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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第3章終わりと始まり
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罪と罰

 ある日の午後。ドラミールはいつものように外で風に吹かれていた。今日の戦士達の訓練はスゥイの番。ミーアノーアは今頃、子どもの世話をしている。

 小さな頃からドラミールは、こうして風に吹かれるのが好きだった。

 聖なる龍はたまに谷の外に飛ばしてくれる。牙龍の谷で剣や魔法の修行に明け暮れていたドラミールにとって、それは至福の時間だった。


 晴れた日は、遠くまで見渡せて気持ちいい。そして人間達が住む村を見ながら、ドラミールは本当の家族のことを考えていた。

 自分は何故、牙龍の谷にいるのだろう。みんなはどこにいるのだろう。

 もちろん、聖なる龍には言わない。悲しむことが分かっているから。


 牙龍の谷は、まるで迷宮のよう。出てくるモンスターも繰り出される罠も、日によって違う。ただ、上から下に降りるのだけは確かだ。そうすれば龍の穴に着く。逆に龍の穴からは、上に行く入り口さえ見つければ、外に出られる。

 小さい時は龍の力を借りていたが、魔法や剣術を覚えるにしたがって、モンスターを倒せるようになり、自力で外に出られるようになった。ロープや丸太など、道具を工夫して使い、運動能力もアップした。

 聖なる龍はだんだん強くなるドラミールを喜んで見ていた。修行の場所としては、牙龍の谷は最適の場所だったのだろう。そして立派な戦士となった彼を、龍はミーアノーア達の所に送り出した。


 彼女達と出会ったことは、ドラミールにとってとても嬉しいことだった。初めて仲間という存在を感じ、親友を得た。ずっと牙龍の谷にいたら、経験できなかっただろう。

 同じ人間と話すのは初めてじゃない。他の村で買い物をしたり、子ども達と触れあったり、時には恋愛をしたり。けど、こんな風にずっと仲間として黒魔族と戦うことは初めてだった。


「もう一年経つのか……」


 聖なる龍は元気だろうか。大きくなるにつれ、育ててくれた龍に感謝を覚え、本当の家族に会いたいとは思わなくなっていた。

 しかし、気になることが一つだけある。

 龍が自ら動いて穴から出るのを、あまり見たことがないのだ。ずっと一定の場所から動こうとしない。気や魔法を使ったことはある。料理は、ドラミールが自分で作っていた。龍は、草やドラミールが採って来た木の実を好んで食べていた。時には、やっぱり肉も食べるが。それでも、まるで罰を受けているように穴の中に閉じこもっている。

 何故なんだろう?

