3-4「世の中は狭いものであります」
久々の更新です。
亀更新で本当に申し訳ないです・・・。
他サイトの更新にかまけてこっちサボってました。
反省orz
なんとか完結に向けて頑張りますので今後もよろしくお願いします!
第3章4話〜世の中は狭いものであります〜
「気にしなくていいよ、サライ!」
「本当にすいません・・・。というより、私自身が残念でならないです。」
「まだ時間も早いから、用事が終わったらお茶でもしよう?ね?」
湖畔での食事を終え、今から街の散策でもしようと二人が歩き出していた矢先のこと、一羽の美しい小鳥がサライの肩に止まった。
小鳥が小さく囀りながら指し示したその脚には小さなメモがくくりつけられていた。
こんな時に誰でしょうかと、訝しがりながらもメモを開くと
”サライ殿。至急、王立魔術学院までいらっしゃるよう。リロイ”
額に手を当ててがっくりとうなだれるサライ。
どうしたの?と首をかしげてこちらを伺い見るリンとメモを交互に見て思わずため息。
「申し訳ないのですが、王立魔術学院の現院長から呼び出しをくらってしまいました。大した用事ではないと思いますが・・・」
結局、そのままサライは王立魔術学院に行って用事を済ませ、それからリンと街で合流しようという方針で固まった。
別れ際のサライの落ち込みようといったらなかなかのものでトボトボと去る姿にリンは犬か何かを捨てたような罪悪感に駆られたほどだった。
しかし、久々の女の子姿!
最初は不安だったものの、すれ違う街の人々は誰も気付かなかった。
・・・そう!これはまさに格好の買い物日和!!!
日頃、リンクの姿では入りづらい女性服のお店や宝飾店にだって入り放題!試着し放題!
サライには申し訳なかったが、買い物は一人派のリンにとって、サライの呼び出しはちょっとしたチャンスだった。
学院への道を曲がるサライを見送って意気揚々と街へ繰り出す。
思えば女の子の服を着て出歩くのは3ヶ月ぶり。
更に言えば、街を歩くのは初めてのことだった。
不思議なことに、見慣れた街の風景がいつもと違って見える。
騎士団員のリンクの目と女の子のリンの目、それは同じであって違うものなんだなぁとふいに感じる。
女の子のリンは一時的にいないんだ。
そう思うとなんだか寂しかった。
リンクを知っている人たち・・・・
顔見知りの街の人、騎士団の仲間達は女の子のリンを知らない。
そして、カムイ団長も女の子のリンを知らない。
彼が知り、彼が可愛がっているのは男の子のリンク。
そこまで考えて、あっと息を呑む。
考えちゃいけない。気付いちゃいけない。
気付いてしまいそうな感情に蓋を閉める。
(知らない世界で叶わない恋をするなんて絶対に嫌だもん・・・)
小さく決意してまた歩き出すリンだった。
****
「ふう。よく動き回った〜・・・」
満足気に呟いて暖かいティーカップを握りなおす。
向かいの椅子には袋や箱が鎮座している。
買い物を一通り終えたリンは、とある喫茶店にいた。
運よくテラス席に通してもらい、ぽかぽかと心地よい日光の下、最高に美味しいお茶とケーキで至福の一時・・・
(ここのケーキ美味しいって噂、ホントだったんだぁ〜。いつもならゼクス達と一緒だから昼でもバーにいるしね。あ〜幸せ〜)
料理上手のカイがたまに甘味も作ってくれるが、やはりプロの技は一味違う。
久々に食べるケーキのスポンジの感触に酔いしれる。
(ふわふわぁぁぁぁ〜〜〜〜)
混み合う店内を見渡せば女性客ばかり。
リンクの姿で訪れていたらきっと浮いていただろう。
女の子って幸せ、と一人でにやつく。
「お客様・・・大変申し訳ないのですが、店内が混み合っていますので相席をお願いできますか?」
ふいに女性店員から声をかけられる。
自分の卓を見れば、椅子があとひとつ残っていた。
「あ、もちろん。大丈夫ですよ。」
男ばかりの騎士団員の耳にも入ってくる人気店である。
そりゃぁ相席だって仕方あるまい。
若い女の子だったら久々にガールズトークなんて出来ちゃうかも?!とわくわくしてしまう。
が、しかし・・・
「申し訳ないです、レディー。お隣に失礼しますよ」
ふいに上から掛けられた声は男性のもの。
しかも、聞き覚えがあるこの声は・・・・
「だっ・・・・ぁうっ・・・ど、どうぞ。」
うふふと俯き加減でごまかしを試みる。
相手さんはそれを男性に慣れていない年若いレディーの照れ隠しと受け取ったのか・・・?
