体何になる!?」
「闇から生まれたあなたには、分からないかもしれません。けれどこの地上は、愛すべきとても良い世界です。動物も、植物も人間も、みんな生きています。この世界を守ることこそわたしの使命。だから闇の支配などさせない! 命に代えても、守り抜きます!!」
力強く言うミーアノーア。その勇姿に、ドラミール達も感激し、立ち上がった。
「さぁ」
ミーアノーアが聖麗剣を空に掲げる。
「行くわよ! 聖麗剣!」
真っ直ぐダークキングに向かって、剣を振り下ろす。
ニヤッ。
ダークキングが不気味な笑みを浮かべた。
「危ない! ミーアノーア!」
ドラミールがミーアノーアの体を地に伏せる。
ダークキングが両手のダークネスソードを使って、ミーアノーアの体を貫こうとしていたのだ。
それをドラミールは素早く見抜き、ミーアノーアの命を救った。
「ありがとうドラミール」
「うん。でも油断していちゃ駄目だよ。奴はどんな攻撃を仕掛けてくるか分からないから」
「そうね」
優しく微笑み合う二人。
その二人の姿を、ダークキングがじっと見つめていた。
「ふっ。良くかわした。だが次はどうかな?」
ダークキングが握っていた剣をミーアノーアの方に向ける。
その体からは暗闇に映える気を放っていた。
目の色が変わる。
「来るっ!」
ミーアノーア達三人もダークキングの動きは分かっていた。
再び両者の激しい激突。
体に残っている全ての力をぶつけ、その拳が宙に舞った。
ドカッ。ドカッ。
お互い一歩も譲らない。いや、譲れないのだ。
両者とも自分の意地がある。
それぞれの願いが叶う日まで負けられない。
両者の激しい争いのために、大地は傷つき、ひび割れていく。
風が何処からかやってきて、ミーアノーア達の髪を揺らした。
遠くを見渡すと、どこまでも続く緑の大地が広がっている。
(この美しい大地、わたしは好き。だから守りたい)
彼女の強い意志がその手にかざした聖麗剣と重なり、邪悪なものを滅ぼそうとしている。
スゥイとドラミールが少しでもミーアノーアの力になろうと援護をする。
三対一の戦いだ。
だがダークキングはそんなこと気にしていない。
「フハハハハハ。何人かかってこようと同じこと! では、ちょっと面白い物を見せてやろうか」
「何っ!?」
突然、ダークキングの回りの闇が集まり、硬い膜に変化した。
ミーアノーア達の攻撃が遮られる。
「バリアー?」
それは直径五メートル位の円形となった。
強力なバリアーだ。
ちょっとの衝撃では崩せそうもない。
「あのバリアーを破らなければ、ダークキングに攻撃はできないわ」
悲しげな声で呟くミーアノーア。
スゥイが慰める。
ドラミールは、じっとバリアーを見つめていた。