2-3「新しい仲間達」
第二章第三話〜新しい仲間達〜
朝五時に起床し、朝稽古をこなして、朝礼に出席
朝・昼・夜と5人編成のチームごとに割り振られたシフトに従い、それぞれ見回りへ
空き時間は稽古なり飲むなり暴れるなり自由
第一騎士団の生活は、まぁこんなもんである。
騎士団とは名ばかりのもので、戦時以外は町のお巡りさんのようなもの。
空気はかなり自由で、集まった人員もかなり仲がいい。
これは団長の人柄が強いようで、第10騎士団までそれぞれ空気に差があるようだった。
「はーぁ。けっこう暇だね。」
宮仕えに備えて散々鍛えられたリンクの感想はかなり間の抜けたものだった。
今も見回りの途中で、同じチームの仲間と酒場でたむろしているところだ。
「まぁそんなこと言うもんじゃねぇって。
騎士団が暇なのは、平和な証拠だぜ?」
にししと笑ってまた大ジョッキを空けたのは、ゼクス。
鮮やかな赤髪が目を引くタレ目のイケメンだ。
酒好き・女好き・博打好きの三拍子を揃えた天晴れな男だが、実力は相当のものらしい。
宮仕えを経て第一騎士団にそのまま就職した切れ者だったりする。
「とりあえずゼクスさんは飲みすぎです!」
「・・・間違いない。」
そんな抗議の声をあげるのは、シュラフとカイ。
シュラフはどこぞの貴族のおぼっちゃま。
金髪に童顔の可愛らしい容姿は第一騎士団の天使とまで言われるほどだ。
が実は、中身は相当タフガイ・・・いや小悪魔かつ破壊魔だったり・・・。
彼を怒らせると一師団が吹っ飛ぶというのは、第一騎士団内のみで囁かれる伝説である。
その横に常時寄り添うようにいるのがカイ。
えらくガタイのいい傭兵のような佇まいをしている彼は、その無口さゆえか、かなりの誤解を受けている。
本当は料理が趣味という可愛い男なのだが、彼と歩くと道が開くか絡まれるか、そんな展開ばかり。
「いいじゃねぇか。
俺は飲める相手が久々に見つかって最高に嬉しいんだ。水差すなって」
ぽんぽんと肩を叩いてくるゼクスにため息をこぼすリンク。
そもそも自分はもともとこのチーム配属ではなかったのだ。
*******
思い返せば宮仕え初日。目を覚ましたリンクは第一騎士団の本部へと連れて行かれた。
新人さんが来るらしいということで、既に本部には団員達が待ち構えており、けっこうな歓迎っぷりであった。
その中でリンクが軽い自己紹介を終えると、誰やらが「飲むぞーー」「歓迎会だー」と叫び出し・・・
結局、本部内での大酒宴と雪崩れ込んだ。
原料は違えども、ビール・ウィスキー・スピリタス・ワイン・・・挙句には泡盛や日本酒のようなものまで
出てくるわ、出てくるわ
女の子のような容姿をしているリンクに、団員達は甘めかつ弱めのカクテルめいたものを差し出してくる。
が、残念ながら、リンクはそんなもんではなかった。
所属していたフットサルサークルでは「潰し屋」と恐れられ、飲めばテンションガチ上がりの酒豪・・・
そんなリンクがカクテルもどきなんぞで酔うわけがない。
アルコールも微量ながら摂取し、テンションにもエンジンがかかってきたところで
「リンク、いっきまーーーーーーす☆」
と、近くにあったビールもどきの樽を抱えてイッキ。
現代風に言えば、ピッチャーのようなものか?
アルコールが喉を駆けぬけていく一気特有の感覚を味わい、樽を床に置いて顔を上げると・・・
そこにあったのは唖然・呆然・尊敬・・・・様々な表情の男達と沈黙だった。
「お前、さいこーーーーっ」
若干、しーんとなってしまった場を変えたのはゼクスの一声。
「ゼクス様、いっきまーーーーす☆」
と、リンクの時とセリフは同じものだが野太い声をあげて、先ほどのものより大きな樽を抱える。
ゼクスの無茶飲みは毎度のことなのか、周りは特に不安げな様子も見せず、また盛り上がり始める。
一気飲みを終えたゼクスと拍手喝采の男達を尻目に、リンクは自分で酒を作り出していた。
(これはテキーラっぽい匂いだなぁ)
(ウィスキーの等級がわかんないから、とりあえず全部飲むかな)
そんなことを考えつつ、飲み飲み飲み・・・
新しい世界の酒をほとんど飲み試した頃に辺りを見渡すと、まさに死屍累々といった感じ。
あちゃーっと苦笑いをし、とりあえず苦しそうな人の介抱にあたる。
大学の飲み会を思い出しながら、背中をさすっていると後ろから声がかかった。
「お前、可愛い顔のぼっちゃんかと思ったら、すげーんだな!
