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2-6「二泊三日のマゾ合宿1」

第二章6話〜二泊三日のマゾ合宿1〜


ある〜ひ もりのーなかぁ くまさぁんに〜 出ぇ会った〜♪


規則的な馬の蹄の音とゼクス閣下の素っ頓狂な歌声が森に響く。

森の空気が心地よく、思わず鼻歌を歌っていたらゼクスにその歌を教えろとせまがれたのだが・・・

今更だが、ゼクスに歌という凶器を与えたことに気づくリンク。

これから始まるであろう恐怖の二泊三日を目前に早くも戦前逃亡したいくらいだ。

後方から続く他のチーム達も同じ心境らしく、ゼクスに恨みがましい目を向けている。


「あと2,3キロで着きますので、みなさん覚悟を決めてくださいね」


げっそりとした団員達に苦笑しつつも明るく告げるのは副団長のライスさん。

カムイは合宿に先駆けての団長会議があるとかで昨日のうちに団を発っていた。


あと2,3キロという宣言通り、合宿場となる古城めいた建物はぐんぐんと近づいている。

静かな森の中に佇む美しい古城。

これが合宿でなく旅行だったなら、どんなに嬉しいことか。


突如、ゼクスの歌声が途切れる。


「奴さん、早速のお出迎えときやがったぜ?」


いかにも楽しげな口笛までおまけにつけて、ゼクスがにんまりとする。

はて、お出迎えとは?と視線を前方に移せば、武装した騎士達の一団。

その様子はとてもお出迎えなんて言えるものではなく、明らかに臨戦態勢といったところか。


「さぁ、始まりましたよ。

 着く前にやられたなんてことになったら第一騎士団の恥ですからね。

 準備体操がてらに暴れてきてください。」


相変わらず朗らかだが言っていることはかなり物騒なライスさん。

ここにいる全員が真剣を帯びているものの、出発前に一度集められ、稽古の時と同様に刃が切れなくなる魔法をかけられている。

好き放題暴れても命の危険はないということか。

もともと暴れる騒ぐは第一騎士団の得意分野。

先陣を切って突っ込んでいったゼクスに、皆意気揚々と従った。


「あ。言い忘れてましたが、向こうは王国騎士団の方々ですからねぇ〜」


ライスさんの相変わらず明るいが遅すぎる一言が聞こえた者はいたとかいないとか・・・


*****


満身創痍、とはこういう時に使う単語なのだろうとリンクはぼんやり考えた。

最初だからまだ大丈夫だろうと勝手に見積もったのがそもそもの間違いだったようだ。

お出迎えに来てくださった方々はなんと、泣く子も黙る王国騎士団幹部様ご一行だったのである。

こっちの戦力は17人、対する相手は5人。

楽に勝てると思ったのも束の間、ばっさばっさとなぎ倒されて、こちらのほとんどが落馬の上に気を失うはめになった。


リンクはと言えば持ち前のすばしっこさで逃げの一手。

ゼクスは落馬してもめげずに根性と底無しの体力で絡み続けた。

シュラフとカイはコンビネーションを発揮してうまく応戦していたようだ。

残りのチーム達は気を失うか戦意喪失して場を見守っていた。

ライスさんと他団長チーム員2名はこれも予想の範囲内だったらしく、今は怪我人の手当てにまわっている。


「第一騎士団のみんな、お疲れ様です。騎士団合宿へようこそ。」


先ほど戦った騎士のうち一人が残り、なにやら挨拶を始めた。

他の4人は後方から来ている騎士団のお出迎えに向かったようである。


「私は王国騎士団のフランツです。今から皆さんを合宿の舞台となるラインシュタット城へご案内します。

 第一騎士団はなかなか出迎え甲斐があり、楽しかったですよ。」


爽やかな笑みを浮かべるフランツ氏だが、壮絶なお出迎えの後となるとなんだか胡散臭い。


「さぁ、姫がお待ちですので。」


ん?姫がいるの?

