2-8「二泊三日のマゾ合宿3」
第二章8話〜二泊三日のマゾ合宿3〜
目が覚めてまず目に入ったのは鮮やかな赤。
そして、ぼやけた視界を広げていくと僕の隣にはとびきりセクシーな美女・・・。
「ひぃぎゃぁーーーーっっ?!」
「なっ!敵襲か?!」
「・・・リンク。静かに起きれないの?・・・」
そう。そうなんです。
僕はすっかり忘れていました。
昨晩、「リンク君とシュラフ君が一緒に寝てくれないと私、もう騎士団長やめるんだから!」と凶悪な駄々を捏ねたメアリ騎士団長。
反対するカムイ団長を半ば無視する形で、結局、メアリ騎士団長の部屋で寝たんだっけ。
まだドキドキしている胸を押さえてとりあえず深呼吸する。
「・・・あ。おはようございます。」
枕の下に隠していたと思われる短刀を握り締めるメアリ騎士団長とめちゃくちゃ不機嫌そうなシュラフに、テヘッ☆と効果音がつきそうな挨拶をする。
寝起きが悪い悪魔様には当然こんな誤魔化し効くわけないが、イケメン大好き騎士団長様には効果抜群だったようだ。
朝っぱらからいや〜〜んと萌えていらっしゃる。
さすが腐女子。寝起きもあくまで腐女子。
半ば呆れ顔でメアリ騎士団長の抱擁を受け流しつつ、とりあえず自分の貞操(?)が無事だったことにほっとするリンクだった。
*****
シュラフの機嫌も直ったところで、三人は連れ立って大広間へ。
ちょうど朝食と朝礼の時間だったようで、団員達はみな席に着いていた。
「「「おはようございますメアリ騎士団長ッ!」」」
大広間の窓ガラスがぴりぴりするような大音量の挨拶。
どんだけ体育会系だよ!と内心で毒づくが、団員達はいたって真剣である。
メアリに腕を引かれ上座の王国騎士団席にずるずると連行される道のり、ものすごーく視線が痛かった。
穴があったら入りたいというのは、こんな特殊な状況でも使えるんだなぁ・・・昔の日本人ってすごいなぁ・・・と半分麻痺した頭は無意味なことを羅列する。
が、腐女子はそんなリンクの思考に気付くはずもなく、満面の笑み。
シュラフも注目の的であることがまんざらでもないらしく、これまた満面の笑みである。
一晩で噂が広がったのか、みなだいたいの流れは把握しているようだ。
噂の主役三人が朝から連れ立って登場したことによって着くであろう尾ひれ背ひれ以下略については想像もしたくないといったところだが・・・。
昨日まで5人分だった王国騎士団席はちゃっかり二人分の席が足され、メアリ騎士団長の両隣にリンクとシュラフは案内された。
お口アーンや過剰なスキンシップそしてカムイの強烈な視線攻撃を除けば、朝食は滞りなく平和に終わった。
そしてそのまま場が朝礼へと進み、衝撃は走った・・・。
「・・・と、今日の訓練は以上の説明の通り。各人、鍛錬に励むように。
そして、第一騎士団のリンク・シュラフ両名は私の護衛についてもらう。」
大輪の花の如き笑顔の騎士団長様とは対照的に大広間の騎士達は各々あらん限りの驚愕の表情を浮かべた。
(お、俺のメアリ様がぁ・・・)
(いや、メアリ様。あなたほど強ければ護衛なんていらんでしょう・・・)
(100%私情というか欲望だろっそれ!)
(実はイケメン大好きミーハーだって噂はマジだったのかよ!)