見直したぜ!」
と、先ほどの赤髪青年ゼクスが立っていた。
「まぁ、クレイから見た目に騙されるなとは言われてたが。
ここまで面白いお転婆だとはなっ」
言葉を引き継いだのは、カムイ。
よくよく見れば、生き残っているのは、この二人と奥に座っている金髪の可愛い少年とガラの悪そうなお兄さんだけのようだ。
「お酒好きってだけじゃないですかぁ」
てへへと誤魔化し笑いをして、テキーラもどきをカッと煽る。
ゼクスやカムイのような酒豪は大歓迎である。
「ま、とりあえず飲み直そうぜ兄弟!」
と、まだまだ元気そうなゼクス。
「おいおい。うちの酒倉庫を飲みつくすんじゃねぇぞ?」
言葉とは裏腹にカムイもやる気満々のようだ。
「お酒はダメなんですけど・・・一緒にお話しに入れてもらってもいいですか?」
酒豪三人がショットグラスを持ち寄って輪を作っていると、鈴のような可愛らしい声がかかる。
振り向けば奥にいた金髪の少年がにこやかに立っている。
「お。天使の皮を被った悪魔め。
お前の自称オレンジジュースがスカイランだってことくらいお見通しだぞ?」
ニヤニヤと返したのはゼクス。
スカイランとはオレンジリキュールをベースにしたかなり強いカクテルのようなものだ。
普通は小さなコップで飲むものだが、どう見ても少年の手にある杯はそんなレベルじゃない。
少年はくすりと余裕の笑みでもって答える。
「あんたは黙ってなよ、ゼクス。
僕はあんたじゃなくって、このリンク君と話したくて来たんだ。
ねぇ?はじめましてリンク君。僕はシュラフっていうんだ。」
突然に話を振られ、思わずキョドってしまう。
「あ。はじめまして!よろしくね、シュラフ君?」
クレイ並みの豹変ぶりにどぎまぎしつつ答えれば、返ってきたのは満開の笑顔。
「思った通り〜〜〜!仲良くしてねぇ!!」
可愛らしく両手を胸の前で組んできゃぴきゃぴと喜ぶシュラフ。
その横からぬうっと手を差し出してきたのは、ガタイのいいお兄さん。
「・・・カイ、だ。よろしく。」
言葉少なだが、うっすら浮かべた笑顔は、彼の人柄を表すような温かいもので、好感を覚えた。
「こちらこそ。僕はリンク。」
と、手を握り返すと、なぜだか他の生き残り達も寄ってきた。
「カイったらずるいぞぉ。僕も握手握手〜」
「俺とだって握手しろよな!」
「団長の俺を置いてそりゃないだろ〜」
なぜか5人で握手。
変な状況だけど、なんでかな?
めちゃくちゃ嬉しい。
知らない世界に放り出されて、初めてできた「友達」。
サライのような保護者とはなにか違う、新しい関係。
そう思うと涙が出てきた。
突然泣き出してしまったリンクに4人は大慌て。
どうしたんだ?!とか大丈夫?!と口々に言う4人に、リンクは泣きながら笑ってしまった。
「・・・ありがと」
泣いたり笑ったり忙しい体を必死に制御して、それだけ呟く。
そんなリンクをカムイがそっと立たせてドアへと導く。
「明日に備えて今日は寝るぞ」
そう3人に言い残してドアを閉めるカムイ。
涙が止まらないリンクをゆっくりとした歩調で団員の寮へと連れて行く。
肩に置かれた手が暖かくて、余計に涙が止まらない。
ふっとカムイが止まったところで顔をあげると、昼間に荷物を置いた部屋の前だった。
「・・・あのっ」
カムイは、謝ろうとしたリンクをそっと抱き寄せて制止する。
自分の腕のなかにすっぽり入ってしまう少年。
今日会ったばかりのただの部下、しかも男に、自分はいったい何をしているのだろう?
「何も言わなくていい。
今日はゆっくり休め。」
そう声をかけると、ますます俯いてしまう腕の中の少年に、カムイは語りかける。
「泣くのは悪いことじゃないぞ。
特に、嬉しい時のは、な?
素直に感情を表せるのは、お前のいいところだ。大事にしろ。」
壊れ物のように頭をそっと撫でてやると、やっと少年は顔を上げた。
涙の跡が月明かりに反射して美しかった。
「ありがとう・・・ございます」
にこりと笑う少年。
やはりこの子には笑顔が似合う。
「さぁ。部屋に入ったらさっさと着替えて寝ろよ?
明日は早いんだ」
このまま抱きしめていたら、そのまま離したくなくなりそうだ。
そんな自分の奇怪な感情に苦笑しながら、彼を部屋へと促す。
「おやすみなさい」
それだけ呟いてリンクが部屋に入るのを見送った。
ドアが閉まるのを確認し「お前に月の加護があらんことを」と呟く。
可愛い顔の男の部下ってのも問題だなと自嘲の笑みを浮かべながら、本部へと戻った。
******
その次の日。
「リンクはゼクスのチームに入ってもらおうと思う。」
団長からの突然のお達し。
昨日の時点では、ライスという穏やかそうな青年のチーム配属だったはずだが?
「ゼクスのチームはもともと4人な上に、そのうちの1人がほとんど顔を見せないんだ。
ゼクスのほかは昨日残っていたシュラフとカイだから、馴染みやすいだろう?」
突然の配置換えに驚いたものの、初めての友達がチームメイトになるのは嬉しいことだ。
リンクは配置換えに同意し、新しいチームメイトの元へと向かった。
そして今・・・
昼の見回りから酒を飲んでいるリーダー、ゼクス。
外ではいつだって礼儀正しく可愛らしい天使、シュラフ。
無口で強面だが心優しい力持ち、カイ。
第一騎士団に来て一週間目のこの日、酒場で。
リンクは新しい仲間を改めて見渡し、温かい気持ちになったのだった。