 ドラミールはそれが引っかかっていた。



「そろそろ戻ろうか」


 戦士達の訓練が終わった頃だろう。ドラミールはグランドキャッスルに戻る準備をした。彼がいる所は花壇の近くの木の下。ここがお気に入りの場所だった。

 ふと、誰かの気配を感じる。

 ミーアノーアやスゥイじゃない。


「誰だ?」

「わしだよ」


 その者はドラミールの後ろにつく。


「!!」


 その闇の気配に、ドラミールは剣を握り斬りかかった。


「ダークキング!」


 ダークキングはサッと避ける。


「慌てるな竜王子。わしは戦いに来た訳ではない。ミーアノーアの赤子を見に来ただけだ」

「何っ!?」


 ミーアノーアの子どもに何かするのではと、ドラミールは警戒した。


「冗談だ。本当はこれを渡しに来た」


 白い紙を手渡す。


「これは、挑戦状……!」


 内容を確認したドラミールは驚く。


「そうだ。それをミーアノーアに渡せ。それと竜王子。お前聖なる龍に疑問を抱いているな?」

「何か知っているのか?」

「フフフ。全てはその時に教えてやろう。せいぜい準備を整えておけ。こちらとしても、万全な態勢で最後の決着をつけたいからな。では、さらばだ」


 音もなくダークキングは消えた。

 ドラミールは戸惑っている。


「一体、母上の何を知っているんだ……?」


 とにかく、ミーアノーアに手紙を渡そう。

 全てはそれからだ。

 ドラミールはグランドキャッスルの中に消えた。



 中に入ると、ちょうど司令室の前でミーアノーアとスゥイに出会った。赤ちゃんは、眠っているようだ。

 ドラミールは早速手紙を渡す。


「ダークキングに会ったの!?」


 ミーアノーアは驚きながらも手紙を読んだ。

 スゥイも脇から覗き込む。


 〈挑戦状。救世主ミーアノーア。

 二週間後、場所はチルルの丘の上で待っている。

 お前と最後の決着をつけたい。ダークキング〉


 チルルの丘はパラダイスワールドの中央付近にある小高い丘だ。


「どうするミーアノーア。この勝負受ける?」


 不安そうにドラミールが尋ねる。

 ミーアノーアは少し考え、迷いを振り払うように笑った。


「もちろんよ」


 彼女の答えには力強さがあった。


「分かりました。俺はみんなを司令室に呼びます。決戦までの準備をしましょう」

「分かったわ」


 スゥイが戦士達を呼びに行く。

 決戦まで二週間。できることはやっておかないと。

 運命の時は待ってくれないから。


 司令室。戦士達に二週間後の事を説明したあと、ドラミールがある提案をした。


「スゥイ。ミーアノーア。決戦まであと二週間ある。戦いの準備をするのもいいけど、この間にやるべき事をやっておかないか?」

「やるべき事?」


 ミーアノーアが何の事か分からず尋ねる。


「君たち二人の結婚式だよ。僕、君のドレス姿が見たいな」

「えっ、ええええ!?」


 突然の提案に戸惑うミーアノーアとスゥイ。


「な、何を言うのドラミール。こんな時に」

「こんな時だからだよ。未来はどうなるか分からない。君は、後悔しないの?」

「うっ……」


 ズバッとはっきり言われてしまう。

 その雰囲気に、戦士達も乗って来た。


「ミーアノーア様。我らもドラミール殿の意見に賛成です。二週間という期限を切った以上、ダークキングの軍勢は攻めて来ないでしょう。彼らも疲弊しているのだと思います。その間に是非、式をお挙げ下さい。死んだデンカ達も、きっとお二人の幸せを願っています」

