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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第3章終わりと始まり
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悲劇の始まり

 それから一年が過ぎ、ミーアノーアは可愛い女の赤ちゃんを産んでいた。名前はサイーダ。顔はミーアノーアとスゥイのいい所を取ったらしい。目がパッチリとした子だった。肌は白く、髪はスゥイに似て金髪。とにかく、この子は将来美しく育つと、誰もが予想していた。


 ミーアノーアの妊娠中は、スゥイはもちろん、ドラミールや女官達、街の方々など、さまざまな人達がサポートしてくれた。戦闘中は、剣をふるって激しい攻撃ができないため、前衛はスゥイとドラミールに任せ、ミーアノーアは後方に下がり、魔法で援護をしていた。ちなみにまだ、スゥイとミーアノーアは夫婦になっていなかった。今は黒魔族との戦いの最中なので、結婚は後回しにしていたのだ。

 みんな、子どもが産まれるのを楽しみにしていた。

 そう、彼らもきっとーー。



 それは、妊娠八ヶ月目の事。ミーアノーアのお腹は、すっかり大きくなっていた。

 お腹の赤ちゃんに毎日話しかける。

 スゥイもお腹に手を当てたり、顔を近づけたりして、その日を楽しみに待っていた。

 初めての妊娠だったから不安もあるけど、みんながサポートしてくれるから怖くないよ。だから、あなたも元気で産まれてきてね。ミーアノーアの言葉に返事をするように、赤ちゃんはお腹を蹴ってくる。


