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七話 問題と計画、一匹のえび

 場所は室内。ほんのさっきまで、老人と真心たちが情報交換していた所だ。

 そこに今、零磁、真心、浦耶、爽、守十、それに老人と志波がいた。

 7人は机をぐるっと囲んでいて、その中心には、男が投げてよこしたもの――電子認証カードがあった。

 皆深刻な顔をしてそれを見ている。皆といっても、2名を除くが。

 それに、真心たちと老人と志波では、深刻の方向が違っていた。


「あの、これ大丈夫なんでしょうか?」


 まず、口を開いたのは老人だ。


「ああ、俺も心配だぜ。本当に大丈夫か?」


 続いて志波も口を開く。

 その言葉を聞き、さらに深刻度を増す真心の顔。

 少し考えた後、ようやく口を開いた。


「何ともいえません。こればかりは、私にも……」

「そう、ですか……。そうですよね。それがわかったら苦労しませんよね……」


 老人は背もたれに体重を預ける。


「ええ、零磁のせいで本当にすみません」

「いえいえ! とんでもない! 私たちはあなた方に救っていただいた。

 今回だって、零磁さんがいなかったと思うと……!」


 力のこもった右手を隠すように下げる。

 それを聞いて得意げになった零磁が話し出す前に、真心が言葉を発した。


「そう言っていただけるだけでありがたいです。しかも、協力してもらっているのですから、お互い様です」


 お互い様です。言葉の釘で零磁を出来るだけ刺すと、ため息をついた。


「せっかくの手がかりを、零磁のせいで壊してしまって……。

 それで、こんな悩ませてしまって。申し訳ない限りです」

「え、いや、はい?」


 老人がキョトンとする。志波も同じ顔だ。


「いや、この馬鹿が、機械音痴の馬鹿が、電子カードを触ってしまって、申し訳ないという事です」

「…………」

「なるほどな……。ああ、すまん。俺たちはこのカードが罠かどうかで悩んでいたんだ。

 でも、そっちは……なんか、違ったみたいだな」


 頭をかく志波。


「あ」

「あ?」

「ああ、それでも確かに悩んでましたよ。ええ、本当です」

(う、うそくせぇええええ!)


 志波の心の叫びは、もちろん聞えない。


「えっとですね。コイツは機械音痴なんですよ。それはもう重症すぎて、手のつけられないほどに」

「違うよ! 機械に嫌われやすい体質なだけだよ!」

「だから、それはほぼ一緒だろ」

「良い感じのところで違うの!」

「なんだよ良い感じなところって……」

「で、だよ。機械音痴だからって、これ、壊れようがないじゃないか。

 てか、機械音痴でどうこうなるような感じには見えないぞ。

 機械っつうか、なんつうか……」


 老人も同意見のようだ。腕を組みながら、小さくうなずいている。

 実際、この二人が思っているように、電子認証カードはまったく機械らしくない。ただの薄いカードだ。

 空色で、手のひらサイズ。読み取りのバーコード以外何も記されていない、ただのカードだ。

 いつの間にか零磁を尻にしいていた――慣用句ではなく、物理的に――真心は、ごもっともといった感じで話し始めた。


「信じられないでしょうが、こいつは触っただけで機械を狂わせてしまうのです。もちろん、兵器も。

 その物に、少しでも科学の力があれば、とでも言いましょうか」


 真心も少し迷いながら話す。


「あのとき、志波さんが俺たちを救ってくれたじゃないですか。

 普通ならあれで完全に停止していても良いほどのダメージだったんです。

 それなのに、稼動して、俺たちを狙ってきた。

 あれも、たぶん、コイツのせいでしょう」

 

 話しながらだんだんとえび固め(・・・・)が決まっていくが、誰も触れない。

 零磁が情けない声を上げている中、会話は進んでいく。


「つまり、なんだ? 罠かどうかを疑う前に、罠であろうとなかろうと、機能するかわからないってとか?」

「はい、そういうことになります」


 しばしの沈黙の後、あまりの馬鹿馬鹿しさに、笑いながら座った。


「じゃあ結局、なんとかして入る方法を考えるのしかないのか……」



 そのまま良い案は出ずに、零磁が無事に立派なえびになったところで、いったんお開きとなった。

 その後、数日かけて話し合われた結果、なんとか結論が出た。

 ざっとまとめると、作戦名、毒でもお皿ごと全部食ってしまえ作戦。

 罠でも何でもそれに頼るか、運よく協力者の物資提供日に当たるかの二択しかないのならば、腹をくくってドンと構えようと。

 話し合う意味があったのかなかったのか、ともかく、そんな結論に至った。

 作戦名の命名者は、浦耶だ。

 その他の作戦名候補は……これよりもっと酷いものだったようだ。

 ともかく、こうして目標が決まった。そして、そこからが早かった。

 計画の立案から決定までは、一日で済ませてしまったのだ。

 最終的なものとして、壁の中進入は明後日と決まった。



 その会議が終わった夜、少し遅れて出てきた志波は、星を眺めている零磁を見つけた。

 その隣に座った後、しばらくは二人とも何も話さなかったが、ついに、ぼそりと志波が話しかけた。


「あのさ、何回も話に出ている協力者はよ……。

 俺の大切な人なんだ。だから、俺も本当に壁の中に入りたいんだ……」


 そう、決まったものの中に、志波はここに残るというものもあったのだ。


「いや、お前達の言い分はしっかりとわかっているつもりなんだ。

 ここを守るやつが必要だってことは。だけど……やっぱりよ……」


 様々な思いが大きく渦を巻き、志波の心をかき乱す。

 仲間も大切、婚約者も大切。


「二兎は追えないって、わかってる。そんなのも、わかってるさ。

 ふ、大人の俺が、子供に相談してどうするんだかな。

 悪い、忘れてくれ。……だが、その代わりに」


 声は抑えてあるが、あふれる感情をまったく抑えずに、

「頼んだぞ」


 そう、呟いた。

 その返事を待ったが、まったく返事がなく、まさかと思い顔を覗き込むと、幸せそうに寝ていた。

 深い深いため息を吐くと、同情して可哀そうに思った。


「こりゃ、ため息もつきたくなるわ」


 言い残して、自分の寝床へと向かっていった。

 残された零磁は目を開けると、ふわりと飛び起きた。

 大きく月に向かって伸びをすると、決意を秘めた顔で小さく言った。


「頼まれちゃった」



 明かりがほとんどない廃墟街とうって変わって、まだ昼間のように輝いている壁の中の町。

 そして、闇夜に三本の光を突き刺している高い高いビル。

 これから崩壊していくには、あまりにも静か過ぎた夜だった。

あの日見たえび固めの痛さを僕はまだ知らない。

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