救出作戦
「う、うん……」
気絶していたスゥイは目を覚ます。
辺りは暗い静寂に包まれていた。
体が動かない。
背中の傷も疼く。
腰の剣は、奪われていないみたいだ。
だが逃げ出そうにも、壁に手足を鎖で拘束されている。
それに、ここは暑い。どこからか、熱気のこもった空気が流れてきている。
「まさか……?」
スゥイには思い当たる場所があった。
パリークの東に、小さな火山がある。
その地下には洞窟があり、奥までいけるが、ところどころにマグマが吹き出している穴がある。
まさか、自分はそこに連れて来られたのか。
ガラガラッ。
正面の、大きな岩が横にずれた。
どうやら、入り口をふさいでいたらしい。
ダークキングが入ってきた。
つかつかと、スゥイの前にやってくる。
「お目覚めのようだな」
スゥイは、ダークキングを睨んだ。
「俺をどうするつもりだ?」
ダークキングは余裕の笑み。
「フフ。まあそう焦るな。お前の中の闇を見たいのだ」
「俺の中の闇?」
「竜王子に嫉妬しているだろう」
「!!」
「そうそうその顔。その小さな嫉妬がやがて大きな闇になる。どうだ、竜王子を倒し、ミーアノーアを手に入れたいと思わぬか?」
「そんなこと……!」
ドラミールを倒したいなんて思ってない。ダークキングはきっと、そんな人の痛みを利用するつもりなんだ。
「まあいい。この入り口の隙間を開けておく。ガスが、入ってくるだろうからな」
「ガスだと?」
「ああ、火山性のガスだ。地下にこんな場所があろうとは思いもしなかった。お前を人質にして、ミーアノーア達をおびきだす」
「何だと!?」
「気が変わったら言うがいい。じゃあな」
入り口の岩が、僅かな隙間を開けて閉められた。
ガスが入ってくる。
一気に殺してしまわないように、少しずつ調整しているらしい。
「ゲホゲホ」
息苦しくなってきた。
(ミーアノーア様……。すみません)
スゥイは、何もできない自分を責めた。
何で、こんなに涙が流れるんだろう。
心に穴が空いたような喪失感に、ミーアノーアは襲われていた。
ドラミールはそんな彼女を無理やり立たせる。
「しっかりしろミーアノーア! 泣くのはスゥイを助けてからだ!」
いつもと違うドラミールの声でミーアノーアは我に返る。
「ドラミール?」
「よし」
厳しい表情から一転、いつもの優しい笑顔に戻る。
「それじゃ、まずはスゥイの居場所を突き止めないと。ダークキングは、何か言っていた?」
スゥイが連れ去られる現場に居合わせた女官に、ドラミールが聞く。
「は、はい……。スゥイ殿は、パリークの東の火山に連れて行くと。そこの地下の洞窟で待つと言っていました」
ドラミールの険しい表情を見た女官は、少し怯えていた。
「そう。でも何故ダークキングは、スゥイをさらったんだ?」
「それが、スゥイ殿は、心に迷いがあると言っていました」
「迷いって、それで……?」
それは自分とミーアノーアのことだろうとドラミールは察した。その思いをダークキングが利用するのなら、狙われるのは自分かミーアノーアだ。
「スゥイに迷い? でも今は、そんなことを考えている暇はないわ。早く助けに行きましょう!」
「いや、ミーアノーア。君はここに残って」
急いで救出しに行こうとしたミーアノーアを制して、ドラミールは言った。
「ドラミール?」
「ダークキングは、多分救世主である君を真っ先に狙ってくる。そのためにスゥイを人質に取ったんだ。だから、罠だと分かって行くことはないよ」
「でも、わたしはスゥイが心配なの」
「だからだよ。だから君はここに残って、スゥイの帰る場所を守ってやらなきゃ」
「スゥイが、帰る場所……」
「うん。君はスゥイにとって大切な守るべき人。その君が傷つくことは、スゥイも望んでいないんじゃないかな。だから、救出は僕らに任せて、君はここにいて。いいね」
「分かったわ。ドラミール」
ミーアノーアはドラミールを信じ、黙って送り出した。ドラミールは、戦士達六〜七人を連れ、火山に向けて走って行く。
早く行かないと、スゥイの身が危ない。
(スゥイ、無事でいてくれ……)
走りながら、必死にスゥイの無事を祈るドラミールだった。
「ここが、火山……」
目的の火山に着いた。
一気に走ってきたため、息が切れている。
しかし、休んでいる暇もなく、洞窟の入り口を探す。
戦士の一人が、入り口を見つけた。
「ドラミール殿、こちらです!」
中に突入する。
マグマの熱気で、肌が焼けるように熱い。
それと同時に、煙みたいなものが漂っている。
「まさか、ガスが出ているのか?」
急いで口を塞ぐ。
「その通りだ」
「ダークキング!」
奥からダークキングが現れた。
「この地下通路のどこかに、スゥイはいる。ただ、早くしないと、ガスで死んでしまうかもな」
「何だって!?」
「そう簡単には行かせん。竜王子。我ら黒魔族が、相手をしてやろう」
ダークキングが指を鳴らすと、魔兵士が飛び出てきた。それと、見慣れない人達も。
「この者達は、パラダイスワールドの人間だった者達だ。闇を心に抱えていたため、我らの仲間にしてやった。そして我らは、黒魔族と名乗ることにした」
「黒魔族……」
「そうだ。そして、お前に嫉妬しているスゥイも、闇に引きずり込んでやろう!」
「そんなこと、させるか!!」
「ならば、わし達を倒し、スゥイを助け出してみせろ! 行け、者ども!」
ダークキングの命令で、黒魔族がドラミール達に迫る。
(スゥイ、待っていろ)
戦いが、始まった。
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