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1-2「異世界で迷子」

第1章2話〜異世界で迷子〜


目が覚めて最初に目に入ったものは白い天井。

白っていっても、無機質な真っ白とは違う。

温かみのある自然な白、クリーム色っていうのかな?


カーテンから漏れでる陽の光と戸外から聞こえてくる鳥の声。

ごくごく平凡でいてあまりない平和な朝のひと時を堪能する。

布団の中に潜り込み、思いっきり背伸びしてみる。

ああ!幸せ!



・・・って、ここドコ?



幸せ過ぎて、5分くらい気づかなかったけどさ

ここ、うちじゃないよねぇ

こんな家に住んでる友達もいないはずだ


やっと半分くらい覚醒した頭をフル回転させる

が、何も思い出せない

動物園で変な狼が喋り出して、とそこまでの記憶しかない


あーでもないこーでもないうーんあーえー

パニックに陥りそうになりながら頭を抱え込んでいると


「目が覚めたようですね」


ドアが開く音と共に、穏やかな声が降ってきた


************


腰まで届きそうな銀髪に深く蒼い色を宿した双眸。

穏やかな声からの印象を裏切ることなく、彼の表情は優しげな笑みを絶やさない。


知らない人物を目の前にパニくる私を宥めた彼は、なぜか楽しそうに言葉をつむぐ。


「とりあえず朝ご飯にしましょう。

話はその時にゆっくりできますから。」


決して命令口調ではないのに、逆らえないなにかを彼は持っていた。

色々と聞きたいことはあったが、とりあえず頷く。

その様子に満足したのか、にこりと笑んだ彼はこちらに手を伸ばす。


「さぁ。こちらに。」


なにもわからないまま、私は食卓へと招かれたのだった。


************


話をまとめてみることにしよう。


先ほどの彼は、自らをサライと名乗った。

ここはアルフィン王国の北端、夕紅の森という場所らしい。

彼はここで一人、魔術研究をしているんだと。

何が専門だとか聞きなれない単語で楽しげに語られたが、そこは割愛する。(ごめんね、サライ。笑

私は彼の家から15分程の距離にあるシャン湖のほとりに倒れていた。

彼に助けられてから2日間の間、ぐっすりと眠っていたらしい。

魔物の多く棲むこの森で無傷だったことに、彼はいたく驚いていた。


自分でまとめておいてなんだけど・・・

自分でも今の状況をまだ信じることが出来ないのが現状


どうやら私は異世界とやらに来てしまったようなのです


サライによると、異世界からの訪問者はこの世界では珍しくないんだとか。

召還された人、迷い込んだ人、自らやってくる人、などなど色々いるらしいけど。

私はどうやら迷い込んでしまったみたい。

ここに来る直前に、私がいたところの近くで誰かが異世界への扉を開いた

私はそれに巻き込まれてここに来てしまった

今のところわかるのは、それだけみたい。


魔術の世界ではそこそこ有名だというサライですら、特定の世界の特定の時間に扉を開くことはできないんだって

そういう能力は王族か特殊な部族にしか使えないらしい


つまり、帰れないってこと


なんとなくわかってたんだけどね

異世界召還モノっていうの?そういう小説って

帰れないってセオリーだもんねぇ

ヒロインは帰る手段を探して奮闘!そのうちに愛が芽生える!みたいな

でも実際こんな状況になるとそんなの不可能じゃん・・・って思っちゃうよ

家族や友人と会えない、それはものすごく辛い

けど、テストや就活とかさ、わずらわしかったものも無いんだよね、こっち

適応力の高さだけは昔からピカイチだったわけだけど、この状況で発揮されるとはね


まぁそんなこんなで、サライとの2時間にわたるながーい朝食を終えた頃には

私はこの世界で生きていく決意ができていた



*************


「ええ。まぁ私はこれでも200歳くらいなので」


こちらの世界に来てちょうど一週間目。

相変わらず穏やかな笑みを浮かべて、彼はとんでもないことを言った。


いや、とりあえず、年上だろうなぁとは思ってたよ?

