2-7「二泊三日のマゾ合宿2」
久々の更新です。申し訳ない↓
自宅PCの調子もよくなったので、今後は更新きちんと進めたいと思いますので、よろしくお願いします。
第二章7話〜二泊三日のマゾ合宿2〜
騎士団合宿初日は、まさに「てんてこ舞い」といった様相で過ぎていった。
今は大広間での夕食中だが、周りを見ればみな一様にケガを負ったり顔色が悪かったりと満身創痍である。
そんな中、リンクは大はしゃぎ。
「これってキャビア?!あのセレブ食キャビアなの?!」
「やーばーいッ!このお肉!口の中でとろける〜!」
頬を紅潮させ興奮するその様は、非常に愛らしいものだ。
が、みな疲れ果てている中できゃっきゃと騒ぐ彼女はかなり異様である。
更にリンクの隣に居座るゼクスはいつもと変わらぬ様子で目に付く限りの食べ物・酒をかきこんでいるし、シュラフとカイも上品に食事を楽しみ、ワイン談義などしている。
「第一騎士団とこのゼクスチームの奴ら、化けもんだろ・・・」
周囲のため息など知りもせず、4人は合宿を心から楽しんでいた。
そこへ、カツッカツッと兵士のものではない足音が近づく。
ふっと4人が顔を上げると、そこに立っていたのは騎士団長。
あまりの唐突な登場、そしてなによりも彼女自身が放つ威風堂々たるオーラに気圧され、しばし時が止まったかのような錯覚に一同は包まれた。
「へぇ。今年は可愛い子が二人もいるって聞いてたけど、ほんっと可愛いわね!!」
・・・・ハイ?
たっぷりと間をおいて彼女が発した言葉は、誰しもの予想を裏切るものだった。
よくよく見ればメアリ騎士団長の頬はうっすらと紅潮し、握り締めた両の手は心なしかわなわなと震えているように見える。
シュラフとリンクはさながら蛇に睨まれたなんとやら。
ゆっくりというかじりじりと歩み寄ってくる騎士団長を目の前に完全に硬直していた。
周囲も「これから何が起こるんだ?」といった期待や不安が蔓延し、先ほどまでざわついていた大広間は水を打ったように静かになっていた。
「や〜〜〜んッ!もう食べちゃいたいくらい可愛いっ!!!」
静寂を突き破る絶叫。
そして、ガタンっと椅子が倒れる音が続き。
・・・大広間中のみなが正気に戻ると、そこにはシュラフとリンクを抱きしめ頬ずりする騎士団長閣下の御姿があったとな・・・
*****
「だ〜か〜ら〜何度言ったらわかるのです姉君!!」
大広間での一件から一時間後、ここは騎士団長室である。
部屋には青筋を立てて叫ぶカムイ、困ったように笑うフランツ以下騎士団長付き騎士の面々、そして・・・メアリ騎士団長となぜかその膝の上にちょこんと座る顔面蒼白のリンクとシュラフ。
「カムイのわからずや!私はこの子達が欲しいの!」
そう。大広間での一件の後、メアリはリンクとシュラフを自室へと誘った。
(注・誘ったというより連行したというほうが正しいが、ここはメアリの名誉のためにも誘ったと言っておこう。)
それを慌てて追ったのがカムイや団長お抱え騎士達。
可愛い子猫ちゃん達(メアリ談)との逢瀬を邪魔され、メアリはいたく不機嫌だったが、二人がカムイの第一騎士団所属と聞くやいなや様子が一変した。
端的に言えば「子猫ちゃんを寄越しなさいよ」というわけである。
基本的に団長権限を使えば人事は一発決定なのだが、見習い期間であるリンクはそうもいかない。
所属団の団長であるカムイが許可・推薦という形をとらなければ、異動できない。
