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mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第2章戦い、始まる
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二人の過去

 ガッキーン。ガッキーン。


 訓練場に剣がぶつかり合う音が響く。

 グランドキャッスル一階。

 ひときわ大きな部屋。

 壁にはさまざまな武器がきれいに整頓されている。

 時間があればミーアノーアやスゥイ、戦士達やドラミールが、ここで鍛練をしていた。

 今はミーアノーアとドラミールの二人だけ。


「ふう」


 一旦休憩を取る。


「はい」


 ミーアノーアがドラミールにタオルを渡した。


「ありがとう」


 壁に寄りかかって座るドラミール。

 その隣にミーアノーアが座った。


「それにしても、ここ数日で、ずいぶん剣の腕が上達したよね」


 タオルで汗を拭いながらドラミールが言う。

 ミーアノーアが照れながら答えた。


「そんなことはないわ。ドラミールの教え方が上手なのよ」

「いいや。君は元々、運動神経が凄くいい。それに加えて、努力もしている。君の実力だよ」

「フフッ。小さい頃から、間近でスゥイの剣技を見ていたおかげでもあるのかしら」


 ミーアノーアの口元が緩む。

 ドラミールはふと、聞いてみたくなった。


「そういえば、気になっていたんだけど、君とスゥイってどうやって出会ったの? 何か昔から付き合いがあるみたいだけど」

「えっ? わたしとスゥイの出会い? そうね。幼なじみと言えば、そうかな。聞きたい?」

「うん。教えて」


 ドラミールは屈託のない笑顔で見つめる。

 何か卑怯だ。その顔は。

 断れないじゃない。


「うーん、わたしとスゥイが出会ったのは、わたしが六才の時だったかな」


 ミーアノーアは人差し指を顎に当てながら喋り出す。

 ドラミールは興味を示し、身を乗り出した。


「あの、元々このパリークって、街ではなく村だったの。わたしは、村長の娘として生まれた。村の人達はみんな仲が良かったわ。にぎやかで、話し声が絶えなかった。そんな時、スゥイが引っ越して来たの」

「引っ越して来た?」

「ええ。お母さまと一緒にね。でも、その頃はまだ騎士じゃなかった。たまたま、村に元騎士だった人がいてね、その人の話を聞くうちに憧れたみたい」


 ミーアノーアは楽しそうに話す。

 その笑顔を見ながら、思い出を共有している二人をドラミールは羨ましく感じた。

 どうやら、ミーアノーアに惚れたのは、スゥイだけではなさそうだ。


「わたし、最初スゥイのこと、怖そうな男の子だなって思ってたの。だけどそれは、引っ越したばかりで、村に馴染めなくて、話し相手がいなかったからそう見えただけ。話してみたら、優しい男の子だって分かった。それから、仲良くなれたの。そして、スゥイは剣を習い始めた。わたしも、それにつられて父から魔法を教えてもらうことになったの。二人で切磋琢磨しながら技を磨いていった。楽しかったな。でもね……」


 ミーアノーアが急に、悲しい顔をした。

 何か、悲しい出来事でもあったのか。


「わたし達が八才になる頃、モンスターの群れが村に攻めて来たの。小さい村だったし、どうしようもなかった。わたし達はまだ小さかったから、大人達に守られて家の中に逃げた。元騎士さんなどの活躍で何とか難を逃れたけど、わたしの父とスゥイのお母さまは亡くなった。亡くなる直前、父は言ったの。これからはわたし一人だけど、泣かないで頑張りなさい。そしてスゥイには、側にいて守ってやって欲しいと。悲しかったけど、強くなるために修行した。そして、みんなの力で、村を大きくしていったの」

「そうだったのか……」

「村長の娘だったわたしは、いつの間にかリーダーとして担ぎ上げられたけど。けどスゥイは、騎士としていつもわたしを支えてくれてる。昔は普通に話してたのに、今は敬語なのがちょっと悔しいけど」


 ミーアノーアは皮肉りながらもクスッと笑った。


「立場の違いというものだね」


 ドラミールはこれで、二人のことをまた少し理解した。ミーアノーアとスゥイに、そんな悲しい過去があったなんて驚いたけど、その痛みに負けることなく戦い続ける二人は凄いと、素直に感動した。


「それじゃ、今度はあなたの番ね」

「僕の番?」


 子供のような笑顔。

 無邪気な瞳に、吸い込まれた。

 ドラミールはフッと息を吐き、自分の過去を話し始める。


「僕が、聖なる龍に拾われたのは、赤ちゃんの時らしいんだ。牙龍の谷の近くの崖の下にいたらしい。あの崖は、君も知っての通り、ほぼ垂直の崖だ。誰かが降りて運んだってことになる。置き去りにされたんだな」

「ドラミール……」

「けど僕は、恨んではいないよ。きっと理由があったんだと思う。聖なる龍は、優しいお母さんだし、魔法も教えてくれた。剣は、我流だけどね」

「そう、なんだ」

「うん。それに、そのおかげで君に巡り会えたし。感謝すべきなのかな?」


 ドキッ。


 ドラミールと視線が合う。

 その真剣な眼差しに、ミーアノーアは思わず頬を染めた。


「ミーアノーア、僕は……」


 と、ドラミールが言いかけた時、


 バタン。


 大きな音をたてて、女官が入ってきた。

 息を切らし、青い顔だ。


「どうしたの? 大丈夫?」


 今にも泣きそうな震える声で、ミーアノーアの言葉に答えた。


「ミーアノーア様。ドラミール殿。大変なんです。スゥイ殿が……」

「!!」


 彼女に連れられ、外に急ぐ。

 戦士達が、おろおろしていた。

 スゥイが倒れたと思われる場所に、血痕だけが残されている。


「わたしが畑に野菜を取りに行ったら、いきなり魔兵士が現れて……。スゥイ殿は魔兵士に囲まれて。そして、背後からダークキングに……」

「そ、そんな……!」


 ミーアノーアはその場にへなへなと座り込んだ。


(スゥイが、さらわれた……)


 ドラミールが彼女を支える。


「ミーアノーア、しっかりして。すぐにスゥイを助けに行こう」


 涙が溢れてくる。


(スゥイ、スゥイ……!)


 絶望が、支配した。


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