2-4「それぞれの想い」
第二章第三話〜それぞれの想い〜
リンクが第一騎士団に来て一週間目、か。
仕事を終えて、自室には戻らずに行き付けの酒場へと今日は来ている。
「遅くなってすまん。」
声の主はわかっている。クレイだ。
カムイがこの酒場で会うのは彼だけ。
当のクレイはこじゃれたバーが好きらしく、場末の居酒屋といった感じのこの店を嫌っているようだが。
カムイ本人はこの飾らない感じが落ち着いて、いつの間にやら常連客となっていた。
「んで、例の女はまだ見つからないわけ?」
単刀直入な奴である。
答えをわかっているくせに、あえて言わせて落ち込ませないで欲しいものだ。
「・・・残念ながらな」
「そのわりにあんま悲しそうじゃないんだな?」
さすがは幼馴染の親友といったところか。
職場も違うくせによく見ているもんだ、と思う。
「あのリンクって餓鬼のせいか?」
ニヤニヤ顔で図星を突かれると、ため息しか出ない。
「初めてリンクに会った時、彼女が見つかったって思ったんだけどなぁ」
そしたら突然、倒れた。
彼女との初対面と一緒だった。
長い長い一生から言えば、まさに一瞬の逢瀬が頭に蘇る。
段々と薄れていく記憶の中のおぼろげな彼女の顔と目の前の少年の顔はそっくりだった。
「ま。でもリンクは正真正銘の男だしなぁ。残念デシタ。」
クレイは意地悪そうな笑みを浮かべているが、目は本当に心配そうである。
「俺もリンクを拾ったと時は、例の彼女かって思ったんだぜ?
でもなぁ、色々と調べてみたんだが、あいつの身元は確かなんだよな。
養子ってとこは気になるが、魔術一族の最高階級フェロンの名を冠する上に、あのサライさまさまの養子ときた。」
そう、カムイだって色々調べてはみたのだ。
フェロンというのはアルフィン国において、魔術分野を司る一族にとって最高の栄誉といわれる冠名。
カムイが持つリオリスタというのは剣術分野におけるフェロン階級、クレイもリオリスタに次ぐリオルンという冠名を持つ。
更に言えば、リンクの養父サライ=フェロン=リアータは、魔術界の権威と呼ばれる男である。
先代の王時代に起こった大戦を機に隠居し今は研究生活と聞いているが、その名が持つ力はいまだ絶大なものである。
「リンクが彼女なのかはまだわからん。
でも、彼自身になにか惹かれてしまうのも事実なんだ。」
「・・・おい。お前、そんな趣味あったっけ?」
正直な気持ちを吐露すれば、予想通りの反応。
これまた今日何度目かのため息。
自分でもよくわからなかった。
しかし、あの少年になぜか惹かれてしまう。
ここ一週間、自分には男を愛する趣味なんぞないと自分に言い聞かせ、わざとリンクを避けた。
だが結果はどうだろう?
いつの間にやら彼を探している自分がいた。
「アルフィン1の色男の座を奪い合った相手がお前だなんて信じたくないくらいの様子だぞ
かなり重症だな」
呆れたか?そうかそうか。
自分でもわかっている。確かに重症だ。
リンクが倒れて寝ている時、もう目を覚まさないんじゃないかと気が気じゃなかった。
リンクが泣いている時、腕の中に閉じ込めてしまいたくて仕方が無かった。
そして今、「彼女」とリンクを重ねているのか、リンク自身に惹かれているのかわからず、気が狂いそうだ。
大好きな酒もなかなか進まない。
どうしちまったんだよ、俺。
探し出して愛すべきは「彼女」であって、リンクじゃないってのにな。
カムイの自嘲的な笑みを、クレイの心配を隠すような戯言を、夜は小さく包み込みゆっくりと更けていくのだった。
******
一方、同時刻のアルフィン北端夕紅の森では・・・
「リンのばかぁ・・・」
御年200歳、魔術界の権威サライ大先生はキャラ崩壊を起こしていた。
リンがリンクになり、宮仕えに出てから一週間。
健気なリンクは毎日のようにサライに手紙を書いていた。
それは嬉しい。最高に嬉しいのだ、が。
「なんでこんな楽しそうなのかな、リンちゃん・・・」
最初の3日間くらいは寂しそうな文章で早く帰りたいと綴っていた。
それから徐々に手紙の登場人物が増え、寂しいという文字が減ってきた。
そして今日。
『サライへ
こっちに来て一週間が経ちました。
今日は他のチームの人たちも交えて夕ご飯を食べたよ。
なんとカイの手作り!すごく美味しかった!
サライにもいつかカイの作ったご飯、食べさせたいな〜
第一騎士団は男の人ばっかりで最初はむさくるしかったけどだいぶ慣れたよ
シュラフなんて女の子みたいだしね!
でも、みんな私のことも女の子みたいって言うんだよ
魔法だからバレないけど、今日なんか体触られて確認までされたんだから!
参っちゃうよね!
じゃぁ明日も早いから今日は寝るね。おやすみ。
リンより』
突っ込みどころが多すぎるよ、リン!
カイの手料理じゃなくって私が食べたいのはリンの手料理です!
ってゆうかリンです!(ヲイ
男の人ばっかりってめちゃくちゃ心配です!
体触られたって参っちゃうってレベルじゃないでしょ!
ああ・・・
親の心子知らずというか、女の子には男心ってわからないものなんですね・・・
しくしく・・・リンの世界でタイイクズワリと呼ばれる姿勢をとっていじけてみる。
宮仕えは一年間。
しょっぱなの一週間でもうこのざまである。
これからどうやって生きていけばいいのやら。
200年も生きてきたのに、なかなか名案が浮かばない。
いじいじしていると、窓からコツコツと音がする。
窓を見れば、赤の羽色が美しい大きな鳥が窓を突いている。
「こんな時間に誰でしょうねぇ」
きっと誰かの使い魔だろう。
窓を開けてやると、手紙らしき巻物を置いて一礼する。
巻物の封印を解くと、光の塔と呼ばれる魔術研究の中心機関からの書簡だった。
なにやら3ヵ月後に王立魔術学院の入学式があるから出席してくれ、という内容だ。
いつもなら考える暇もなくお断りする話だが、今回はふっと考える。
これは王都に出るいい口実になりそうだ。
リンクに会いに行くついでに入学式に出席すればいい。
既に主目的が摩り替わっているが、そんなこと気にしないサライ大先生。
ありがたく出席させていただきますと書きこみ、封印をし直して、鳥に渡す。
「さぁ。これでしばらくは楽しみができましたね。」
一人うふふと笑うサライを残して、鳥は夜の空へと再び滑空していった。
サライが予想以上にキャラ崩壊を起こしてしまいました。笑
これからちょっとずつリンの知らないところで様々なことが起こり始める予定ですので、これからもよろしくです