2-2「イケメンは変態?」
第二章第二話〜イケメンは変態?〜
頬に冷たい感触が気持ちいい。
小さい頃は風邪を引くと、お母さんが冷やしたタオルで触れてくれて・・・
ちょうどこんな感じだったなぁ。
仕事で忙しい母親を拘束してしまうこと、申し訳ないと同時になんだか嬉しかったっけ。
そんなことをぼんやりと考えながら、重い瞼を持ち上げる。
目を開けると、そこには見慣れないイケメンが二人。
キラキラの金髪にサラサラの黒髪。
並んだ二つの顔は、揃って心配顔。
非日常的でおかしな光景に思わずふっと笑ってしまう。
「おい!笑う元気があるんなら起きろ!」
お。金髪の方が喋った。
なんかこのツンケンした口調、聞き覚えがある。
だけど、そんなこと知っちゃこったない。
私は寝起きがよろしくないのだ。
うっさいなーと呟いて再び布団に潜り込む。
すると、「だーっ!なんだこの生意気坊主!」という金髪の声が再び。
どうやらこのまま寝かしておいてはもらえないようである。
意を決し、勢いをつけて上半身を起こす。
半覚醒のまま安眠妨害者達を見渡すと、なかなか面白いことになっている。
真っ赤になって怒っている金髪に体を二つ折りにしてお腹を抱えて笑う黒髪。
なんだこれ?
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「ほんっとにすいませんでしたッ」
寝起きとはいえ・・・しょっぱなからやってしまった。
ぼんやりしていて気づかなかったが、怒っていた金髪はクレイだった。
そして、リンク起床後もしばらく爆笑していた黒髪は、リンクの直属の上司にあたる人物だったのだ。
突然倒れたリンクをここまで運び、介抱してくれていたのも彼だったようだ。
あのタオルの感触、気持ちよかったなぁと頭の片隅で思う。
二重人格イケメンのクレイと違って、なんだかいい人っぽいしな。
なにはともあれ、一安心である。
ようやく笑いの波が去ったのか、謝り続けるリンクに黒髪が話しかける。
「えっと。リンク=フェロン=リアータだな?
さっきクレイが言ったとおり、俺は君の直属の上司ってやつだ。
カムイって呼んでくれ。第一騎士団へようこそ。」
人懐っこそうな笑顔。
生来の顔はかなり鋭いもので、無表情ならきっとかなりの強面だろう。
戦いの最中のものだろうか、眉の辺りに一本、消えない刀傷まである。
それなのに、へらへらしているとも取られかねない彼の様子。
リンクは訝しい気持ちでいっぱいだ。
加えて、灰色の瞳は澄んでいて美しいが、時として寂しげな色を灯しているように見えた。
この人は、なにか踏み込んではならないなにかを、ぽっかりと空いた穴のようなものを抱え込んでいる。
警告にも似た心の中の違和感。
しかしそれは同時に、どうしようもなく彼に魅かれてしまう甘美な誘惑でもあった。
なぜだろう。
彼は人間なのに、どことなくあの黒い狼に似ている。
名前のせいだろうか?
カムイと名乗った黒い狼と同じ名を持つ黒髪の青年。
頬に突然触れた感触にはっとする。
「おーい。人の顔見て考えごとかー?」
カムイの顔を見ながら、考え込んでしまっていたようだ。
確かに自分が悪い。だが、この男、いつまでぷにぷにし続けるつもりだろうか?
いつの間にやらリンクの目の前まで来たカムイは、両手でリンクの頬をぷにぷにしている。
「あ、あのぉ・・・ぷにぷにするの止めてくれませんか?」
不覚にもどぎまぎしてしまう心臓を心中で叱咤しつつ、おどおどと止めに入る。
「かぁいいなぁ〜お前。ほっぺたふにふにのぷにぷにだーーーーっ」
突然の絶叫に動けずにいるリンクをがばっと抱きしめるカムイ。
「相変わらずの可愛いもの好きの変態め。ぬいぐるみフリークがッ・・・」
クレイが窓際でぼそっと呟く。
・・・・。
前言撤回。いい人だけどなんか変。
ああ。神様。この世界のイケメンは、頭のねじの様子がおかしいみたいです。