悲劇の連鎖
黒魔族とダークキングによって、ガウン、ライとカイという三人の戦士が無念の死を遂げた。ミーアノーア達は結界によってグランドキャッスルの中に閉じ込められ、出ることはできない。
「ううっ……」
ミーアノーアは床に両手をつき泣き崩れる。
「ミーアノーア様……」
スゥイが彼女の体を優しく抱き、落ちつかせる。
彼も悔しかった。
自分が技を教え、育ててきた戦士達が、目の前で殺された。
塔の中に残った戦士達も、仲間の死に涙を流し叫んだ。
ドラミールは必死に結界を破る方法を考えている。
早くしないと残った三人、ミルディ、ジュール、デンカまで殺されてしまう。
ダークキングが周りにいた黒魔族に命令を下した。
「よいかお前達。もう塔は壊さなくていい。その代わり、わしを守りつつあいつらを倒せ!」
ダークキングの命を受けた黒魔族達がミルディ達に迫る。
「ミルディ、ジュール、デンカ!」
失意のどん底にいた彼らは、ドラミールの声に慌てて動き始める。
四人の黒魔族の内、一人は魔法が得意なようだ。その一人だけ残って、あとはかかってきた。ミルディ達は剣で応戦する。
ミルディの相手も剣を持っていた。だが、その剣は異様にでかい。相手を斬るというより、重さで押し潰すと言った方がいいか。
ジュールの相手は鞭を使い、デンカの相手は槍の使い手だった。
「うっ」
ジュールが鞭に当たり剣を飛ばされる。その剣を素早く取りに行こうとするものの、黒魔族の鞭で腕を固定されてしまう。そして動けなくなった所を魔法で狙われた。
「ぐわっ……!」
アクアビームに胸を貫かれた。口から血を吐く。どうやら、魔法力が非常に高い敵のようだ。だが彼は諦めない。炎の魔法を、その魔法が得意な黒魔族に放った。
炎が命中し、飛ばされた先にダークキングがいた。まさか黒魔族が飛んでくるとは思わなかったダークキングは、避けきれず爆発を受けてしまう。
「むうっ」
咄嗟にガードしたものの、ダメージを少しは受けたようだ。その瞬間、グランドキャッスルの結界が弱まった。
ドラミールが気付く。
「結界が弱まった? そうか、ダークキングにダメージを与えれば。しかし……」
「ならば、オイラが!」
「ミルディ!?」
ジュールの頑張りを見て気合いが入ったミルディ。相手が力任せに剣を振りおろしたのをジャンプして避け、そのでかい剣の上にヒョイと乗る。
「!?」
そのまま剣をつたい相手の懐に飛び込み、連打を浴びせる。
黒魔族は吹き飛びながらバラバラになる。その爆発に隠れて、ミルディはダークキングに魔法を仕掛けた。
「エレクトロニック・サンダー!」
さすがに今度はダークキングも読んでいた。颯爽と避ける。
が、時間差で飛んできた黒魔族。最後の力で、ジュールが飛ばしたのだ。
「わっ!」
ダークキングにダメージ。ジュールは倒れる。
「ジュール!」
デンカが、自分と戦っていた黒魔族の槍をへし折り、ジュールに駆け寄る。
ミルディも戻った。
ジュールの頭を起こす。
「ミルディ、デンカ……、ボク、やったよ……」
「うん、うん。やったな」
一番年下で、気弱だったけど、他の戦士達のことを兄ちゃんって慕って、可愛かった。
ミルディとデンカは泣く。
「先に逝ったみんなに、会える……か……な……。ありがと。兄ちゃん達……!」
最後は笑顔で逝った。
ミルディとデンカ、塔の中からも号泣が響く。
「くっ……!」
ドラミールも悔し涙を堪えていた。
ダークキングの結界は、だいぶ弱まってはいるものの、あとひとおし足りない。
「ミーアノーア、スゥイ! 僕らの気で、結界を破る!」
「分かったわ!」
泣いていたミーアノーアが立った。
犠牲になった戦士達のために、自分達も頑張らないと。そして何より、ミルディとデンカを助けなければ。
「はあああああっ……!」
ミーアノーア、スゥイ、ドラミールが気を溜めて結界にぶつける。
ピシッという音がした。
「もう少し……!」
「ミーアノーア様! 我らも!」
周りの戦士達も一緒になった。
「させぬわ!」
ダークキングが結界を強めようとする。
「ダークキングゥゥゥゥ!」
怒りのミルディとデンカがかかってきた。
黒魔族が邪魔をする。
「邪魔だ!」
二人の怒りの前に、呆気なく黒魔族はやられた。
そのまま勢いに乗り、
ザクッ。
ダークキングを斬った。
浅かったけど、ダメージは与えられた。
「貴様ら!」
ダークネスパワーで跳ばされる。
「ううっ……」
「許さぬ。許さぬぞ」
ダークキングの目は血走っていた。
腕に気を溜める。
黒い剣に変わった。
「串刺しにしてやろう」
ミルディとデンカの下に近づいていく。
その時ーー、
パリーン!
