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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第3章終わりと始まり
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それからの二人

「ミーアノーア。君はやっぱり、スゥイを選んだんだね」


 スゥイとミーアノーアが結ばれたことを悟ったドラミールは、訓練場の壁に寄りかかるようにして寂しそうに呟いた。

 最初から、分かっていたことだった。

 二人の間には、特別な絆があると。

 ただこの場所で、ミーアノーアが自分に向ける眼差しに、期待していたのも事実だった。


「フッ」


 小さく自嘲する。

 彼女がどちらを選んでも、お互いにいい友達でいよう。スゥイとの約束だ。だから、尚更つらい。


「スゥイ。僕は君が思うほど、そんなに大人じゃないよ」


 回りには誰もいない。この呟きも聞こえない。

 手を目頭に当てて上を向く。涙がこぼれ落ちないように。それでも一筋、熱いものが頬を伝う。

 好きだった。本当に好きだったから。

 彼はしばらく、そこで悔しさを堪えていた。

 そして気持ちの整理がついたら、すっぱりと忘れよう。スゥイに任せられるように。


 実は、女官三人が陰からその様子を見ていたのだが、ドラミールの気持ちを考え、近付かないでいた。声をかけたら、よけいドラミールは傷つくと思ったから。みんな、この三角関係の行方を、ハラハラしながら見守っていたから、スゥイの気持ちも、ドラミールの気持ちも知っている。そのさりげない優しさが、ドラミールの力になった。



 一方の黒魔族。

 ダークキングがパラダイスワールドに放った闇により、心を操られ、黒く染まる人達の数が、だんだん増えてきた。かつては仲良くしていた者達が悪に染まり、敵になり、破壊を繰り返すさまに人々は恐怖を覚え、嘆き悲しんだ。ミーアノーア達も頑張っているが、それでも間に合わない。


 しかしそんな中、各地の街や村の人達の中から、自分たちも戦うという意思を持った者達が現れ、救世主達を助けてくれた。


 もうパリークだけじゃない。パラダイスワールド国中が協力しなければ闇には勝てない。


 なるべくなら、一般の人達を危険には巻き込みたくなかった。が、そんなことを言っていられる状況じゃないことも事実だ。そこで、一般の人達には後ろで援護してもらい、ミーアノーアたちは前線に出て、黒魔族を引き付けていた。



 そんなある日ーー、

 ミーアノーアはスゥイ、ドラミール、数人の戦士とお供の女官を連れて、ラキ村を訪れていた。この村は、今は村人一人いない。以前ミーアノーアが(たず)ねた時、闇の支配から逃れようと、村長以下村人全員北の方角に避難した。そのために草木が生える荒れ果てた土地になり、魔物の棲みかになってしまった。