「そんなに緊張なさらないでください?怪しい者ではありません。騎士団に勤務しているカムイ=リオリスタ=ブラッドフォードと申します。以後、お見知りおきを」
柔らかい物腰でそっと跪き、いかにも上流階級らしく述べる彼。
(だ、だんちょーーーーーっ!!!!マズイ!!!!ってかなんで一人でケーキ屋?!)
完全に頭の中が沸騰状態のリンの脳内など知る由もないカムイ。
ふっと笑った気配がしたかと思えば、これまた流れるような動きでリンの手をとり、その甲に軽く口付ける。
その瞬間、完全に硬直したリン。沸騰どころか思考は完全停止。
そんなリンを見たカムイはちょっとやりすぎたと思ったのか?
「レディーのお気に障るようでしたら私はここで退散しますが・・・」
「あっ・・・!あのっ私は気にしてないのでっ」
(・・・・!!!私、何言ってんの!!!)
条件反射というのは恐ろしいものだ。
元来、お人好しなリンの選択肢にここで黙って見送るなんて賢いものは無かった。
「ありがとう。あなたが心の広い女性で助かりました。」
それを聞いて安心したのか、満面の笑みで椅子に座るカムイ。
彼を追い払うチャンスを自ら逃したことにうな垂れるリン。
(ああ、神様・・・世間は狭いものなのですね・・・)
リンの心中も知らず、カムイは楽しげにメニューを覗いていたのだった。
****
「ここのケーキは本当に美味しいですね。私はよく通っているのですよ。」
「え・・・ええ。」
「あ、男、しかも騎士団員がケーキ屋に通うなんておかしいですよね。我ながら恥ずかしい話ですよ。」
「いえっ、そんなことは・・・」
「レディーはここのお店によくいらっしゃるんですか?」
カムイが席についてから約10分。
バレないうちに早々に退出しようと買ったばかりの帽子を目深にソワソワするリンを引き止めるかのようにカムイは饒舌だった。
3種類程のケーキを頼んでパクつきながらも上品に話し続ける。
普通の女性であれば、イチコロニコロ、といったところか?
「・・・いえっ、私は今日が初めてで・・」
「そうなんですか!ここ、けっこう有名なお店なんですが・・・もしや他にお気に入りのお店があったりするんですか?是非、教えていただきたいものです。」
「あっ、じ、実は都に来るのが今日初めてで・・・」
その時、悪戯のように一陣の風が吹き去った。
リンの帽子がふわりと風に乗る。
「「あっ」」
(リンク?!・・・いや!あの時の?!!?)
(まっずーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
実際は3秒程度の時間だったのだろうが、二人にはまるで永遠にも思える長さだった。
カムイにとっては運命の再会。
リンにとっては最悪の事態。
そんな思惑のズレた二人の行動は双方とても分り易いもので・・・
椅子を飛ばしそうな勢いで逃げ出すリン。
それを追って腕を掴もうとするカムイ。
(なんで逃げるんだ?!?)
(絶対バレてるーーーー!!)
この期に及んでもズレまくる二人。これも一種の男女のすれ違いとやらなのだろうか?
しかし、運命の女神はカムイ側に微笑んだようで・・・
「レディー。ちょっと待ってください!」
何事かと駆けつけた店員に行く手を遮られたリンをカムイが捕獲。
右手でリンを捕まえたまま手早く会計を済ませリンの方に向かい合う。
「ちょっとお話しましょう。」
有無を言わせぬその真摯な眼差しに、とりあえず頷くしかないリンなのだった・・・。