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3-1「変わりゆく日常」

第三章1話〜変わりゆく日常〜


「暇だ!暇すぎる!」


二泊三日の合宿も終わり、リンク達はまた通常任務に戻った。

合宿参加者の大半は二泊三日が限界だと喜びいさんで帰還したが、ゼクスだけは別だったようである。

戻ってからというもの、どこか呆けた顔で調子がでないようだった。


「面白くなーい。」

「・・・うまい茶だ。」


シュラフはシュラフでメアリとの絡みがなくなって退屈がっている。

唯一なにも合宿中と変わっていないのはカイくらいだろうか。


「平和だー・・・」


リンク本人はといえば、平和な日常のありがたみをひしひし感じていた。

暇を見つけるとお茶を淹れて日向ぼっこ・・・と、隠居のような生活をしている。

しかし、リンクには気になって仕方がないことがあった。

カムイが帰ってこないのだ。


「・・・団長は、どうしたのかなぁ?」

「ああ。そういや他んとこの騎士団長も屋敷に残ってたぜ〜。奴らだけで打ち上げ宴会でもやってんじゃねぇ?」

「メアリ姉さんに遊ばれてんじゃないの?」

「・・・わからない。」


リンクがふとこぼした疑問にそれぞれ勝手に答えを出す。

しかし、それぞれ確かに同じ疑問を持ってはいた。

合宿が終わって一週間、カムイはまだ帰ってこないのだ。

団長の留守を預かっているライスさんに聞いても「団長には団長のお仕事がありますからねぇ」と曖昧にはぐらかされ、彼の笑顔はそれ以上の追及を許さなかった。

今までも団長が留守にすることはあったが、一週間は長い。

それに、たまにやってくる伝令の早馬も不安を掻き立てた。


「皆さん、こんなところにいたんですか?」


庭でのお茶会にふいの乱入者。

それはライスさんだった。


「今から来週入った特殊任務の説明を行いますから。食堂に来て下さいね。」


にっこりと4人の移動を促すと、他の団員を探しに行ってしまった。


「よっしゃ!仕事だ!」

「どーせ馬鹿貴族の護衛とかでしょ?」

「・・・。」

「どっこいしょっと。」


ライスさんが切れると怖いらしいという話は4人もよく聞いていた。

彼より先に食堂に入っておこうと各々らしい言葉を発して重い腰をあげた。


****

「みなさん揃ったようですので、説明を始めましょうか。」


ライスさんはパンパンっと手を叩くと、みなに清聴を促す。


「来週末、王立魔術学院の入学式が行われます。各地から要人が集まりますので、皆さんに護衛を頼みたいという依頼がきました。まぁ、毎年恒例のことですし、わからないことがある人はチームリーダーに聞くといいでしょう。」


華麗な丸投げとでも言おうか。

後でチームごとのシフト表を配りますと言ったライスさんは既に壇上から降り、あっけにとられているリンクの目の前にきた。


「お義父さまからリンク君に是非会いたいと伝言を承りましたよ」


と、悪戯っぽい笑みを添えて耳打ちするライスさん。


「サッ・・・お義父さんが?!王都に来るなんて一言も言ってなかったのに」


大小問わず王都への招待はことごとく断って隠居を決め込んでいたサライが快諾したというのも驚きだが、リンクが護衛する場に来るなんて・・・

義父の「えへへ来ちゃいました」なんて言う様子が頭に自然と浮かぶ。


サライに手紙を書かなければとリンクは自室に直行したのであった。


****

その日の夜、サライからすぐに来た返事を読みながら、リンクは自室でうなだれていた。


「リンちゃんへ

最近めっきり手紙をくれなくなっていたから心配していましたよ。

来週末の入学式の件ですが、私からライスさんの方に話をつけますので、護衛の任から離れるようにしてください。

王立魔術学院の関係者レベルの力があると、リンちゃんの変装がバレてしまう危険性があります。

忘れてはいないと思いますが、一定レベル以上の魔力保有者の目にはリンちゃんは元の姿つまり女の子に映ってしまいますので。

護衛の任の間は特別休暇をとって私の宿舎に来て欲しいな。

久々の親子水入らずを楽しみましょう。

サライぱぱより」


王立魔術学院での護衛任務は特殊業務扱いなので、ボーナスが出るはずだったのだ。

ボーナスが出たら特別休暇でもとって小旅行にでも行こうかとシュラフ達と話していたところに、この手紙。

ボーナスも特別休暇も一気に消えてしまった。


(そういえば、僕・・・いや、私って女の子だったんだ)


当たり前の事実をすっかり忘れていたことに気付く。

ふっと顔を上げると鏡に映った自分自身と目が合う。

短く切った髪、ぺったんこの胸(もともとそんなになかったけど!)、昔よりちょっとだけ広い肩幅・・・

見慣れた自分の姿をまじまじと観察する。

いつの間にかすっかり慣れ親しんでしまった男の子の自分。

今スカートなんて履いたらちょっと気持ち悪いなと苦笑いしてしまう。


ふっと昔お気に入りだった白のワンピースを着た自分を思い出す。

想像はふくらみ、場所はお気に入りだったあの動物園で、隣にはカムイ団長・・・。


(・・・!!何考えてるの私は?!)


勝手に膨らんだ想像に一人赤面してしまう。


(恋、してるのかなぁ・・・私。)


もっと違う出会い方をしていたら、どうなっていたんだろう。

今頃、デートとかしてたのかな?

いつもは警備で歩き回るアルフィンの道々を二人で歩く姿を想像する。

美形の団長の恋人なんて注目の的だろうなとにやついてしまう。


(けど、無理だよねぇ)


これまでに、人気の高いカムイ団長の噂は嫌でも耳に入ってきた。

「貴公子のクレイとやんちゃのカムイ」

第一騎士団長のカムイと第二騎士団長のクレイは二人揃って美形で、二人は競うように令嬢のハートを射止めてきた、と。

ここ最近カムイ団長は色めいた噂が消え、どうやら秘密の恋人ができたらしい、とも。


百戦錬磨のカムイ団長が夢中になる女性。

きっとどこぞの深窓の令嬢だともっぱら町の噂だった。

本当は女だといっても今は男の姿をして彼の部下となっている自分が敵うわけもない。

それに・・・とリンクはため息をついて一人ごちる。


(元カレからもお前は女らしくないって振られたんだっけ)


もし女の姿で出会っていたとしても、噂の女性に勝てるわけがなかっただろう。

可愛いもの好きの彼のことだ。好きな女性のタイプも可愛くて細やかな女性らしい人に違いない。

合宿の最終日に二人で見た夕日。

もしかしたらと期待した自分がちょっとだけ情けなくなる。


(しばらく恋はお休み!仕事頑張るぞ!)


ぱんっと頬を自らはたいて気合を入れる。

叶わない恋を追うくらいなら、仕事に精を出そう。

悲しい恋なんてごめんこうむるんだ。

本気で惚れる前に気付けてよかったなんて独り言をこぼすリンク。


カムイの秘密の恋人が自分だということを彼女が知るのはそう先のことではない・・・。




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