「ですから、姉上。二人は我が第一騎士団の主力メンバーであり、彼らを欠くことは考えられないのです。私情による勝手は慎んでください」
メアリの膝の上で、リンクは思わず赤面してしまう。
カムイが自分をそのように買ってくれていたなんて知りもしなかったのだ。
騎士団合宿に選ばれたことだけでも嬉しかったのに、こんな形で認められていると公言され、なんだか嬉しいやら照れるやら・・・である。
「私情がなによ!あんただって子猫ちゃん可愛いなはぁはぁとか言ってんでしょ!」
「はぁはぁッ?!あ、姉上?!」
「あんたの可愛いもの好きくらい知ってんだからね!あんたみたいな変態のとこには危なすぎて置いとけないわよ!」
「なっ!・・・自分も変態のくせに何自分棚の上にあげてんだこの馬鹿姉!」
「馬鹿姉ですって?!いい年してぬいぐるみ抱いて寝てるあんたに言われたかないわよ!」
「あんたこそ王国騎士団に自分好みのイケメン揃えやがって!」
「なによ!イケメンで強くて最高じゃない!萌えよ!萌えの極致だわ!」
「本性晒しやがったな!」
・・・以下略・・・
黙ってればいい男いい女。
そんな姉弟が顔を突き合わせてあられもない内容の喧嘩をする。
その横では目のやり場を失った同席者達が互いに哀れみのような視線を交わす。
・・・ハッキリ言ってどうしようもない。
示し合わせたように同席者一同、ため息。
そんな中、すっくと立ったのはリンク。
「いい加減にっっしてくださいッ」
ぐわっと効果音が付きそうな勢いで姉弟が振り向く。
二人のあまりの目の据わりようにヒッと一歩引いたリンク。
しかし、突進してきた二人の前ではその一歩などなんの甲斐も無かった。
「「怖がらせてごめんねぇぇーーー」」
いや、怖かったのは喧嘩じゃなくて今のあんた達だよという突っ込みも二人の耳には届かないようだ。
奪い合うようにリンクを抱きしめる。
「あの、とりあえず、リンク君とシュラフ君自身に意見を聞いてはどうでしょう?」
リンクを救ったのはフランツさんの提案。
「確かに、それが妥当ね。」
「おう。それなら間違いないな。」
両者共に自分が選ばれると自信満々なのか、目が爛々と輝いている。
「まず、シュラフ君はどう思いますか?」
「もちろん王国騎士団よね?子猫ちゃん!」
「仲間と別れるなんて嫌だろ?シュラフ!」
フランツ・メアリ・カムイの言葉が重なる。
シュラフ本人といえば、冷めた目で一同をぐるっと見渡し
「僕は・・・リンク君に任せますよ」
と、にっこりと笑った。
傍から見れば天使の笑顔だが、「さぁて、面白いもんが見れそうだ。楽しませてねリンク?」と脅迫めいた意味が付されているというのにはリンク以外知りようもない。
(シュラフのばかぁぁーーー!)
この世界に来てから修羅場は何度か見たが、この時ほど逃げ出したかったことはなかったとリンクは後に語ったという・・・。
*****
「ぼ、僕はっ・・・」
ずいっとにじり寄る変態姉弟。
勘弁して欲しい。
美形の癖に変態。
この世界の定番といえば定番なわけだけど。
二人揃われると、正直、太刀打ちできる気がしない。
枯れそうになる喉を必死に絞って声を出す。
「僕はっ、カムイさんのところで働きたい、で・・す」
後半に行くにつれて声が小さくなったのは認めるが、我ながら頑張ったと思う。
目の前の二人はというと?