しばし、これでもかという程の突っ込みが各人の中で行われた。
美貌のドS騎士団長として憧憬・崇拝の頂点に立っていたメアリ騎士団長の意外過ぎる一面。
みなの驚きは並大抵なものではなかった。
しかし、当の本人といえば大広間に広がった、否、自らが広げた波紋も気にすることなく「今日一日よろしくね子猫ちゃんたち」などとにやけ面である。
嗚呼、哀れなり騎士団長の崇拝者達。
*****
そんなわけで、リンクは今、メアリ騎士団長の右膝の上。
眼下ではドS騎士団長がよなべで考えたドSな訓練が行われている。
隣には訓練をサボれてゴキゲンなシュラフがメアリ騎士団長と談笑中である。
なんてカオス・・・。
悄然とした顔でぼんやりと訓練の様を見つめていると、なんだか様子がおかしい。
よくよく見れば、赤い物体が動く先々で混乱が起き、ばたばたと人が倒れるパターンを発見した。
さらに赤い物体に目を凝らすと・・・それはゼクス。
「ゼクスったらまた暴れてる。ほんっと馬鹿なんだから。」
「子猫ちゃんとこのチームはほんと面白いわねぇ」
シュラフとメアリ騎士団長もゼクスに気付いたらしく、楽しそうに眺めている。
さすがドSコンビ・・・。
鈴を鳴らしたような可愛らしい笑い声を二人が上げる様は、バックに花を背負い込みそうなほど美しいが、悪魔の耳と尻尾を見逃してはいけない。
苦笑いを抑えつつ再びゼクスに注意を戻すと、ゼクスもこちらに気付いたようである。
ニパっ☆という効果音付きの笑顔で両手をぶんぶん振ってくる。
なんだか猛獣を飼い馴らしたような気分で思わず笑ってしまう。
それを見たゼクスはなにやら安心した表情でまた移動を再開し、混乱と悲鳴も同時再開した。
リンク・シュラフは、あと30分もあれば、半分くらいの騎士が地に膝着くことになりそうだなぁと頭の中で軽く計算した。
「さぁて、そろそろ夕食時だね。
子猫ちゃんとこの赤いやつも、もう満足したろうよ?」
メアリ騎士団長もゼクスの活躍に大満足だったらしく、ご機嫌な様子だ。
彼女が右手を挙げると、それが合図だったようで各騎士団長が集まってきた。
当然ながら、どす黒い不機嫌オーラを背負ったカムイも、である。
「姉上、いえ、騎士団長殿。いつまでうちの団員をお膝の上に置かれるつもりですか?」
今にも噛み付かんばかりのカムイの様子がさほど面白かったのだろうか。
メアリはからかうような口調で応酬する。
「ほう?二人は私の護衛なのだから、私の一番近くにいるべきと判断したが・・・
なにか問題でもあるのか?カムイ第一騎士団長よ。」
「失礼ながら、二人が騎士団長殿を護衛しているというよりは騎士団長殿が二人を愛玩しているようにお見受けしますが」
昨晩の姉弟喧嘩に比べれば言葉は丁寧なものの、二人の間に流れる空気が険悪なのは間違いない。
といっても、メアリは楽しみ、カムイは怒り心頭、そこだけは違うようだが・・・。
「では、カムイ第一騎士団長。そなたには子猫を一匹進呈いたそう。どちらがいい?」
完全におちょくっている。
「・・・姉上っ!!!おふざけもいい加減になさってください!」
「ふざけてなぞおらんよ、私は」
「だったら何なんですか!下らない姉弟喧嘩に巻き込まれる二人の身にもなってください!」
メアリのふざけた提案に益々ヒートアップするカムイの怒りだが、それに比例してメアリのS心も刺激されるようである。
「今選ばぬというなら、二人には出張という形で王国騎士団に来てもらうしかないな。」
「なっ!!!」
頑として折れないメアリは新しい玩具を見つけた子どものように嬉々としている。