外見からして25歳くらいかなって目星はつけてた

けど、あの〜200歳って・・・アナタ妖怪デスカ?


発端は、私が「この世界で生きてくよ」ってなんとも健気な発言をしたことだった。

そんな私にサライは、「じゃぁリンを僕の養女にしよう」なんて嬉しそうに言った。

この世界にも戸籍というものがあるらしく、職を得るのにもこの戸籍がないとどうにもならないらしい。

異世界から来た人間は基本的に政府の監視の下に置かれ、保護を受けられる反面、自由には生活できない。

最悪の場合、危険だと見なされれば監禁されてしまうらしい。

だから、サライの養女として登録し、始めからここにいたという設定しようと彼は言う。


ぽかーんとした表情の私に心配そうに声をかけてくるサライ。


「大丈夫ですって!こう見えても政府の方にツテはありますし、不自然なところだって誤魔化せますよ」


見当はずれなサライの言葉に思わずふきだす。


「いや。サライが200歳ってことに驚いたの!

 私の世界じゃ100歳も生きたら長生きだし、おじいちゃんの姿なんだもん」


それを聞いてサライは得心したかのように、うんうんと頷く。


「こちらの世界では、人は皆、月の加護を受けていますからねぇ

 異世界から来た人もここでは等しく月に愛され、長寿を全うします

 外見や能力は、その人が人生において一番美しく強い時期のもので固定されるんですよ

 その代わり、生殖能力は低く、子を成すことは難しいのですが・・・」



へぇ。

いわゆる不老不死ってやつかぁ。

なんだかすごい世界に来ちゃったなぁと今更ながらに思う。

科学よりも魔術が発達した世界。

銃器ではなく剣や弓が支配する世界。

そう。ここは私のいた世界とはすべてが異なっている。



相変わらず呆けた顔の私がよっぽどおかしかったのだろうか

サライは口元を手で隠しクックッと笑っている


「リンは本当に可愛いですね」


なっ?!

可愛いという単語に顔が赤くなってしまう

酸欠の魚さながら口をぱくぱく


そんな私を見たサライは体を折って笑い出した

もうたまらないといった様子である

・・・なんかむかつく


必死に赤らむ顔を正して

「何がそんなにおかしいの!」と咎めてみるものの


「そんなに可愛いと、養女ではなくお嫁さんとして登録したくなりますね・・・

 だめ、ですか?」


なんてニヤニヤしてくる


「だぁぁぁあああああああっっ」


必死に直した顔もまたすっかり紅葉状態。


穏やかで真面目で優しくて・・・

そんなサライの印象に小さなヒビが入っていく

意外とこの男、プレイボーイなのか?!

200才を越えるという男に失礼な発言ではあるが・・・

気障なセリフなんて吐かない日本人男性に慣れ親しんできたリンには刺激が強すぎるというものだ


「まぁ。お嫁さんの件は保留にしておいてあげましょう。」


いつの間にやら真顔に戻ったサライはにっこりと笑う


「ここアルフィンの民は20歳の誕生日から1年間、王宮で仕事をするという決まりがあるのです。

 リンは今19歳と半年とのことなので、今から半年後ですね。

 大事な娘を奉公に出すのは心配ですが、これもこの世界で生きるためには必須ですからね・・・

 これから奉公までの間、魔術・剣術・歴史など、必要なことを教えます」


あはは・・・

まぁやっぱりとは思ったけど、こっちでも就活というものはあるんだね

王宮仕えというのは、いわゆる公務員のようなものらしく、アルフィンでは最も栄誉ある仕事なんだとか

1年間の宮仕えとは、その器がある人材を探すための試用期間のようなものらしい


「・・・宮仕えで変な虫がつかないように手を打たねば・・・。」


珍しく陰鬱な顔をしてサライがなにか呟く。


「ん?どうしたの?」


「いえいえ。独り言ですよ」


なにを呟いていたのかと尋ねた時には、いつものサライスマイル☆に戻っていた。

不思議そうなリンの表情もまた可愛らしいな、なんてサライの頭の中をリンは知る由も無い・・・・。



この二人、どうなることやら?



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