 今日彼女達は、その魔物を退治するためにここへ来たのだった。

 村はまるで、森のようだった。闇の影響もあるのか。足元に、つたが絡み付く。


「ミーアノーア様、お気をつけて」

「ええ、スゥイ」


 先頭を歩くミーアノーアを、スゥイが気遣う。


「それにしても、凄い木の根っこだね。ここまで太いとは」


 ドラミールが地の上まではみ出した根を見て言う。


「本体の木も大木ですよ。って、ええ!?」


 女官達のびっくりした声。その大木の枝が動き出した。

 枝は女官達の体を掴もうとする。


「危ない!」


 近くにいた戦士の一人が枝を切り落とした。

 大木に顔が浮かぶ。


「ミーアノーア様、他の木も……!」


 回りの木全てに顔が浮かんだ。

 根っこを足のように動かし歩いてくる。


「どうやら、大木の姿をした魔物のようね」


 冷静に、ミーアノーアは言った。

 聖麗剣を抜く。


「仕掛けるよ!」


 ドラミールの合図で、一斉に斬りかかる。

 枝が鞭のようにしなる。

 その攻撃を避けながら、剣で切り落とす。

 10分もたたないうちに、大木は哀れな姿になった。

 が、枝を切り落とされた大木は、ミーアノーア達を囲み、同時に倒れかかってきた。

 その重さで押し潰されたらたまらない。


「ファイヤー!」

「フレィムガン!」


 ミーアノーアとドラミールの魔法が炸裂。

 大木は炎に包まれた。


「今のうちに!」


 下敷きになる前に、みんなは逃げた。

 大木は焼け落ち、黒い炭になる。


「油断しないでみんな! 多分次がくる!」


 ミーアノーアの言葉に気を引き締める一同。


「クワァ」


 空中から迫る影。


「ガルーダ?」


 巨大な鳥の姿をした魔物が二匹向かって来た。

 大きな翼を広げ、急降下してくる。


 ビュッ。


 くちばしに捕まる前に逃げた。

 今度は急上昇。

 空中にいるため、攻撃が当たりにくい。

 ミーアノーアが狙いを定めて撃つ。


「アクアビーム!」


 一匹のガルーダの腹に命中。バランスを崩して落ちる。怒りのもう一匹が口から火を吐いた。


「熱っ」


 腕に軽い火傷を負うミーアノーア。ガルーダが突進する。

 スゥイがミーアノーアを抱き寄せ庇いつつ攻撃。ガルーダの脇腹を斬る。


「ガウッ!」


 間髪入れずドラミールの魔法が炸裂。


「エレクトロニック・サンダー!」


 もう一匹のガルーダも戦士達の攻撃で沈黙していた。

 村に静かな空気が戻る。

 もう魔物はいないようだ。

 女官の回復魔法で火傷を治療してもらい、パリークへ帰路についた。

 しかしその途中、ミーアノーアはふらふらっと目眩に襲われた。


「ミーアノーア様っ!」


 スゥイに支えられ、横になる。

 すぐに女官が駆けつけ、おでこに手を当てられた。

 女官は不思議そうな顔で言う。


「熱はないようです。一体、どうなされたのでしょう」

「疲れが出たのかも。ここのところ戦い続きだったから。とにかく、早く戻って医者に見てもらったほうがいいかもしれないね」


 心配を隠せないドラミール。

 スゥイがそっと、ミーアノーアを背におぶる。


「ミーアノーア様。パリークまであとちょっとです。もう少し辛抱して下さい」

「ありがとう、スゥイ」


 何だか、目の前が暗くなってきた。

 戦士達が、周りのガードを引き受ける。

 無事にパリークに到着。

 すぐさまミーアノーアは医務室に運ばれた。


 通路で、心配して見守る人々。

 医務室の扉は閉じられたまま。

 ミーアノーアはまだ治療中だ。


 ガラガラッ。


 扉が開き、医者と女官が出てきた。

 スゥイが医者に駆け寄る。


「ミーアノーア様は、無事なんですか!?」


 スゥイは医務室の前でずっと祈っていた。

 ミーアノーア様が、無事でいますように。

 医者はニッコリ笑顔で言った。


「ええ。少し疲れはあるようですが、何も心配ありません。それと、一つ気付いたのですが」

「何か?」

「ミーアノーア様は、ご懐妊されています」

「えっ?」

「あなたの子ですよ。スゥイ殿」


 人々の間から歓声が漏れた。

 ドラミールが、スゥイに近づく。


「おめでとうスゥイ。親友としてお祝いさせてもらうよ」


 ドラミールは自分のことのように喜び、スゥイと握手を交わした。

 もうスゥイに嫉妬する気持ちはない。ミーアノーアとスゥイが幸せならそれでいい。


「ありがとうドラミール」

「ほら、早く彼女の元に行ってやれよ。一人にしちゃだめだ」

「ああ、そうだな」


 スゥイは部屋の中に入る。

 外では興奮した人々の声がまだ聞こえていた。


「スゥイ……」

「ミーアノーア……」


 ベッドの端にスゥイは腰かけ、ミーアノーアと手をつなぐ。


「子どもが、できたんだって?」

「ええ」

「俺達の、子どもが……」


 ミーアノーアに言われた通り、スゥイは二人きりの時には敬語を止めていた。その方が彼女とより親密になれるから。


「スゥイ……」

「えっ?」


 ミーアノーアは泣きそうな顔をした。


「ごめんなさい。こんな時に妊娠して……。その、救世主なのに……」


 彼女は救世主としての立場として、責任を感じているようだ。


「いや」


 スゥイは首を振り、優しく慰める。


「お前のせいじゃない。俺の責任でもあるんだ」

「スゥイ……」

「自分を責めないでくれ。子どもに罪はない。それに、俺はお前に、子どもを産んでもらいたい」

「本当? スゥイ」

「ああ。お前は今まで、ずっと頑張ってきた。少しぐらい休んでもいいはずだ。ドラミールも、自分のことのように喜んでくれた。他のみんなも。だからお願いだ。子どもを産んでくれ」

「スゥイ。分かったわ。わたし、あなたの子どもを産む。いいえ、産みたいの」

「ミーアノーア……」


 ミーアノーアはクスッと笑う。

 美しい。

 スゥイはその唇に、触れてみたくなった。


「ミーアノーア。愛してるよ」

「わたしもよ」


 目を閉じ、優しいキスをする。

 一秒でも長く、この幸せが続きますように。

 ミーアノーアはそう願った。





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