結界が割れた。
ミーアノーア達が降りてくる。
「ミルディ! デンカっ!」
ダークネスソードは彼らの眼前に迫っていた。
「アイソトニックブリザード!!」
魔法でダークキングの注意を引き付ける。
ミルディとデンカは、ドラミールとスゥイに助けられた。
がーー、
ダークキングの姿が消えた。
「何っ!?」
凄いスピードで、ミーアノーアの前に現れる。
「!!」
ガードができない。
「ミーアノーア、そのお腹の子どもごと死ね!」
「だめだっ!」
ミーアノーアを庇い、ミルディが背中から切られた。
剣は腹を貫いている。
「ミルディ!」
「だめだデンカ!」
スゥイの静止を聞かず、デンカが突っ込む。
ダークキングはミルディを貫いた剣を勢いよく抜き、デンカを斬った。
「ミルディ! デンカ!」
ミーアノーアが叫ぶ。
ダークキングはハハハと大笑いした。
「言ったはずだぞ。そいつらの命だけでも頂くと。まあ、塔が破壊できなかったのは残念だったがな」
ミーアノーアがキッと睨む。
スゥイ、ドラミールも剣を構えた。
「まあ、そういきり立つな。わしはここで退く。だが、いずれ決着はつけるぞ」
言うだけ言ってダークキングは消えた。
「……ミーアノーア、様……」
「ミルディ、デンカ!」
倒れた二人を抱き寄せる。
「いけません。お洋服が、汚れ、ます……」
「わたしの心配より、あなた達が!」
女官が回復魔法をかけようとするのを、二人は断った。
「もう、良いのです。ミーアノーア様……、スゥイ殿。今まで、ありがとう、ございました」
「何を言うの。そんなことっ……!」
「我らは、今まで幸せでした。お二人に、出会えて……。良い、ご両親に、なって下さい……」
「だめ、だめよ……」
「ドラミール殿。お二人を……、守って差し上げて、下さい」
「ミルディ、デンカ!」
「みんなが、待って……」
静かに、二人は目を閉じた。
守って、あげれなかった。
大切な、戦士達を。
女官達の、すすり泣く声が聞こえる。
悲しい風が、包んだ。
そして時は戻りーー。
「ガウン。ライ。カイ。ジュール。ミルディ。デンカ……。わたし達の、子どもよ」
両手にサイーダを抱いたミーアノーアは、スゥイやドラミール、残った戦士達と共に、墓参りに来ていた。
墓はダークキング達黒魔族に荒らされないように、パリークから離れた場所にある。見晴らしのいい場所だ。
「わたし、あなた達のこと、忘れないから」
ミーアノーアは誓った。
彼らのためにも、黒魔族を倒す。そして、平和な世界を作るのだと。
スゥイ達と顔を見合せ、空を見上げる。
(みんな、見守っていて……)
ガウン達はきっと、空の上で笑っている。
そんな気がした。
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