「スゥイ、またお腹を蹴ったよ」

「それは元気な赤ちゃんです。早く産まれておいでよ」

「お父さんになるんだものね。スゥイ」

「ミーアノーア様もお母様ですよ」

「クスッ。そうね」


 通路を歩く二人が微笑ましい。


「やぁ、ミーアノーア。スゥイ」

「ドラミール」


 ドラミールが手を振り歩いてくる。

 訓練場で、戦士達と訓練した帰りだろう。

 彼はスゥイと交代で、戦士達の訓練を引き受けていた。

 彼のように、魔法剣士になりたい者も多くいる。


「魔法を教えるのも大変だろう。悪いな、ドラミール」

「いや、そうでもないよ。基本的なことを覚えればあとは簡単。要は自然のエネルギーを借りればいいから」

「そうか。これで黒魔族で特殊な技を使う者にも、対抗できるといいな」

「うん、そうだね」


 元人間だった黒魔族の中には、その時に身につけた特技や趣味を利用して、特殊な攻撃をする者がいた。

 そればかりではない。元は普通に暮らしていた動物達も、闇に触れた途端魂が黒く染まり、黒魔族のモンスターとして覚醒していた。

 それらの強力な敵と戦うには、こちらも戦力を増やさないといけない。戦士達が魔法を覚えてくれることは、ミーアノーア達にとっても嬉しいことだった。

 彼らが攻めて来たのは、そんな矢先のこと。


 ドゴォン。


 グランドキャッスルを衝撃が襲った。

 塔が左右に揺れる。


「な、何?」


 パニックになる住民達を、スゥイとドラミールが部屋の中に避難させる。


「ミーアノーア様!」


 窓から外の様子を見る。

 揺れがおさまった時、闇の中から現れたのは、ダークキングと数人の黒魔族だった。


「ダークキング!」


 窓を開けて叫ぶ。

 スゥイとドラミールが外に飛び出そうとするが、


「無駄だ」


 グランドキャッスル全体に、結界が張られていた。

 これでは外に出ることはできない。

 ダークキングが叫ぶ。


「どうだ。お前達はこれで外に出ることはできない。これで塔ごとお前達を倒すことができる」

「どういうことだ?」

「ここにいるこいつら、何だと思う?」


 ダークキングは縦一例に並んだ黒魔族を指さした。


「こいつらの体の中に、爆弾を仕込んである。そして、こいつらを塔に突進させる。これでお前達も終わりだ」

「何だって!?」

「フフフ……。さぁ、じっくり行こうか」


 ダークキングが黒魔族に命令を出す。

 一番前の者が走る。


「させない!」


 黒魔族の脇から誰かが追いついて来た。

 黒魔族の前に立ち塞がり、斧を振り回す。


「ガウン、戻って来たのか!」


 グランドキャッスルの中からスゥイが叫ぶ。

 ガウンの振り回した斧は黒魔族に直撃して、天高く飛ばした。

 黒魔族はそのまま爆発。木っ端微塵になる。


「スゥイ殿、ミーアノーア様。ここは、我らにお任せを!」


 ガウンはスゥイが火山に捕まった時、弱ったスゥイを背負ってくれた、力のある戦士。それだけではない。双子のライとカイ。ひょうきんなミルディ。気弱なジュール。無口なデンカ。

 彼らは別な所でモンスターを退治していて、戻って来た所だった。

 グランドキャッスルの前に立ち、武器を構える。


「無茶だ。お前達だけじゃ!」

「しかし今我らが闘わねば、グランドキャッスルは爆発してしまいます。それに、ミーアノーア様は身重のお体。スゥイ殿、あなたは父親になられるのですよ。大事なお二人を、死なす訳にはいきません」

「待てお前達! 死ぬ気か!?」

「先に行きます!」


 ガウンが突っ込んだ。

 次の黒魔族は女の戦士だ。

 ガウンが突撃してきたのを見て、背中の弓矢を構える。

 ガウンはうまく避けたつもりだったが、両腕に食らってしまう。

 女の戦士は塔に向かって進む。

 ガウンは痛む腕で斧を投げつけた。

 振り向いた女の矢が心臓を貫く。同時に、女にも斧が当たった。

 女は爆発。ガウンは倒れ息絶えた。


「ガウン……っ!」


 むなしいスゥイの叫び声。


「くそっ!」


 双子の兄弟ライとカイが、仇を討とうとする。

 律儀に黒魔族も二人組だ。

 この双子の兄弟は、格闘を主体とした戦法だ。

 双子ならではの息のあったコンビネーションで、黒魔族を翻弄する。

 ライの鋭い連続の蹴りが決まった。

 相手は空中に投げ出されるが、回転してうまく着地した。そして猛スピードでライに体当たりする。


「ぐはっ……」


 グランドキャッスルに激突。壁に背中をつけたまま首を絞められる。


「ライ!」


 カイが黒魔族の頭に向かってかかと落としをし、すんでの所で爆発からライと共に逃れる。

 グランドキャッスルには大した被害はない。

 が、そこで油断した。もう一人迫っていた。


「危ない!」


 ミルディが叫ぶが間に合わず、その時には振り向いたカイがナイフで切られていた。

 血の量が半端ない。


「カイ!」


 ミルディ、ジュール、デンカが近づこうとする。しかし、ダークキングに邪魔された。


「やらせん!」


 ダークネスパワーに飛ばされる。

 ライは呼吸を整え、カイを切った黒魔族のボディにパンチを浴びせる。黒魔族は仰向けに倒れた。途端、ライの体を両足で挟んだ。


「は、離せ!」


 黒魔族がニッと笑う。そして爆発した。

 双子の兄弟は健闘むなしく、無念の死を遂げた。


「ライ、カイ……」


 ミルディ達が失意の表情で、フラフラとやってくる。


「さぁ、面白くなってきたな。そっちはあと三人か。こっちは、わしを含めて五人いるぞ」


 ダークキングが言った。


「止めて! もう止めてっ!」


 塔の中からミーアノーアの泣き叫ぶ声がする。


「フハハハハハ! いい顔だなミーアノーア! 確かに、この人数では塔を壊すことはできんか。だが、わしを侮辱したこいつらは許せん。一人残らず殺してやろう」


 ダークキングがニヤリと笑う。

 ミルディ達の背中に、悪寒が走った。





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