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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第2章戦い、始まる
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ミーアノーアの気持ち

 ミーアノーアはいつの間にか、スゥイのベッドに倒れ込むように眠ってしまっていた。体に薄い毛布が掛けられている。気が付くと、ドラミールの姿がない。


「ドラミール?」


 慌てて体を起こす。が、ハッとしてスゥイの方を見る。安らかな寝息だ。大きな声を出したことを後悔しながら、部屋の外にドラミールの姿を探す。


 ドラミールは窓の側で風に当たっていた。

 ミーアノーアが近づくと、爽やかな笑顔で挨拶をする。


「おはようミーアノーア。風が気持ちいいよ」

「ドラミール。おはよう。もう体の調子はいいの?」

「うん。だいぶよくなったよ。それより、君はスゥイの側にいなくていいの?」

「えっ?」

「いや、スゥイに寄り掛かって、気持ちよさそうに眠っていたから」


 ミーアノーアは一気に頬が赤くなる。

 何だか、恥ずかしい。


「もしかして、わたしに毛布を掛けてくれたのは?」

「うん。だって、あのままじゃ風邪引いちゃうでしょ」

「あ、ありがとう。って、ドラミールの方が具合悪かったのに……」

「おや。僕を心配してくれるんだ。これは光栄だね」


 無邪気にはしゃいで見せる。


「何か、ふざけてる?」


 ミーアノーアが一瞬不機嫌になった。


「あ、ごめんごめん」


 その顔を見たドラミールは謝り、真面目な顔をする。


「ふざけていた訳じゃないんだ。ただ、あんな風に心配されるスゥイが羨ましくて」

「羨ましい?」

「うん。こんな時に悪いけど、これだけは言っておきたい。ミーアノーア。僕は、君が好きだ」

「えっ、ええええっ」


 突然の告白に、ミーアノーアは動揺した。

 最初は冗談かと思った。

 だが、真剣な眼差しのドラミールを見て、本気だということが伝わってきた。

 頬が熱い。

 うまく話せない。


「ド、ドラミール、わたし……」

「焦らなくてもいいよ。急がないから。それに、君の心には……」


 間近で顔を見られる。

 ミーアノーアはますます動揺し、


「わ、わたし、スゥイの様子を見てくる!」


 と、部屋に入ってしまった。

 残されたドラミールは、


「ちょっと、やり過ぎたかな」


 苦笑して、その場を後にした。



 はあはあ。


 まだ興奮している。

 赤くなった頬を触って、ミーアノーアは何とか気持ちを落ち着かせようとした。

 あんな風に、正面から男性に告白されたことは初めてだ。だから、戸惑ってしまい、ドラミールに嫌な態度をとってしまった。


(後で、謝りに行こう)


 そうミーアノーアは思った。

 その時、


「ミーアノーア、様……?」


 ベッドの上で、スゥイが目を覚ましていた。

 彼は驚いたような表情で、こちらを見ている。


「ミーアノーア様、どうかされましたか? 何か様子がおかしいのですが」

「な、何でもないの。それより、気がついたのね。スゥイ!」


 ミーアノーアは慌ててごまかし、スゥイに駆け寄る。


「良かった。あなたがここへ運ばれた時、どうなるかと思ったけど、本当に良かった…!」

「すみません。ご迷惑をおかけして」


 スゥイは精一杯の笑顔を見せる。

 ミーアノーアは涙目になっていた。


「ううん。あなたが捕まった時、何もできなかったわたし達も悪いの。気がつかなくて、ごめんなさい」

「ミーアノーア様……」

「スゥイ……」


 しばしじっと見つめ合う。

 ふと、スゥイが気付いたように言った。


「そう言えば、ドラミールは、俺を助けに来てくれた戦士達は無事ですか?」


 ドラミールの名を聞いたミーアノーアは、戸惑いながらも答える。


「ええ。戦士達は無事よ。ドラミールも、ね」


 スゥイは何かを感じた。


「ドラミールと、何かあったのですか?」

「えっ?」

「この部屋に入って来た時、あなたは様子がおかしかった。もしや、ドラミールと、一緒だったのでは?」


 ミーアノーアは黙り込み、スゥイを見つめる。

 そして、フッと笑った。


「やっぱり、勘がいいのね。そう、ドラミールといたの。いきなり告白されてびっくりしちゃった」

「えっ!?」


 ミーアノーアはその時のことを詳しく話す。

 スゥイの顔色が変わった。

 穏やかな表情とは一変、怒りがにじみ出ている。


「スゥイ、どうしたの?」

「ミーアノーア様。すみません。俺、ドラミールに会って来ます」


 拳を握る。


「ちょっと待って! 会いに行くって、まるで殴りに行くみたいじゃない!」

「ええ。そういう気分です。今は」


 いつもの冷静なスゥイじゃない。ミーアノーアは必死に止めた。


「スゥイ待って! どうして……」

「一つドラミールに感謝するなら、俺の感情を呼び起こしてくれたことです。まさか、こんな気持ちになるなんて……」

「スゥイ……?」


 スゥイはミーアノーアをギュッと抱きしめる。


「ミーアノーア様。俺は今、ドラミールに嫉妬しています。あなたを取られそうで怖い。俺は……。俺もあなたのことを……」


 ミーアノーアは黙ったままスゥイを抱き返す。

 ここ最近の女官達の噂から、スゥイが気になっているのは自分じゃないかということに、ようやく気付いた。ただ、彼女はまだ自分自身の気持ちが分からない。誰が好きかということも。でも、今目の前にいるスゥイは放って置けない。


