3-2「迫り来る影」
今回はちょっと短めです。
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第三章第二話〜迫り来る影〜
クレイとカムイは延々と走っていた。
背後から次々と迫る追っ手からの攻撃を回避しつつ、だ。
「ちぃッ・・・こいつらどこまで付いてきやがる!」
「クレイ!炎を遣うから下がれ!」
「ちょ!おま!それは!」
クレイの焦った声を聞き流し、カムイは詠唱を始め腕の辺りををまさぐる。
「心配するな。そこらに隠れとけよ。」
クレイが木陰に入ったことを横目で確認し、腕輪を外すカムイ。
すると、みるみるうちにカムイの周辺の空間が歪曲し、彼自身も苦悶の表情を浮かべ始めた。
「・・・ッ!ぐぁぁああ」
めりめりという嫌な音と共に、カムイの背中からなにかが生える。
同時に彼の姿自体も変形し、あっという間に白い羽根を生やした黒い巨狼が現れた。
「・・・おいおい。やべぇじゃねぇか・・・。」
彼の幼馴染であるクレイはこれまでにも何度か彼の変身後の姿を見てきた。
しかし、これまで以上に”完成体”に近づいた目の前の姿に驚愕の色を隠せない。
(もうタイムリミットが近いってことかよ・・・)
クレイの驚きをよそに、目の前の異形は火炎を吐き、追っ手達を次々と焼き払っていく。
惨状を目の当たりにし逃げ惑う追っ手すら彼は悠々と羽ばたき、火の玉にしていった。
ものの数分で片はつき、燃え盛る木々の中心で異形は朗々と雄たけびを上げる。
再び空間が歪み、異形の体から黒い煙が立ち上った。
「大丈夫か?!」
「・・・なんとかな」
声をかけると、立ち上る黒煙の中からカムイが出てきた。
こめかみを押さえ、苦しげな表情を浮かべている。
「クレイ・・・。」
何か気になることがあったのだろう、厳しい表情を浮かべてカムイが話を切り出そうとする。
「・・・カムイ。とりあえず新しい服着ろ。話は後だ。俺は男の裸にゃ興味ないんだ。」
「すまんな。」
と、真面目くさった顔のカムイのお腹が突然ぐぅ〜とすさまじい音を立て、それを見たクレイは爆笑。
とりあえず火を起こして飯でも食うかと二人は歩き出した。
****
「やっとアルフィンか・・・」
ギアルとアルフィンの間には2つの森林が横たわる。
アルフィン側に位置するのが夕紅の森。サライが住む森である。
一方、ギアル側に位置するのが惑雪の森と呼ばれる森だ。
クレイとカムイは現在、ちょうど夕紅の森の北端にいる。
追っ手達は惑雪の森から延々と彼等を追い続け、夕紅の森の入り口まで着いてきたのだ。
合宿後の団長会議では、ギアルの不穏な動きが議題となった。
カムイとクレイには”四天子の復活という噂の真偽を確かめろ”という命令が下され、ラインシュタット城からそのままギアルへと隠密の旅に出た。
パチパチと心地よい音を立てて燃える焚き火を見つめるカムイ。
ぼんやりとしたその瞳には、いつもの活気は見られない。
「カムイ。その・・・なんだ・・・」
意を決したようにクレイが口火を切るが、言葉が見つからないようでどもってしまう。
「・・・俺、そんなに獣化進んでたか?」
質問というより、自嘲するかのような口調でカムイが引き継ぐ。
「・・・かなり、な。」
「自分でもわかってるんだ。最近、妙に体が軽いし夜目も利く様になった。」
浮かない表情のクレイを慰めるかのように急に明るい口調になったカムイだが、幼馴染の目は誤魔化せない。
困ったもんだよと軽い口調でおどけてみせるカムイは、クレイの目からすれば心配の的以外の何者でもなかった。
「あの子はまだ見つからないのか?」
「見つからない。でも、あの子が俺の”鍵”だとはまだわからないしな。ところで、お前の最近のお気に入りは城下町の踊り子ってマジかよ?」
カムイはこの話を続けたくないらしい。
「そんなこと今はどうでもいいだろ!俺はお前が心配なんだ!」
思わずクレイの口調も荒くなってしまう。
「今は俺自身やあの子のことよりギアルの問題が最優先だ。心配するなよ。今日明日に何か起こるってわけじゃないんだから、な?」
そんなクレイをやんわり諌めるかのようにウインクまでつけるカムイ。
とことん強情な友人にクレイも折れるしかないと悟ったようだ。
「ったく・・・とりあえず今日は寝るか。明日の夜までに報告を済ませなきゃだしな」
「おーけい相棒。俺が先に見張りに着くから、お前は寝てくれ。」
「あいよ。じゃぁ3時間経ったら起こしてくれな。」
絶対に眠れないだろうなと思いつつも、幼馴染の隠された強情さはよくよくわかっているつもりだ。
とりあえず言葉に従い、クレイは目を閉じる。
目を閉じる直前に瞳に映ったのは、幼馴染のうつろげな表情。
ギアルの動きも気になるが、クレイにとって一番の懸念はやはりカムイ。
王都に戻ったら例のあの子の事を本格的に調べようと決意をしつつ、狸寝入りを決め込むクレイなのだった。