表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
mirikoworld外伝 〜初代救世主ミーアノーアの異世界英雄譚〜  作者: 北村美琴
第2章戦い、始まる
10/25

小さな嫉妬

「スゥイ、僕に遠慮してない? 何だか、嫌われているようで不安なんだ」


 ドラミールはストレートに聞いてきた。

 スゥイは何でもないという顔で否定してみる。


「そんなことありませんよ。あなたは仲間ですから」

「そうかなぁ? 他の人達は僕に対してくだけた物の言い方をする時があるけど、君はずっと敬語だし」

「……っ」


 ドラミールは時々、人の心を見透かしたような言い方をする。実際、そういうのに鋭いのかもしれないが、ここまで読まれるとは。


「ねえスゥイ。君とは年も近いし、同じ剣の使い手でもある。友達になりたいな、と思っているんだ」


 子供っぽい笑顔を見せる。

 この素直さが、ドラミールの魅力だ。

 優しいし、誰とでも打ち解ける。話上手で、相手の気持ちにも寄り添える。逆にスゥイは、騎士という立場から、自分の気持ちを抑えてしまう部分があった。

 だから内心、ドラミールを羨ましいと思っていた。


「スゥイ?」

「えっ? ……あっ、はい」


 ボーッとしているスゥイの顔を、ドラミールが覗き込む。

 全てを見透かしているような瞳。


「大丈夫?」

「はい。すみません。あなたは俺より年上ですから、敬語を使うのは、当たり前です」

「でも、君とは一才しか違わないよ」


 スゥイとミーアノーアは同い年の二十一才。ドラミールは二十二才だ。

 ドラミールは年の差など関係なく、誰とでも対等に付き合いたいと思っていた。


「ドラミール殿……」

「ほら、その殿っていうのもやめて。僕はただ、聖なる龍に育てられたというだけで、何も変わらない、君達と同じ人間だよ。偉くもないさ。それでもまだ、僕に遠慮することがあるのかい?」

「それは……」


 ドラミールが確信をついてきた。

 その時ーー、


「二人とも、どうしたの?」


 ミーアノーアが通路の向こうから歩いてきた。


「ミーアノーア」

「ミーアノーア様」


 スゥイ達は話を止めて彼女を見る。


「ごめんなさいね。もしかして、お話の邪魔をしちゃったかしら?」

「いいえ。そんなことはございません。ミーアノーア様こそ、如何(いかが)なさいました?」


 男二人で通路にいる事を不思議に感じたミーアノーアに、スゥイは会釈をかわす。


「実は、ドラミールを呼びに来たの。剣の稽古をして欲しくて」


 ミーアノーアは、時々、ドラミールに剣を習っていた。元々、魔法は得意だった彼女だが、剣は本格的に習った事がない。ドラミールが仲間入りした事で、剣の先生ができて嬉しかった。スゥイは、戦士達のまとめ役なので、彼らの訓練で忙しい。戦士達は、平均年齢十七才の若者達だ。まだ未熟なところもある。スゥイがいなければまとまらない。それに、闇との戦いもある。ミーアノーアは、そんなスゥイの体を心配して、ドラミールに修行を頼んだのだ。


「分かりました。ミーアノーア様。俺は、外の様子を見て来ます。ドラミール殿、後はお願いします」

「スゥイ……」


 スゥイは早々にその場を離れた。


 本当は、仲のいい二人を、これ以上見ていたくない。

 ミーアノーアは、ドラミールといる時、本当楽しそうだ。

 頬が赤くなっている。


「ミーアノーア様、あなたは……」


 心を落ち着かせるため、塔入り口のドアに手をかける。


「ふう」


 深いため息をついた。



「スゥイ、どうしちゃったの?」


 ポツンとその場に置き去りにされたようで、ミーアノーアは戸惑う。


「スゥイ……」


 ドラミールは理解した。

 スゥイが、自分を避けていると感じた訳を。

 スゥイは、ミーアノーアの事が好きなんだ。

 そして、ミーアノーアが自分と仲がいいのに嫉妬しているのだと。


「ドラミール?」


 今度はドラミールが、ミーアノーアに呼ばれた。

 顔をじっと見られる。

 確かに、上品で美しい顔をしている。

 気品も感じる。

 スゥイでなくても、惚れてしまいそうだ。


「どうしたの?」

「何でもないよミーアノーア。さぁ、訓練場に行こう」

「ええ」


 ミーアノーアの手を引きながらドラミールは思った。

 スゥイ、自分で言わなきゃ、通じないよ。

 雨は、いつの間にか晴れていた。



 風が髪を揺らす。

 さっきまで雨に濡れていた木々の葉に、雫がたまっていた。

 雲に隠れて、まだ太陽は見えない。


(何でこんなに、心が痛むんだ)


 スゥイは常に冷静であろうとした。

 騎士として、戦士達のまとめ役として、落ち着いた態度を心がけた。

 けど、


(まだ、俺も未熟だな)


 ドラミールのことは、嫌いではない。

 むしろ、仲良くなりたいと思っている。

 それなのに、小さな嫉妬が、邪魔をしている。

 自分でも分かっていた。

 ミーアノーアに、好きだと言えたら楽なのに。

 ただ、彼女は救世主で、自分は側にいて、彼女を守ると決めた身。

 その一言が、その時のスゥイには重かった。

 雨が晴れたのを見て、女官が野菜を取りに外に出てくる。料理に使うのだろう。スゥイの側を通り、挨拶をかわす。

 その時、畑に隠れていた魔兵士が女官に槍を向けた。女官は声が出ない。スゥイが駆けつける。


「!!」


 畑の回りを囲まれた。

 スゥイは女官を逃がし、単身魔兵士に挑む。


 ガッキーン。


 金属のぶつかる音。

 スゥイの技で、魔兵士は少しずつ減ってきた。

 出入り口でその様子を眺めていた女官は、スゥイの後ろから近づく影に気がつく。


「スゥイ殿、後ろです!」


 スゥイが振り向く。


「だ、だめぇぇぇぇぇっ!」


 女官の悲鳴が響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