両者共には呆けたような顔である。
さすが年長者とでもいうか、先に呪縛が解けたのはメアリ。
「子猫ちゃん!カムイが上司だからって気を使わなくてもいいのよ?」
リンクの頬に両手を添えて囁くメアリの顔を見て、本当に綺麗な人だなぁと場違いも甚だしいことを考えてしまう。
しかし、それとこれとは別である。
ふぅっと一息ついて、説明を試みる。
「メアリ騎士団長のお誘いは本当に光栄ですし、嬉しかったです。
お誘いを断ることがどんなに馬鹿なことかもわかっています。
でも、今は・・・僕達を戦力として認めてくれているカムイ団長の下でカムイ団長のために働きたいと思うんです。」
一気に話しながら顔が赤くなるのがわかる。
一介の駆け出し騎士団員が王国騎士団の誘いを蹴るなんて、どんなに馬鹿な行為かくらいわかっていた。
でも、どうしてもカムイのことが頭から離れない。
たった数ヶ月。
ゼクス達のように常に一緒にいるわけではない彼。
それなのに、いつも見守られているような気がした。
落ち込んでいるとどこかしらか現れて何時間もただ隣で話を聞いてくれた。
巡回中にゴロツキをとっちめた日には、頭を撫でてくれたっけ。
思い出せば思い出すほど、カムイの下で働きたいという思いが強くなる。
そして、さっきの言葉。
カムイが自分を必要としてくれている、それがたまらなく嬉しかった。
ぬいぐるみフリークの可愛いもの好きの変態でも構わない。
それでもいいから、彼のために働きたい。
戦場でもし誰かのために死ぬとしたら、彼のために死にたい。
自分でも制御不能なくらいに、色々な感情が溢れ出した。
「リンク・・・ありがとう」
ふと我に返るとリンクの頬には幾筋かの涙の跡が残り、体はカムイの腕の中にすっぽりと収まっていた。
ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、ああこんなにこの人の腕の中は安心できるんだ、と微笑む。
「まったくー。これじゃぁまるで私は噛ませ犬じゃない?」
しまった!とばかりカムイを押しやり、メアリ騎士団長に向き直る。
どんな鬼の形相が待ち構えているだろうと戦々恐々と目を向けたわけだが、目に飛び込んできた彼女の表情は、予想外にも晴れやかな笑顔だった。
メアリはケラケラと笑ってカムイにつめよる。
「変態だとは思ってたけど、ついに美少年に目覚めちゃったわけぇ??
ちょいと話を聞かせなさいよ〜」
いわゆる腐女子は、異世界にもいたようである。
自分の弟がまさかねぇとかぶつぶつ言いながらピンクの手帳になにか書き込んでいらっしゃる。
ネタ帳とかいうやつだろうか・・・。
「あ、あの〜・・・」
メアリの様子に不安を感じたリンクが声をかけると
「大丈夫よ、リンクちゃん!カムイと引き離したりなんかもうしないわ!
その代わり・・・たまに王国騎士団に顔出して近況報告してね?
つまり、その・・・ね?ABCとか?・・・きゃぁww」
「へ???」
自分で言って自分で赤面する騎士団長様。
リンクはわけがわからず呆然。
シュラフは部屋の隅で腹を抱えて笑っている。
「リンク・・・おまッごふっ」
お前のこと俺は心から頼りにしてるぞと言いたかったカムイ。
残念無念。
その科白が最後まで紡がれることはなかった。
部屋の外で成り行きを見守っていたゼクスとカイが雪崩れ込んだついでに、カムイに衝突したのだ。
「リンク〜〜!やっぱ俺達と離れるなんかありえねーよな!」
一瞬前までカムイがいた場所にはゼクスが陣取り、リンクの頭をわしゃわしゃ掻き撫でる。
カイはシュラフのところに行ったようだ。
「なになに?!カムイにはもうライバルまでいるわけ?!
シュラフちゃんにも相手がいるの?!
ちょーーー萌えーーーーーー!」
腐女子はゼクス・カイを見逃さず、再び湧いている。
カムイはまだゼクスの足元でびくついている。
「もう意味わかんないっつーーーのーーーーー!」
リンクの絶叫虚しく、合宿初日の夜は刻々と更けていくのでありました。