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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第3章終わりと始まり
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龍の償い

 ドラミールは怒りの表情のままその場に立ち尽くして動かない。ダークキングやミーアノーアの言葉も聞こえているようだ。

 気が、たかぶっているのが分かる。

 このままだと闇に飲み込まれてしまう。


「ドラミール……」


 気持ちを落ち着かせようとミーアノーアが近づく。

 優しく手を触れようとするが、その手をドラミールは拒んだ。

 ミーアノーアを突き飛ばす。


「僕に触れるな!」

「ドラミール!」


 ミーアノーアを支えたスゥイがドラミールを睨んだ。


「ドラミール、何てことを……!」


 ドラミールは二人の方を向き、言った。


「スゥイ、ミーアノーア。僕は信じていた龍に裏切られたんだ。母親だと思っていたその龍に。僕の家族は、村は、奪われたんだ!」

「ドラミール、それは……」

「僕はたまたま、壊れた家の隙間にいて助かったんだな。本来なら、死んでいてもおかしくなかった。どうせなら、その時に……」

「ドラミール!」


 ミーアノーアが、ドラミールの頬をビンタした。


「……っつ、何を……」


 ミーアノーアは涙目で訴える。


「ドラミール、そんなこと言っちゃだめ! 聖なる龍だって、あなたを大切に思ったからこそ、ここまで育ててくれたのよ。たとえそれが罪を償う為でも、それが龍の気持ちだったから」

「………」

「それに、あなたが生きていたからこそ、わたし達はこうして出会えた。わたしは嬉しいよ。あなたと巡り会ったこと。仲間になれたこと」

「……!!」

「だから、ね。自暴自棄になるのはやめて。わたしが……、ううん。わたし達がいるから」


 ミーアノーアがドラミールの手を握る。

 その上から、スゥイも手を重ねた。


「スゥイ、ミーアノーア……」


 二人の友情に触れ、ドラミールはいつもの笑顔を取り戻した。


「母上……」


 聖なる龍に呼びかける。


「ドラミール。どうやら落ち着きを取り戻したようですね。もう、何を言っても言い訳になるでしょうが、あの日、瓦礫の下のあなたを救いあげた時、あなたは笑っていた。何も知らない、無邪気な笑顔で。その太陽のような笑顔を見た時、わたしの中の闇は晴れたのです。そして、この子を守らなくては、せめて立派に育てなくてはと思ったのです」

「それが……」

「残された命を守ること、それがわたしの償いです。ドラミール。あなたの笑顔に、わたしは救われました。今度は、わたしがあなたを守りたい。たとえ、命を捨てても」


 聖なる龍のその言葉を聞き、ドラミールの中に、小さい頃の思い出が蘇った。人一人いない龍の穴の暮らしが嫌でわがままを言った時も、モンスターに負けて泣いて帰って来た時も、龍は優しく諭し、慰めてくれた。それはまさに、母そのものだった。

 まだモヤモヤしている気持ちはあるけど、龍の言葉は本当だと思うし、何より彼自身、聖なる龍に死んで欲しくなかった。

 

「母上。ありがとうございます。けど、命は捨てないで下さい。僕を育ててくれて、感謝しています。僕はあなたに、生きていて欲しい」

「ドラミール……」

「母上、僕はあなたが、大好きですよ」

「……ありがとう」


 その二人の会話を側で聞いていたミーアノーアとスゥイは、ほっとした。


「良かった……」

「ええ、本当に」


 後ろの戦士達も笑顔だった。

 みんな、ドラミールが好きなのだ。

 同じ正義を貫く仲間として。


 一方、面白くなかったのはダークキングだ。

 もしドラミールが闇の支配下になれば、強い戦力になる。そして、それによって動揺したミーアノーア達を、楽に倒せるかもしれなかった。


「ムムムム」


 悔しさを隠せない。


「いいだろう竜王子。それほどまでに聖なる龍を信じるならば、その絆、わしが奪うまで」

「何をする気だ?」


 ダークキングの表情が変わった。

 何か企んでいる目だ。


「フフフ……。見ていれば分かるさ」


 右手を高く突き上げる。


「はっ?」


 ドラミールは嫌な予感がした。


「母上っ!」


 聖なる龍に警戒を促すがーー、

 ダークキングの方が早かった。


「牙龍の谷の闇よ。我が意志に従い、聖なる龍の力を奪え!」


 バチバチバチッ。


 牙龍の谷の闇が膨らみ、龍は動きを封じられる。

 無数の小さな稲妻が、龍の力を奪い取っていく。


「ああああああーーっ!」


 龍の苦しむ声が聞こえた。


「母上っ!」


 ドラミールはなんとか止めさせようとダークキングに魔法を放つ。


「フレイムガン!」


 身を呈してダークキングを守る黒魔族。


「いいぞ黒魔族達よ! 奴らを足止めしろ!」

「くっ……!」


 ミーアノーア達はダークキングに近づけない。

 その間にも聖なる龍の力は吸い込まれていく。

 ダークキングの腕を通り、龍の力が彼の中に入ってきた。


「これが龍の力……! 素晴らしい。わしの中に力が溢れている!」


 聖なる龍の声が聞こえなくなった。

 気を失ったのか。


「まあ、この位にしておこうか……。さて、試してみるとするか」


 ダークキングはそう言って、ハッと気を発した。

 その威力にミーアノーア達全員吹き飛ばされる。


「キャアアアアア」


 したたかに体を打ち付けた。


「うう……」


 ミーアノーア、ドラミール、スゥイ、数人の戦士達が立ち上がる。

 戦士達はみんなスゥイに鍛えられた者。

 そう、あのガウン達と一緒にグランドキャッスルを守っていた者達だ。

 傷ついていたものの、戦意は衰えない。


「ほう、さすがだな」


 ミーアノーア達の気迫を見てダークキングは言う。


「あの力を受けても倒れないとは。救世主とその仲間達は、なかなか楽しませてくれる」


 ミーアノーアが答える。


「わたし達はあなたを倒すと誓いました。死んでいった人達のためにも、この程度では諦めません。たとえ、あなたの力が強くても」

「ならばわしも全力でお前を潰す。さぁ、行こうか」

「来なさいダークキング!」


 再び、激しい戦闘が始まった。





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