平和な世界
こんにちは。mirikoworldの新シリーズ、外伝ですが始まりました。美衣子の先輩、ミーアノーアの話です。
どうぞよろしくお願いいたします。
その小高い丘の上に、彼女はずっと立っていた。
ただ一人、遥か彼方遠くを見つめて。
大地は平和そのものだった。
あの邪悪な集団が現れるまでは。
mirikoworldはその昔、パラダイスワールドと呼ばれる、愛を求める優しい生き物が住む世界だった。
その大地には花が咲き乱れ、自然の美しい楽園として親しまれていた。
パラダイスワールドの中心部、聖なる街パリークには、グランドキャッスルという、空まで届きそうな塔が建てられていた。
そのグランドキャッスルに住んでいた人物が、後にmirikoworldに名を広める、救世主ミーアノーアその人である。
ミーアノーアは強い愛の心を持ち、国中の誰からも信頼されるリーダーであった。彼女の行く所は人だかりができ、その人気は凄いものがあった。
そのミーアノーアを倒したのが、邪悪な心を持つ悪の神、ダークキングである。
ダークキングとミーアノーアが出会うのは、美衣子達が生きている時代の遥か前、そう、約一千年前の、聖地での出来事であった。
「今日も、何も変わりはありませんか?」
「はい、ミーアノーア様」
聖なる街パリークに住むミーアノーアと、彼女の側近である騎士スゥイは、毎日グランドキャッスルの頂上に登って、国の安全を確かめていた。
グランドキャッスルは空に届きそうな高く巨大な塔で、ミーアノーアの城でもある。頂上からはパリークの全景を見渡すことができる。中は各階で分けられており、さらに大小さまざまな部屋がある。階段もあるが、各階をつなぐワープ装置もあり、移動には困らない。
ミーアノーアの部屋は塔のほぼ中央にあり、その隣は指令室が設置されていた。ミーアノーアはここで指揮を取ることが多かった。
城で働く女官は十六〜七人。戦士が十五人。それに城の回りには見張りの兵士達がいて、いつも安全を守っていた。特にミーアノーアと親しい関係にあるのは、戦士のまとめ役のスゥイだった。彼は、いつもミーアノーアに寄り添い、命をかけて守ってくれる、まさにナイトだ。
顔はなかなかの美形。真ん中分けでサラサラの前髪で、耳を出している。後ろは短い。身長は176㎝、やや痩せ型の体型。ちなみにミーアノーアは165㎝だ。
ミーアノーアは、自分を守ってくれるスゥイを信頼し、頼もしく感じていた。では、何故スゥイは、こんなにミーアノーアに尽くすのか? 彼は戦士達のリーダー的存在であり、ミーアノーアを守ることが自分達の使命だと感じていたからだろうか。いや、それは違う。彼は、ミーアノーアを愛していたのだ。最も、スゥイの片思いだったのだが。
そして、ミーアノーアも、彼のその思いには気付いていなかった。だが、スゥイはそれでもいいと思っていた。彼女の側にいることが、今は幸せだったから。
城の外では、いつものように女官達が花を摘んでいた。パラダイスワールドの気候は人間界とさほど変わりがなく、いつも四季折々の花が人々の目を楽しませていた。その自然の花をちょっと頂いて、インテリアとして飾るのが、女官達の楽しみであった。
その楽しそうな声に導かれ、ミーアノーアとスゥイも外に降りてきた。
「楽しそうね。みんな」
「ミーアノーア様」
女官達が振り返る。
それぞれ両手に色とりどりの花を抱えていた。
「ミーアノーア様、見て下さい。どの花がいいですか?」
「わたしの花もお願いします」
「わたしも」
あっという間に囲まれた。
やっぱりミーアノーア様の人気は凄い。隣にいたスゥイがそんなことを思っていると、
「スゥイ様もどうぞ」
女官の一人が、スゥイに花を一輪差し出した。
スゥイは女官の間では、ミーアノーアと同じように人気がある。騎士としてはもちろんのこと、爽やかイケメンであり、誰にでも優しい。それが女子の目をハートにしていた。部下の戦士達の信頼も厚い。
中には、スゥイの親衛隊を名乗る人もいたとか。
「ありがとう」
差し出された花を、スゥイは快く受け取った。
爽やかな笑顔。
女官は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「あらあら」
「ミーアノーア様」
「相変わらずみんなに人気ね。スゥイ」
「そ、そんな事……」
花を手にしたミーアノーアと、他の女官達が笑った。
こんな風に、誰か一人がスゥイに近づいても、嫉妬されることはない。
みんな仲が良いのだ。
スゥイがミーアノーアに恋をしていることは、ほとんどの者が知っていた。ただ、それを本人達に問うことはせず、静かに見守ってくれていた。
蝶が、花の蜜を吸いにやって来る。
平和な風景だ。
青空が照らす太陽が眩しい。
いつまでも、こんな時間を過ごせたらいいのに。
誰しもが、そう願っていた。
闇ーー。人が生まれた時、その悪しき心の影響で、この不気味なものは生まれた。魔空間を支配しているこの真っ黒なものは、遠くパラダイスワールドを見つめながら、少しづつ近づいていた。
しかし、まだミーアノーア達パラダイスワールドの住民は、そのことに気付いていない。
これから何が起ころうとしているのか、誰も予想もしていなかった。
グランドキャッスル、ミーアノーアの部屋。
もうすっかり日は落ちて、夜になり、月の明かりが窓から差し込んでいた。
いつもと変わらない日常を過ごし、ミーアノーアは暖かい布団の中、寝息をたてていた。
ベッド脇の棚には、今朝女官からもらった花が飾られている。
彼女は夢を見ていた。
洞窟の中に、自分がいる。
目の前には、金色に輝く大きな龍。
不思議と、怖くはなかった。
その龍が話しかける。
「ミーアノーア。パラダイスワールドに、危機が迫っています。闇が、近づいています。わたしは、あなたを待っています」
「あなたは、誰?」
「わたしは、聖なる龍と呼ばれています。早く、この場所へ。そうすれば、あなたは本当の救世主の力を手に入れることができるでしょう」
「もしかしたら、あなたのいる場所は……」
「あなたなら、分かるはずです」
金色の龍の姿が、うっすらと消えていく。
場面は一転、闇に包まれた街が見える。
あれは、パリークだ。
闇は大きく広がり、やがてパラダイスワールドを覆い尽くした。
「!!」
飛び起きるミーアノーア。
体全体に、汗をかいている。
「なんて夢……」
ランプの灯りを点け、額の汗をタオルで拭う。
胸がドキドキしている。
こんな悪夢を見たのは、初めてだ。
興奮が収まらない。
いつも夢を見ても、内容はほとんど忘れてしまうのに、この夢はくっきりカラーで、現実との区別がつかない位凄かった。
何故あんな夢を見たのか、彼女はまだ理解できないでいた。
それが予知夢と分かるのは、次の日の、あの出来事があってからだった。