合宿初参加のメンバー達は一様に目をぱちくりさせる。

一方のライスさんやゼクスをはじめとする合宿経験者達はげんなりした顔つきだ。

不思議に思ったリンクは姫?とゼクスに問うが


「ま、楽しみにしとけ。べっぴんさんだからな。・・・」


ゼクスの呟きに初参加陣がわぁっと盛り上がる。

その後に続いた「・・・中身は保証しないがな」というぼやきは綺麗に掻き消され、リンクの耳にも届かなかった。


*****


ラインシュタット城に着くとまず合宿の間滞在することとなる部屋へと通された。

5人一室の相部屋。

以前、古城を改築したホテルの写真を海外旅行パンフレットで見たことがあったが、まさにそのものといった感じだった。

窓から見える景色も一等級。


「見て見て!中庭の湖!白鳥が泳いでるよ!」

「白鳥って食えんの?」

「ゼクス。あんた何でも食おうとすんのやめなよね!」

「・・・多分、食えない・・・」


窓から外を眺めたりふかふかのベッドで飛び跳ねたり、気分はもう修学旅行だ。

出発前のゼクスの言葉に呆れていたことも忘れ、リンクはすっかりはしゃいでいる。

夜は酒盛りだ枕投げだと4人ではしゃいでいると、ふと扉にノックする音がする。


「どうぞ。」


シュラフの返事と共にゆっくりと開く扉。

そこには黒髪の青年が立っていた。


「え?だんちょ・・?」


呆けたように呟くリンクに、カムイそっくりの青年は嫌悪感たっぷりの声音で答える。


「あんな奴と間違えないでくれないか。

 私はスライだ。新入りが入ったなんて聞いてないぞ。」


後半はゼクス達に向けられた言葉だったようだ。

ゼクスにしては珍しく気難しい顔をしてる。


「よぉ、スライ。久しぶりじゃないか。

 この子はリンク。引きこもってるお前と違って、新入りなのによく頑張ってくれてんぜ」

「よく言う。飲んでばっかりで仕事もろくにしてないようなお前達に頑張ることなんてあるのか?

 シュラフは相変わらず家出中か?お父上はさぞかし恥じておられるだろうな。

 カイも腰巾着のまま。弱小貴族のご子息は苦労するな。同情するよ。」


ふっと鼻で笑うスライと名乗る青年は完全に上から目線だ。

いつも笑顔を絶やさないカムイとは顔は似ていても、全く違うとリンクは思った。

と、同時に、切れた。


「あんた!さっきからぐちぐちぐちぐち・・・何様なの!!

 どんだけ偉いのか知らないけど、あんたにそんな失礼なこと言う権利ないんだから!」


スライの目の前までずんずん迫ってまくしたてる。

身長160のリンクは、180くらいありそうなスライを見上げる形になるが、威勢だけは素晴らしいものだった。


「失礼な女だな・・・」

「なっ?!僕は女じゃないぞ!」


女だと言われ思わず焦ってしまう。

サライの魔法はほぼ完璧だが、まれに魔法抵抗力が強い人間にはもとのリンクの姿が見えてしまうというからなおさらだ。

ただ童顔だから女に見えただけならよいが、この陰険な男にばれたとしたら大変なことになるだろう。


「リンク。その辺にしとけ。」


肩に温かく大きな手を乗せられて振り向くと、いつの間にやらカムイが立っていた。


「おっ、お前っ!」

「スライもだ。大人げないぞ?」


突然のカムイの登場に挙動不審なスライを見て、カムイはいつもの笑顔を浮かべている。

だがリンクの目には、その表情は悲しそうにも皮肉な笑みにも見えた。


「もうすぐ集合の時間だぞ。みんな中庭に集合してくれ。」


いつの間にやら時間が経っていたようだ。

廊下には移動し始めた騎士団員達の流れができている。

合宿早々に遅刻など御免こうむる。リンク達は慌てて中庭への流れに混じった。


*****


「・・・というわけで、さっきのスライっていう奴はカムイ団長の弟で、うちのチーム員なんだ。」


中庭に集まってお偉い様の到着を待ちながら、シュラフから説明を受ける。

いつも騎士団の活動に参加していないのは、他機関で魔術研究にも従事しているために特別に許されているらしい。

まぁ、毎日来ない理由にはなっていないが、彼の家柄上、誰も文句は言えないようだ。

当のスライはといえば、今も離れたところでどこぞのエリート騎士団員と談笑中。

チームごとに集まっていろという命令を完璧にスルーしている。


「団長と顔はそっくりなのに、なんであんな性格悪いの?」

「まぁ団長んとこのブラッドフォード一族は・・・」


苦笑いを浮かべ語り出したシュラフの声をさえぎって鐘の音が鳴り響く。

中庭の中央に作られた石造りのステージに、一人の女性が上っていくのが見える。

ルビーのように真っ赤な髪は腰のあたりまで届き、ゆるやかな波のようである。

瞳を彩るのもまた赤。

それらの色彩は彼女の勝気な表情を際立たせていた。

「べっぴんさん」「姫」・・・ゼクスや王国騎士団員の言葉が脳裏に蘇る。

姫というより女王といった方がしっくりくるなとリンクは惚れ惚れと彼女を見上げた。


「皆のもの!今年も騎士団合宿への参加、感謝するぞ!」


先ほどまでざわついていた中庭が、彼女の一言で一気に静まる。


「私は王国騎士団長を務めるメアリ=リオリスタ=ブラッドフォードである!」


おおーー!と湧き上がる場内を尻目に、しばし固まるリンク。

え?この綺麗なお姉さんが、例のドSの王国騎士団長?

しかもブラッドフォードってことは・・・!


騎士団合宿初日、早くもリンクの頭は沸騰寸前だった。


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