生まれる、絆
黒魔族となった人達がドラミールを囲み、攻撃してくる。が、ドラミールは反撃することができない。元々は、パラダイスワールドにいた善良な人達だ。攻撃することなどできない。逃げるので精一杯だった。
「どうした竜王子よ。攻撃しないのか?」
ダークキングが笑いながら言う。
「パラダイスワールドの人達だったんだろう。攻撃することなどできない」
「無駄だ。そいつらは誰かを恨み、妬み、もう世界のことなどどうでもいいという奴らだ。闇に落ちるのも早かった。魂が闇に食われた以上、もう二度と元には戻らない」
「そんな……!」
「そんなことよりもだ、こんなところでモタモタしていてもいいのか? 早くしないと、スゥイが死んでしまうのではないのか?」
「くっ……!」
ダークキングは完全に面白がっていた。
それがドラミールや戦士達の怒りを呼び覚ました。
「分かった。ダークキングよ。どうせ殺らなきゃいけないのなら、その罪、僕達が被ろう。行くぞ!」
ドラミールが先頭で走る。
戦士達も負けじと続く。
「てやーっ!」
「とおーっ!」
黒魔族となった人達は、次々と斬り倒された。
「ドラミール殿、ここで固まっているより、バラバラになってスゥイ殿を探した方がいいと思います!」
戦士の一人が叫んだ。
「そうだね。じゃあみんな、気をつけて」
「はい!」
ドラミールが同意し、戦士達はあちこちに散らばった。
「ムッ」
ダークキングと黒魔族が追いかけようとする。
ドラミールが立ちふさがる。
「ダークキング、一旦引かせてもらう。ロック!」
ドラミールが唱えると、巨大な岩が敵の頭上に降り注いだ。
一時的な時間稼ぎかもしれないが、それでも効果はあるはずだ。
「スゥイ!」
戦士達の後を追いかけ、ドラミールが消える。
ガラガラ。
岩を吹き飛ばし、ダークキングが這い出る。
「フッ。やるな竜王子。だが、わしは倒れん」
ゆっくりと歩き出した。
「おい、いたか?」
「いない。一体どこにいらっしゃるんだ」
「スゥイ殿、どこですか?」
先に行った戦士達が、声を張り上げスゥイを探す。
ガスが、濃くなってきたようだ。
早くしないと、スゥイもろとも、自分たちも死ぬ。
「みんな!」
「ドラミール殿!」
ドラミールが追い付いた。
「すみません。まだ、見つけられません」
「いいさ。僕も一緒に探す。ムッ、あれは?」
不自然な岩が、前方に見える。
扉のように、隙間が開いていた。
「まさか……?」
岩を横に転がす。
入り口が開いた。
「スゥイ!」
壁に手足を拘束されたまま、スゥイはぐったりしていた。
「スゥイ殿!」
剣で鎖を一刀両断して、スゥイを壁から下ろす。
「しっかりするんだ!」
だいぶガスを吸ってしまったようだ。顔色が良くない。
「ドラミール、殿……」
「スゥイ、意識はあるのか?」
「ええ……、俺は……」
「喋らなくていい。とにかく、ここから脱出しよう」
ドラミールがスゥイを背負おうとすると、戦士達が止めた。
「ドラミール殿、ここは我らが」
「分かった」
ドラミールは彼らの意思を尊重し、任せた。
一番力のある戦士がスゥイを背負った。
「お前達……」
「スゥイ殿、喋らないで下さい。あなたが捕まった時、わたし達は何も出来ませんでした。せめて、その責任は取らせて下さい」
「しかし……」
「ご自身を、責めないで下さい。あなたは何も悪くない」
「……ありがとう」
スゥイは戦士達の優しさに感謝した。と同時に、たくましく成長したことに嬉しさを感じた。
「じゃあ、早く行こう!」
ドラミールが促す。
戦士達が頷き、一歩足を踏み出した。
しかし、
「待て」
ダークキングと黒魔族が邪魔をする。
「ダークキング!」
「竜王子。お前達をここから出す訳には行かぬ! 死ぬがいい!」
ダークネスパワーが炸裂した。
「うわああああっ」
ドラミール達は後ろに吹き飛ぶ。
「さあスゥイよ。竜王子を倒すのだ」
ダークキングが念を送ると、スゥイの体が闇に包まれる。
スゥイの心の迷いを利用して、黒魔族の仲間にしようとしているのだ。
「うわああああっ!」
スゥイの心が戦っている。
苦しみながらも、必死にダークキングの念に抵抗していた。
「スゥイ!」
「スゥイ殿!」
仲間達の声が聞こえる。
ダークキングは、念を緩めない。
「スゥイよ。楽になってもいいのだ。その心に正直になり、闇に身を任せ、竜王子を殺せ」
スゥイが剣を手にする。
目がぼうっとしていた。
「ドラミール殿、逃げて下さい!」
スゥイが操られたと思った戦士達が叫ぶ。
が、ドラミールは動かなかった。
スゥイが剣を振り上げる。
「スゥイ、確かに僕はミーアノーアのことが好きだよ。一緒にいて、楽しいし、守りたいと思う。けど、君のことも、同じくらい大切なんだ!」
「うっ」
スゥイは動けなくなる。
「スゥイ。僕は今日、ミーアノーアをここに連れて来なかった。ダークキングが、君の心を利用するなら、狙われるのは僕か彼女だと思ったからだ。君が、僕に嫉妬しているのは知っている。だからこの場で僕を斬っても、僕は構わない。その覚悟はできている。だけど、ミーアノーアが本当に好きなのは、多分君だよ。スゥイ」
「なっ」
「それでも、僕を斬りたいなら、いいよ斬っても。僕は君の、友人だから」
ドラミールは目を閉じる。
スゥイは剣を狙いに向けて刺した。
「うおおおおおっ!」
「スゥイ殿! ドラミール殿!」
「フッ」
戦士達やダークキングも注目する。
剣は、ドラミールの後ろの壁に刺さっていた。
スゥイは、ドラミールを斬らなかった。
ドラミールが目を開く。
「スゥイ……」
「ドラミール殿。いや、ドラミール。俺と友人になりたいというその言葉。俺の心に響いた。ここまで助けに来てくれたことも礼を言う。ありがとう」
「ああ」
二人は見つめ合い、がっちりと握手を交わす。
この時、ようやく二人の間に、固い絆が生まれた。
「さてと」
壁に刺さっていた剣を抜き、ダークキングの方を向く。
ダークキングは、悔しげな表情を浮かべたが、すぐに余裕の笑みに変わった。
「なるほど、友情の力とやらがこんなにも強いものだとはな。面白いものを見せてもらった。だが、お前達は終わりだ。もうすぐ、この地下空洞は崩れ落ちる」
「何だって!?」
「闇を十分に含ませ、天井をもろくしておいた。それに、ガスを吸ったその体、思うように動けまい。わし達は消える。さらばだ!」
「ま、待て!」
ダークキングと黒魔族は去った。
バタン。
スゥイが倒れる。
ダークキングが言ったように、ドラミール達の体も動かなかった。
(どうすればいいんだ……)
天井が崩れ、壁が壊れていく音が聞こえる。
徐々に近くなっているようだ。
(ここまでか)
目の前に、巨大な岩が落ちてきた。
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