「ええ。我ら一同、喜んで祝福させて頂きます」

「みんな……」


 ドラミールや戦士達の提案を受け、ミーアノーアとスゥイは素直に喜んだ。


「ありがとうみんな。じゃ、そうさせて貰うね」


 ドラミールは笑顔で言う。


「よし。それじゃ式の準備だ!」


 彼は戦士達と司令室を飛び出した。

 その日、ミーアノーアとスゥイが結婚式を挙げるという話は、瞬く間にグランドキャッスル全体に広がった。

 女官達も生き生きしている。

 彼女達はこの日の為に、密かにミーアノーアとスゥイの衣装を用意していたのだ。

 噂はやがてパリークを飛び出し、パラダイスワールド全土を駆け抜けた。

 式の当日は二人の事を祝おうと、大勢の人が訪れた。


 白いドレスに身を包んだミーアノーアが、ドラミールに手を引かれ歩いて来る。

 神父の前では、これまた白い衣装を着たスゥイが待っていた。

 普段の見慣れた戦闘服とは違って、こうして女性らしい華やかなドレス姿だと、違った印象に見える。

 今日はまた、一段と美しい。

 スゥイは赤い顔で、新婦に見とれていた。

 人々の間から祝福の声が漏れる。


「ミーアノーア様、スゥイ殿。おめでとうございます!」

「どうかお幸せに」


 二人は幸せを噛みしめながら、永遠の愛を誓った。



 そして、ダークキングとの約束の時。

 ミーアノーアの軍は、戦える戦士と、傷を治す女官合わせて五百人ほど。

 この決戦に向けて、国中からかなりの志願兵が集まってくれた。

 それにミーアノーア、スゥイ、ドラミールがいる。

 グランドキャッスルにはまだ赤子のサイーダと、世話をする女官と城を守る兵士が残った。

 戦うことのできない住民達も、ミーアノーア達の無事を祈りながら、戦いの行方を見守っていた。

 チルルの丘には、すでにダークキング達が来ていた。

 彼ら黒魔族は、ミーアノーア達より多い千人近くが集まっていた。

 この二週間で、彼らも魔空間から集結したのだろう。

 しかし戦いは数じゃない。

 ミーアノーア達には勇気がある。

 ダークキングがミーアノーアを見つけた。


「逃げずによく来たな。ミーアノーア」

「わたしは逃げません。あなたを倒すまでは」

「お別れの挨拶は済んだのか? それなりの時間は与えたはずだが」

「お別れの挨拶? いいえそんな物は。ただ、やるべき事はやって来ました」

「ならばいい。それにしても、我らの因縁も長く持ったものだ」

「そうですね。しかし、それも今日で終わりです。決着をつけましょう」

「望むところだ」


 ダークキングとミーアノーアのにらみ合い。

 バチバチと火花が散る。


「それじゃ始めようか。者供、かかれ!」


 ダークキングの命を受け、黒魔族が襲ってきた。


「こっちも行きましょう!」


 ミーアノーア達も負けじと攻める。


 ガシッ、バシッ。


 血しぶきが舞う。

 あちこちで激しい叫び声が聞こえた。


「とりゃーっ!」

「てえええーっ!!」


 敵味方問わず、たくさんの人が地に倒れた。


「ロック!」


 ドラミールの魔法で巨大な岩が何個も落ちる。


「やるな竜王子。魔法は全部聖なる龍から教わったものか?」

「そうだ。母上は優しくて強い龍だ!」

「その優しさが、自分の犯した罪からきているとしてもか?」

「何っ!?」


 ドラミールの動きが止まる。

 ダークキングは嬉しそうにニヤッと笑った。


「そうだ。聖なる龍は罪を犯している。その罪を償う為、自らあの穴の中に閉じこもったのだ」

「どういうことだ?」

「知りたいか? ならば教えてやろう。聖なる龍は牙龍の谷の近くにあった村、マジック村を、その力で滅ぼしている」

「……!!」

「牙龍の谷の魔力に触れてな。そして竜王子ドラミール。お前はそのマジック村のただ一人の生き残りだ」

「……う、嘘だ」

「嘘ではない。聖なる龍は建物の隙間にいた赤子のお前を見つけて、自分の子どもとして育てることにした。牙龍の谷に閉じこもったのは、マジック村を滅ぼした罰として、中からこれ以上闇が広がらないように抑え込む為だ。自分の命を削りながら。これが真実なのだよ。竜王子」

「くっ……!」


 ドラミールの顔が青くなる。

 彼は天に向かって叫んだ。


「母上。教えて下さい。今の話は本当ですか? 母上が、僕の家族を、殺したと……?」


 聖なる龍の声が聞こえてきた。


「ドラミール……」

「母上っ!」


 聖なる龍の声は泣いていた。


「ごめんなさい。ダークキングの言うとおり、全ては、わたしの罪です」

「そ、そんな……」

「あなたに真実を伝えなかったこと、謝ります。母親として、息子を失う恐怖があったのです。ごめんなさい。せめてあなたを立派に育てることが、わたしの償いでした。あなたの家族を奪い、故郷を奪った罪は消えません。ですから、これ以上闇が広がらないように、穴の中から抑えようと思ったのです」

「あ、ああああーーっ!」


 ドラミールが頭を抱えて泣き叫ぶ。

 その顔は怒りに満ちていた。


「ドラミール!」


 ミーアノーアが何かを感じた。

 ダークキングが誘う。


「いいぞ竜王子。そのまま闇の力に包まれろ。そして、憎き世界を壊せ!」

「ああああーーっ!」


 ドラミールは頭を抱えたまま悩んだ。


「ドラミール! だめっ!」


 ミーアノーアの叫びが響いた。




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