「スゥイ、落ち着いて聞いて。わたしはまだ、ドラミールに返事をしていないの。それに、わたし自身、自分の気持ちが分からなくて。だから、少し時間をくれないかな?」

「ミーアノーア様……」

「お願いスゥイ。その怒りの拳を収めて。ドラミールを殴りに行くなんて言わないで」


 ミーアノーアに抱きしめられたことで、スゥイの気持ちは落ち着いてきた。


「分かりましたミーアノーア様。拳を収めます」

「スゥイ、ありがとう」


 二人はお互いを抱きしめていた手を下ろした。


「それじゃ、スゥイも元気になったことだし、わたしは自分の部屋に行くね。あなたはどうする?」


 ミーアノーアの笑顔につられて、スゥイも笑った。


「俺も戻ります。ミーアノーア様。本当にありがとうございました」

「じゃ、また後で」

「はい」


 ミーアノーアが出て行った後、スゥイも歩き出した。



 訓練場で、スゥイとドラミールが顔を合わせたのは、それから二時間過ぎた後だった。他には戦士達がいて、スゥイの無事を喜びあい、それから、スゥイの頼みで戦士達はいなくなり、ドラミールと二人きりになった。

 スゥイはドラミールに、ミーアノーアとのことを問いただす。彼はミーアノーアを思っていることは本当だが、スゥイにも友情を感じていると言った。スゥイは、医務室でミーアノーアに、自分も告白めいたことを言ったと伝える。ドラミールはそれを喜び、彼女がどちらを選んでも、仲良くしていこうと告げる。スゥイは、彼の懐の大きさに感激し、ずっと友でいたいと思った。



 そして次の日の夕方。

 急に外で大きな音がしたと思ったら、ダークキングの太い声が聞こえてきた。


「ミーアノーア。今日は、確かめたいことがあって来た!」


 ミーアノーアとスゥイ、ドラミールが外に出る。


「ダークキング、何しに来たの?」

「ほう」


 ダークキングはスゥイとドラミールの姿を確かめる。


「スゥイと竜王子ではないか。やはり、生きていたのだな。地下空洞は崩れ落ち、人の気配も無かった。だが、何か大きな気を感じたのでな。よもやと思ったのだ」

「それで、俺達を倒しに来たのか?」


 スゥイがダークキングに突っかかる。


「そうだな。まあ、今日は確かめに来ただけだ。わし達の戦力も減っているのでな。だが、次はその女を殺してやろう」

「ミーアノーア様は、俺達が守る!」

「命に代えても、か。それもいいだろう。一度は死にかけたお前達だ。死は恐れてないようだ」


(スゥイが、死ぬ……?)


 ダークキングの言葉に、ミーアノーアは、不安に襲われた。

 胸の奥が、苦しい。

 何だろうこの気持ち。

 今まで感じたこともない程に、ざわついている。


(わたしは……)


 小さい頃からずっと見て来たスゥイの笑顔が、頭の中に浮かぶ。

 自分の心に問いかけて見る。

 わたしが好きなのは、スゥイなの? ドラミールなの?


(そうだ、わたしは……)


 スゥイに、死んで欲しくない。側にいて欲しい。

 ようやく分かった。

 ダークキングは本当に偵察に来ただけのようで、すぐに消えた。


「ミーアノーア様、ダークキングは去りましたよ」


 彼女はボーッとしていたが、スゥイの声にハッとする。


「ええ、ごめんなさい。そうね」


 スゥイは、ミーアノーアが疲れていると思い、部屋に運んだ。


「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫。あなたが、ダークキングに殺されるんじゃないかって思って……」


 ミーアノーアは心情を吐露する。

 スゥイに、死んで欲しくないのだと。


「ミーアノーア様……」

「やっと分かったの。わたし、あなたが好きだって。側にいて欲しいって。だから昔のように、二人きりの時は敬語を止めて欲しい。その方があなたともっと近づける」


 涙目で見つめる。

 スゥイは感激して涙を浮かべていた。


「ミーアノーア……っ!」


 スゥイは、彼女を抱き上げ、ベッドに運ぶ。

 口づけを交わした。

 下で見つめる瞳が、艶っぽい。


 ドキン。


「う……」


 その体に、触れてみたい。

 ミーアノーアが囁く。


「スゥイ……」

「あ……」

「いいよ。わたし、あなたとなら」


 我慢できそうにない。

 スゥイはそっと、ミーアノーアの首筋にキスをする。

 そして、二人は、結ばれた。


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