満月の夜の密会
挿絵作成:麦原 矜帆さま
http://20706.mitemin.net/
希望ジャンル:特になしです。
指定要素:特になしです。
眼鏡をつけた、大人しめの少年がゆっくりと公園にやってくる。
既に公園の時計は真夜中を示しており、人気もない。
けれども、彼は白い箱を手に公園の奥にある滑り台の方へと向かって行く。
「アサギ、いるんでしょ? アサギの好きなケーキ、持ってきたよ」
そっと少年が声をかけると。
「……来てくれたんだ。嬉しいな」
彼の声に誘われるように顔を出したのは、アサギと呼ばれた、もう一人の青年。
いや、青年なのだろうか?
整った顔立ちは、少年のような少女のような、可愛らしい雰囲気を持っていた。
服装も水色のパーカーに、同じく水色のポンポンのついた帽子、白の水玉の入った黒のスウェット、茶色の革靴を履いていた。
一つ、異質なのは……アサギの背中には揚羽蝶のような美しい羽がぱたぱたとはためいていることだろう。だが、眼鏡の少年はそんなこと、気にしていないようだ。
「はい、アサギ。ちゃんとフォークももらってきたよ」
眼鏡の少年は嬉しそうに笑顔を見せながら、箱を手渡す。
さっそくパーカー姿のアサギはそれを受け取り、美味しそうにケーキを頬張る。
「うん、とっても美味しいよ、アル」
どうやら、眼鏡の少年の名はアルというらしい。
「よかったー。どれが食べたいって聞くの忘れちゃってたから、ちょっと心配してたんだ。でも、どのケーキも美味しいって評判のやつだから、アサギなら喜んでくれると思ってたんだ……それにしても、綺麗な羽だね……」
うっとりするかのように、アルがその羽に触ろうとした、その瞬間。
どすんと、アルはアサギに押し倒されてしまった!
「えっ!?」
何が起きたのか分からない、アルにアサギは。
「アハハ……まさか、可愛い蝶の妖精か何かかと思ってた?」
そう言って、開いた歯は鋭く、のこぎりのようにとがっていた。
その歯をアルの首筋に突き刺すと、そのまま吸い込んでいく。
「あ……あっ……アサ、ギ……?」
徐々にアルのアサギを掴もうとする手が、ゆっくりと降りていく。
色味の合ったアルの肌は、次第に青く土色に代わってきていた。
「意外と美味しいね、アル。このまま殺すには惜しいなぁ」
ぺろりと舌を舐めて、またゆっくり味わおうと噛り付こうとした時だった。
ばしん。
見えない何かに弾かれた。
「え?」
とたんにアサギは知らぬ間に仰向けに倒れていた。
「どう? 倒された気分は」
「なんで」
「なんでって、君、俺を殺そうとしたでしょ? いやあ、まさかこんなに俺のエナジーを吸い取られるとは思わなかったよ」
先ほどとは違う雰囲気を纏う、アル。彼は眼鏡を胸ポケットに入れると、不敵に笑みを浮かべた。
「も、もう一度っ!!」
アサギは調子を戻して、再度襲い掛かる。
「二度目はない」
またもや、見えない壁に弾かれた。
どうやら、アルの前に突き出した右手から、見えない壁を生み出しているようだ。
「あー、でもちょっと辛くなったから、こっちも少し本気出すよ。――闇よ、我の声に従い、その力を解放せよ」
ぶわりと、アルの背から黒い鳥のような翼が生え、ぱらりと黒い羽が舞う。
「貴様ぁ!! 一体、何者なんだ!!」
「ある人に頼まれてね。君を捕縛するようにいわれたんだよ。死神と呼ばれた君をね」
「で、でも、貴様は僕の術にかかっていた!!」
「うん、かかってたよ。敵を欺くために本来の力と記憶を封じて、君の前に現れた。それもこれも、なるべく穏便に捕まえるための方法だったんだけどね……これだけ体力を奪われるとは、死神の名は伊達じゃない」
「うるさい、黙れ!!」
伸びた爪でアルを切り裂いた。ぱっと鮮血が散る。
「……これは」
「ふふふ、馬鹿だなぁ。僕の体には、病原菌や寄生虫が巣食ってるんだよ。その爪を受けたんだ。そろそろ苦しくなってくるんじゃないかな? ホント、貴様は馬鹿だよ」
アサギは楽しそうに顔を歪めさせた。
アサギの言う通り、その爪にはありとあらゆる恐ろしい病原菌や寄生虫が巣食っている。触れただけで普通の人間ならあっという間に死んでしまうだろう。
そう、あっという間に。
……。
…………。
「それで?」
アルはちっとも怯まない。流れる血は止まらないが、気にする素振りもみせていなかった。
「な、なんで死なないんだよ!!」
「簡単だよ、僕は人間じゃないからね。ある意味、君と似たようなもんだよ」
そういって、アルは傷口に触れる。すると、先ほどまで流れ出ていた血が止まり、傷もなくなってしまった。
「これを見ても、平然としていられるかよ!!」
アサギは本性を現した。
全長12m程のツチボタルの幼虫、それがアサギの真の姿だった。
そのまま、アルに飛びかかり、押し倒し、羽交い絞めにする。
「死ねっ!!」
「やっと捕まえた」
「!?」
がちゃんという音ともに、アサギは先ほどの人型に戻されていた。
その首には十字のついた黒のチョーカーが付けられていた。
「な……お、覚えてろっ!!」
そのまま、自分の羽でアサギは夜空に逃げていった。
「あー、逃げられちゃった」
ぐったりと疲れた様子で、アルはその場に座り込む。
「捕まえられなかったけど、病原菌とか寄生虫は抑え込めたからいいかな?」
そんな彼の隣に、いつの間にか金髪の美しい女性が現れた。
「よろしいのですか?」
「最初に先手撃たれちゃったからねー。マジ体力やばい感じ。部屋まで運んでくれる?」
気付けば、アルの背の翼はかき消えてしまっていた。
「では、早く戻りましょう」
さっと、彼をお姫様抱っこすると、彼らはすうっと姿を消した。
それはまるで、テレポーテーションのように。
いつものように公園に静かさが戻って来る。
彼らがどうなったかはわからない。
けれどまた、彼らは出会うだろう。
そう遠くない未来に……。
●あとがき
まさか、2枚目も蝶がらみになって、びっくり!
今回は蝶シリーズですね!!
というか、こっちの物語も、かなーりどういう展開にしようか悩みましたです(汗)。
で、暗い話にはしたくなかったので、バトル物にしてみました。
キャラ設定があったので、そちらも確認して、そちらもがつんと盛り込んでいます。
土ボタルの幼虫、こわっ!! ちょっと画像見てぞくっと来ましたよ。あわわ。襲われたくないわー。
というわけで、本性はあんまり描写しませんでした。すみません。
あ、一応、現代な話にしてます。場所は……どこだろう? 日本っぽいけど、外国でもいいかもしれません。
そこら辺は読者の皆さんに委ねちゃいます。むふふ。
バトルの結果は一応、引き分け……かな? アルはかなり油断したので、あーんな感じです。
次にバトルになったら、どうなるでしょうねー?
というわけで、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました☆