小さい頃はさんざカムイを苛めて遊んだものだが、お互い成長してそんなこともなくなり、カムイがいっちょまえに大人面をするようになったのがメアリには寂しくもあった。
戦い以外でこんなに高揚するのは久々だなとメアリはカムイを見つめながら意地悪な笑顔を浮かべる。
「さぁ、選ばないのか?」
その場に居合わせた全員が緊張した瞬間だった。
みながみなカムイに注目していた。
先ほどまで巻き添えを食らわぬようそ知らぬ顔をしていた他の騎士団長や王国騎士団員達も、カムイの答はまだかと生唾を飲み込んだ。
「・・・。強いて選べと仰るなら・・・リ・・」
「聞こえぬぞ?カムイ第一騎士団長。男らしくない。」
「・・・!リっリンクを選びます。というのもシュラフは今の状況を楽しんでいるようですし、リンクは見たところ・・・」
「ははっ!あはっひっははは!」
カムイが早口に続けた必死の言い訳(?)はメアリの爆笑で掻き消された。
膝上の二人を抱えこむ形で腹を押さえての大爆笑。
「・・っよく言ったなカムイ!お前は真の漢だ!あはは!」
「姉上!!!ですからこれは団長としての判断でありっ」
真っ赤になって抗弁しようとするカムイだが、メアリに適うわけもない。
メアリはカムイと同じくらい真っ赤になったリンクをひょいと抱えるとカムイの前に差し出す。
「ほれ。頑張ったご褒美だ。シュラフも明日には返すから心配するな。」
ほぼ硬直状態かつ床に足がついていないリンクを受け取らないわけにもいかず、メアリの腕から奪い取るように受け取る。
一連の流れを見守っていた騎士団長達はなぜか安堵のため息をもらすと同時に拍手をした。
それにキッと睨みをきかしたカムイだったが、彼の必殺とも言われる鋭い眼光も顔を赤らめた状態では、からかわれた中学生の可愛らしい反抗にしか見えなかった。
恐るべし姉!とでもいうべきか。
(なんだかいい物をみたなぁと騎士団長達はこの時思っていたが、後にリンクが男であることを思い出し、ちょっとだけカムイの将来を心配したという話はこの合宿後のことなので、今は割愛しよう。)
「騎士団長殿。私はリンクと少し話したいので先に失礼してもいいですか?」
「ふふ。もちろんだともカムイ。
・・・だが、夕食後に団長会議を行う。それには必ず出席するように。」
最後の一言を発したとき、一瞬だけだが、メアリには珍しく苦虫を噛み潰したかのような表情を見せた。
カムイもなにか感じ取ったようで、ふっと眉根を寄せる。
気丈な姉があんな表情をするのは珍しい。
だが、とりあえずはまさに針の筵といった感じのこの場から去るのが先決である。
カムイは小さく頷きリンクを抱えて歩き出した。
****
どこに行こうかと迷ったものの、結局、裏庭の噴水に行くことにした。
まだ硬直気味のリンクだが少し落ち着いたらしく、先ほどから何度も深呼吸を繰り返している。
壊れ物を扱うようにそっと地面に下ろしてやると、ぴくっと体が震えた。
(我が姉ながら的を射てるな・・・本当にまるで子猫だ)
真っ赤になって必死に深呼吸する姿は背毛を逆立てた猫のようで、時折震える長い睫毛は艶っぽくも微笑ましくもあった。
「リンク・・・大丈夫か?」
「・・・ひぁっ!・・えと、だいじょ、ぶ、です!」
本当に大丈夫か?と問いたくなる返事だが、会話できるほどには回復したようだ。
「さっきは・・・すまんな。
昔から姉上は俺をからかって遊ぶのが好きなんだよ」
いわゆる体育座りで体を丸めているリンクの顔を覗き込むようにして言葉をかける。
一瞬目が合ったが、ふいっと逸らされてしまった。怒っているのだろうか。
逸らされた視線を無理に合わせることもできず、立ち上がり噴水を見つめる。
「懐かしいな・・・。実はこの屋敷、うちの家の所有なんだ。
