地下からの脱出
グランドキャッスル内部。
残されたミーアノーア達は、スゥイ達がもしかしたら怪我をして帰ってくるかもしれないと、できるだけの準備をしていた。回復魔法を使える女官はいるが、街の人達の中からも医者が名乗りを挙げてくれた。何しろ、火山の地下に行ったのだから。ミーアノーアは、街の人達の協力に感謝した。
本当は、何事もなく、無事で帰って来て欲しい。
窓から火山の方角を見つめる。
(スゥイ、ドラミール……)
今の彼女は、祈るしかなかった。
ドカッ、ガラガラッ。
火山の地下空洞は、どんどん崩壊していた。
ドラミールは、気力でバリアーを展開していたが、それももう持たない。
壁が崩れた。
バリアーにヒビが入る。
「くそっ」
ここまでか。
諦めて、目を閉じようとした時ーー、
「諦めてはいけません」
「!!」
優しい声が聞こえる。
姿は見えないが、温かな気配がドラミール達を包んだ。
「その声は、母上!」
「ドラミール、久しぶりね」
以前、牙龍の谷の龍の穴で、ミーアノーアと出会った聖なる龍だ。
「ドラミール。諦めてはいけません。わたしが力を貸しましょう。あなたや、その友人達を、死なす訳にはいきません」
「母上、感謝します」
「わたしが、火山の外に出します。そこからはあなた達が……」
「はい」
聖なる龍が作った光の玉に、ドラミール達は入った。
ヒュン。
あっという間に、火山の外に出た。
洞窟入り口の所で、フワッと降ろされる。
その瞬間、
ガラガラッ。
音をたてて地下空洞は崩れた。
入り口もすっかり土砂で埋まる。
あと一歩出るのが遅かったら、ドラミール達の命はなかっただろう。
「ふう」
安心して、力が抜ける。
「ドラミール。わたしができるのはここまでです。後はあなた達が歩きなさい」
「母上……」
「あなたやミーアノーアには、まだやるべき事があるはず。力強く生きなさい。それじゃあね」
「母上? はい……」
ドラミールは何か感じるものがあったが、それ以上言わずに口を閉じた。
優しい気配が消えていく。
戦士の一人が言った。
「ドラミール殿。わたし達は、助かったのですね」
ドラミールは笑顔を見せる。
「そうだね。少し休んだらグランドキャッスルに帰ろう。みんなが待ってる。それに、気絶しているスゥイの体調が心配だ」
スゥイは、ドラミール達より長くガスを吸い続けた。それに、背中の傷は多分、ダークキングにやられたもの。ドラミール達もまだ、地下空洞での戦闘のダメージが残っている。すぐに歩ける状態じゃない。
疲れた体を少しでも休めようと、15分ほど横になった。スゥイはまだ目を覚まさない。ダークキングが闇に引きずり込もうと念を送った時、無理をしたに違いない。あの時、スゥイは相当弱っていた。
ドラミールは、スゥイを背中に抱える。太陽が、オレンジ色の光を放っていた。日が沈む前に、パリークへ戻らなきゃ。戦士達と共に、来た道を走って戻った。
ミーアノーアは、何だか落ち着かない。一緒に外でドラミール達を待つ女官達も、気持ちは同じだった。もう暗くなる。何かあったのでは、と思ったその時、声が聞こえた。
「おーーい」
「ドラミール!」
背中にスゥイを抱えたドラミールが手を振っている。戦士達の無事な姿も見える。急いで駆けつけた。
「ドラミール、みんな!」
ドラミールはスゥイをゆっくりと降ろすと、ミーアノーアに向かって言った。
「ミーアノーア。スゥイの状態が危険だ。火山のガスを大量に吸っている。すぐに医者に見せて!」
「わ、分かったわ!」
パリークに残っていた戦士達が、スゥイを医務室へと運んで行く。回復魔法ができる女官も一緒だ。
「ドラミール、あなた達も。話はそれからよ」
ミーアノーアに促され、ドラミール達も医務室へと向かう。
ベッドに、スゥイが横になっていた。
医者が治療をしている。
女官が、ミーアノーア達の所に来て、ドラミール達の怪我を治し始める。
「スゥイは?」
ドラミールが聞く。
「出来る限り、回復魔法をかけました。後は、医者の方が……」
「そうか」
ドラミール達の治療は終わった。
女官は一礼して、部屋を後にする。
ドラミールはミーアノーアに、地下空洞での事を話して聞かせた。
「そんな、スゥイが、闇に……」
「うん。でも、彼は闇に落ちなかったよ。彼の心は強い。改めて、尊敬するよ」
「そうね」
眠ったままのスゥイの顔を見つめる。
(スゥイ……)
そこに医者がやって来た。
「ミーアノーア様。スゥイ殿の事は心配要りません。薬を飲ませましたので、ガスの影響はほとんど無くなったと思います。女官の方の魔法の効果もあると思います。今は眠っていますが、明日には目を覚ますでしょう」
「そう、良かった……!」
ミーアノーアはホッと胸を撫で下ろした。
「それでは、わたしはこれで」
「ありがとう」
ミーアノーアに会釈をし、医者は出て行った。
「ドラミール、あなた達も少し眠ったら? あなた達もガスを吸ったのでしょう」
「え? でも……」
「大丈夫。ここは、わたしが見てる」
「分かった」
ミーアノーアの言葉に甘えて、ドラミール達はまぶたを閉じた。
寝息が、響いてくる。
ミーアノーアは優しく側にいて、彼らを見守った。