2-1「いざ都へ!」
早くもサライから巣立ちです。
テンポのいい文章を目指していたのですが、逆に味気なくなってそうで怖いですね(´ω`)
これから登場人物もどんどん増えていきますので、彼らのこと、よろしくお願いします。笑
第2章1話〜いざ都へ!〜
サライからもらった四次元ポケットならぬ四次元バッグを片手に、もう1時間はゆうにリンは立っていた。
「ご飯は3食ちゃんと食べて下さいね?」
「召還状と地図、ちゃんと持ってますか?」
「手紙を書いたら、このバッグに入れてくださいね?」
・・・以下略。
上京した時の親のことを、思い出す。
そんなのわかってるよ!と言いたくなることばかり言うのだ。
しかし、うんざりというより、可愛いなと思ってしまう。
こんな時の魔法の言葉。
「大丈夫だよ、サライ。困ったり何かあったりしたら、すぐサライに連絡するから。」
とびきりのスマイルをつけて、そう囁く。
泣き出しそうなサライは、はっとした顔になり、すぐに苦笑を浮かべた。
「これじゃぁ本当の親みたいですねぇ
リン、頑張ってくるんですよ」
これまた上京した時と同様、サライはリンを優しく抱擁した。
「うん」
暖かな腕に包まれ思い切り息を吸い込む。
嗅ぎなれた大好きな芳香――サライの優しい匂い。
この安心感をイメージさせる匂いとも、一年間お別れか、としんみり思う。
「一年間なんてすぐだよ。
だから、待っててね、お父さん?」
悪戯めいた笑みを浮かべ、そっと腕から離れる。
人生で二度目の巣立ち。
ありがとう、さよならは、今は言わない。
だって最後みたいになっちゃうじゃない?
だから、また会う日まで、ありがとうはとっておくんだ。
その代わりに
「じゃぁ、いってきます!」
そう元気に告げて、リンは都行きの馬車へと乗り込んだのだった。
いってらっしゃい、と寂しげでいてどこか誇らしげな笑みを添えたサライの呟きはきっとリンに届いただろう。
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「だーーーーーーーーーーーーーーーーーぁッ!広すぎるっつーの!」
リン・・・いやいやリンクは都についていなや最速で迷子になった。
そう。この町のど真ん中で雄たけびをあげている少年はリンクと名づけられたリンであった。
地図は確かにもらっていて手に握り締められているのだが。
まず、この地図!アバウトすぎ!
そして、町!店と小路多すぎ!
アホか!と、地図を地面に叩きつけるものの、すぐに反省して、くしゃくしゃの地図を取り上げる。
もう、町に入って2時間だが、城とおぼしき聳え立つ塔の連なりにはいっこうに近づけない。
真ん中に見えてるんだから楽勝!と思ったのが、運の尽きだったようだ。
今では地図のどの辺に自分がいるのかすらわからない。
時間に余裕を持っては来たが、このままでは時間に遅れてしまう。
しょっぱなから遅刻なんて、元の世界よりひどい・・・。
さっきまでの勢いはどこへやら。しょんぼりと道端に座り込んでしまう。
20才の誕生日にして、迷子。
その事実だけでも泣けてきた。
「君、気分でも悪いの?」
正直、天の声かと思った。
春の木漏れ日のような優しげで上品な声。
この際、悪魔の囁きだろうとなんだろうと構わなかったが。
「迷子なんです!」
思いっきり叫びながら立ち上がる。
声の主は、これまたサライばりのイケメンだった。
金髪碧眼ってやつ?
ああ。なんてこの世界はイケメンパラダイスなんだろう。
「ふーん。
女かと思ったら、男かよ。めんどくせぇ」
豹変、という単語はきっとこういう時に使うんだろうな、と。
真っ白になりかける頭の中でぼんやりと考えた。
めんどくせぇめんどくせぇ・・・・頭の中でエコーする。
「ほら。どこまで行きたいのかはっきりしやがれ。
俺は城に戻るとこだから、途中までなら連れてってやる」
はっとその顔を見ると、そこにあったのは意外と優しげな笑みだった。
「だりぃ」とでかでかと貼り付けたかのような表情は健在だったが。
きょとんとしていると、なぜか後頭部をはたかれる。
「ぼーっとしてんじゃねぇよ!
お前みたいな女か男かわかんねーような奴がうろついてるとなにかとトラブるからな
こっちとしてはほっとくよりめんどくせーんだよ、ばーか
ほら、行くぞ、ちんちくりんが」
照れ隠し、なのだろうか?
まるで言い訳のように、早口でまくし立てる彼はなんとも可愛らしくリンクの目に映った。
「ありがとうございます」
にやにやしながらついていくと「笑ってんじゃねぇ気持ち悪ぃ」と予想通りの罵声が飛んだのであった。
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「そういうことは先に言え、すっとこどっこい」
呆れ顔で、クレイと名乗った金髪碧眼男が悪態を衝く。
場所は王城正門前。
どうして王城なんかに用があるんだ?と聞いてきたクレイに宮仕えなんです〜とのほほん答えたリンク。
何が気に食わなかったのだろうか、「ったく、わかってりゃ・・・」「くそっ」とぼそぼそ呟くクレイを見つめる。
彼のおかげで時間には間に合いそうだが、ちょっとめんどくさいのも正直なところだった。
ありがとうと言ってここで別れるはずだったのに。
遅刻、変な人との遭遇、もう宮仕え初日にして最悪過ぎる出だしである。
「リンク=フェロン=リアータ。
おま・・・いや、君にお願いがあるのだが。」
サブいぼが立った。
聞きなれない新しい自分のフルネームに、打って変って慇懃無礼かつ優しげな口調に変わったクレイ。
顔はというと、笑顔かつ脅しといったかた〜い表情である。
「はっ、はい。なんでしょうか」
恐々といった感じで尋ねると、クレイが耳元に口を近づけた。
「てめぇ、今日の俺との会話、誰にも言うんじゃねぇぞ
俺は王城において、麗しのクレイ様と呼ばれてる貴公子なんだ
それに傷つけやがったら・・・どうなるかわかってんな?」
ヤクザも真っ青というべきか。
ただただ何度も頷くしかできないリンクの様子にクレイは満足気だ。
「ちなみに私僕は貴方の直属ではないものの上司にあたりますので
今後ともよろしくね、リンク君?」
うふふと花でも背負ってそうなクレイに連行されて、リンクの宮仕えは幕を開けた。
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クレイに連れてこられたのは、集合場所に指定されていた王城の一室だった。
奴はといえば、リンクを椅子に座らせるとさっさとどこかへ消えた。
もう一度念押しすることは忘れなかったわけだが。
(・・・クレイに会って、やっぱりよかったわぁ)
変な奴と関わってしまったことを心から悔いていたリンクだが、部屋に通され安堵すると同時に考えを改めた。
王城の内部は都以上に入り組み、たとえ王城まで着いたとしても中に入って迷っていただろう。
大学入学当時、広すぎるキャンパスで何度も迷子になっていたことを思い出すと、これからの宮仕えが憂鬱でならなかった。
「おお。やっと来たか」
えらく明るい声が背後からかかる。
しかし、返事をしようと、振り向いたの瞬間だった。
声の主を確かめる間もなく、世界がゆがんだ。
それは極彩色の世界。
視界は回転し、様々な色達が鮮やかに舞った。
万華鏡みたい。
そう思ったのを最後に、世界は暗転。
リンクは意識を手放した。