小さい頃は避暑地として使っていて、父上に叱られたり姉上に苛められるといつもこの噴水脇で泣いてた」
ふいに口をついて出た言葉に我ながら驚く。
今はシュラフは楽しんでいたように思えたからリンクだと言ったんだと説明しなければならない時だというのに。
だが、意思に反して言葉は勝手に紡がれていく。
「この噴水から見る向こうの山にかかる夕日、すごく綺麗なんだ。
・・・そっちに生えてる姫林檎の樹からもいだ実を食べながらよく夕日を見たな。」
くすっと小さな声がして、リンクの方を見ると、彼はこっちを見て微笑んでいた。
「カムイ団長にも、そんな頃があったんですね・・・
お姉さんに苛められてただなんて想像もつかないですよ?」
よかった。笑ってくれた。
彼の笑顔でこんなにも安心できるなんて不思議でならない。
少年の笑顔で安心するなんて自分はやっぱり頭でもおかしくなったのだろうか。
「姉上は昔からあの鬼畜ぶりだったからなぁ。」
「そんなまさかぁ」
だが、コロコロと笑うリンクを見ていると、なんだかそんな不思議すらどうでもよくなる。
「だけどな、昔・・・・」
「えっ?」
小さな悪戯心がむくりと起き出し、リンクの耳元に口を寄せ、メアリのちょっと恥ずかしい昔話を披露する。
暴露話をして姉にささやかな仕返ししてやれと思っていた。
だが、それ以上に、耳元に吐息がかかるたびピクリと反応するリンクが可愛くて仕方がなかった。
内容なんて気もそぞろに、リンクの反応を楽しむ。
いつまでもこのささやかな暴露話が終わらなければいいと思った。
しかし、あくまで小話である。
永遠にも続くかと思われた甘いひと時は、リンクの笑い声と共に数分で幕を閉じた。
リンクがひとしきり笑うのを見届け、本来の目的を思い出す。
「・・・リンク。さっきは驚かせてしまって本当にすまなかった。
俺が冷静だったらもっとマシな応答ができたはずなんだが。
俺がリンクを選んだのは・・・」
先ほどと同じように言葉を続けようとしたが、唇の上にすっと添えられたリンクの人差し指によって、それは阻止された。
「カムイ団長。もう謝らないで下さいよ。
なんだかんだいって・・・僕、嬉しかったんです。
昨晩は第一騎士団に必要だって言ってもらえて、さっきは困ってたところを助けてもらったんですから。
シュラフが楽しんでたのは僕にもわかってたくらいです」
最後の一言には悪戯っぽい笑顔が添えられていた。
この子には、本当に敵わないな・・・。
コロコロと変わる表情にいつも魅了され、いつも笑っていて欲しいと必死にさせられる。
「さて。事情はわかってもらえらみたいだし夕食食べに行くか?」
ふっと自分の感情の暴走に気付き、冷静になる。
自分には捜し求め恋焦がれる女性がいる。そして、なによりリンクは男だ。
きっと歳の離れた弟のようでほっとけないんだ。
自分に言い聞かせるように思考する。
「あ。ちょっとだけ待ってもらえますか?」
「ん?どうした?」
「あの・・・夕日を、見たいんです。」
ふわっと笑むその表情に釘付けになってしまう。
弟、弟と念仏か呪詛のように頭で繰り返しながら、リンクの隣に腰を下ろす。
「そうだな。」
それだけ呟いて、二人で静かに夕暮れを待った。
15分そこらの静寂は穏やかに優しく、複雑にこじれた赤い糸に繋がれた二人を包み込んだ。
若干スランプ気味で文章がうまくまとまりませんorz
いつもより更に読みにくかった文章、最後まで読んでいただきありがとうございます↓
次章ではチョイ出だったキャラや懐かしのサライが登場予定です。
よければ今後も読んでやってくださいね。
評価の方も、ばっさりばっさりやっていただけるとすごく嬉しいです。