未定
「って…なんだよ、一体」
体に走った衝撃。
原因がわからない一瞬の出来事に、閉じていた目を開けた瞬間…
「なんだ、これ…」
視界に広がった緑の木々に
俺は、言葉を失った。
『』
「ま、まてまてまて…落ちつけ俺」
情報を整理してみよう。
俺は誰だ?
川下大和、28歳、男
仕事は本屋のバイトで一人暮らし
趣味は…
「ゲーム、だけど…」
まさかな
ないない、そんなことないない。
見渡す風景に、なにか見覚えあるけど
いや、気のせいだ、うん。
頭の片隅に浮かんだあり得ない仮説を否定するように、胸の前で横に降った右手。
否定のジェスチャーを無意識にした俺の目に映ったのは…
黒い手袋をした俺の手。
…俺、手袋してたっけ?
ゲームするのに?
ヒヤリと背中を伝う嫌な汗。
ゆっくりとおろした視線の先に映ったのは…
見慣れない、黒いコート。
いや、正確には買った覚えも、着た覚えもないコート。
だけど、見たことはあった。
「アバター…装備?」
そう、やっとの思いでクリアしたクエストのアイテム。
魔法詠唱60%短縮のレア度Aランクの魔法アイテム。
「か、鏡、とりあえず、鏡」
とりあえず姿を確認しよう。
そう思い、鏡を望んだ途端
頭の中に浮かぶ、文字。
アイテムボックスの文字。
「嘘だろ…?」
違いは画面上か、脳内かの違い。
何年も飽きるくらい見たスクロール式のコンテンツが、俺の頭の中に浮かぶ。
見慣れたアイテムに、見慣れた文字。
以前ならコントローラーで行っていたスクロールが、考えるだけで簡単に行える。
あり得ないと思いながらも、スクロールしていけば…
》巫女の鏡
邪馬台国の巫女の鏡。
邪悪な者は姿が映らない。
使用アバターが女性のみ、魔力が10%アップ。
使用方法と共に表示される、アイテム名。
同時に浮かんだ選択とキャンセルの文字。
脳内の選択を望んだ途端…
手に感じた、僅かな重み。
「…まじかよ」
手鏡サイズの丸い鏡が、手にいきなり現れた。
赤い紐で装飾されただけの、簡易な鏡。
恐る恐るそれを覗きこめば…
映っていたのは、ゲームで使用していたアバターそのものの自分の姿だった。
一般的なショートカットの黒い髪。
それと同色の黒い瞳を携えた、ややハーフ的な顔。
二十代前半に設定したボディーは、細身の適度に鍛えられた体で…
着ているのは、クエストや購入したアイテム類。
黒いシャツに、灰色のベストや黒いズボン。
ズボンに装備しているベルトは装飾がないただのベルトで…
対象的に、デザイン性の高い指輪が二つ、手袋の上から指にはまっていた。
ブラックダイヤみたいな石が嵌め込まれた指輪は、魔法アイテムの一つで、光属性の攻撃を45%軽減する効果を持っている。