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六話 集団鬼ごっこ、二刀流

 真心達が会議を中断して外に出てくると、泣いている子供達と、傷を負った零磁が座っていた。 

 零磁の服はなぜか、一部焦げて、すすけている。

 さらには、左腕に包帯が巻かれていた。


「一応聞くが、一体何があったんだ?」

 

 真心が零磁にたずねると、苦笑いしながら零磁は語り始めた。


======================================================================================


 時は遡り、老人が関係者以外の退出を求めた時まで。

 零磁と爽も、皆と共に外に出て行った。

 ばれないように、慎重に、ゆっくりと。

 それが無駄な行動であるとは、まったく疑わずに。

 とにかく、外へ出て行った二人は、すぐに人々に囲まれた。

 特に、子供に。


「かっこいいお兄さん達! ぼくたちと一緒に遊ぼうよ!」

「違うよ! わたしたちと遊ぶの!!」

「なんでお兄さん達が、女子と遊ばなきゃいけないの!」

「なんでも!」

「ぼくたちと遊ぶほうが楽しいよ!」

「男ならわたしたちに譲りなさいよ!」

「お腹すいた!」

 

 ケンカが勃発してしまった。

 周囲の大人達は慈悲深い表情を浮かべているだけで、仲裁も何もしようとしない。

 ここの子供達は、大人達全員の子供のようなものなのだ。

 一人は皆のために、皆は一人のために。

 困っている時はお互い様なのだ。

 しかし、今困っている零磁たちにはあえて、何もしない。

 零磁達も、少し歳の違う、子供達のように思われているのかもしれない。いや、そう思われているに違いない。


「じゃあさ、皆!」


 困り顔の零磁の隣に居た爽は、逆に弾けるような笑顔だ。

 その笑顔を子供たちへ向けて、楽しそうに話す。


「皆で鬼ごっこしよう?」

「する!」「する!」


 まったく同じで、なおかつ即答だった。


「零磁さんもやりますよね?」

「もちろんだ!」


 こちらも即答だった。


「じゃあ、最初は零磁さんが鬼!」

「え?」

「うわー!」


 一斉に逃げ出す爽と子供達。

 まさか、じゃんけんも何もせずに、一方的に鬼にされるとは。

 零磁も、なぜか大人たちまでも面食らったようだ。

 一瞬で遅れたが、気を取り直して、数字を数え始めた。

 もちろん、暗黙の了解で、数字は十までだ。


「1、2、3、4、5……」


 子供達の元気な声が遠ざかっていく。


「6、7、8、9、10……!」


 スタートダッシュ、完璧。その後の加速も上々。

 一直線に走っていくと、すぐに爽の率いるちびっ子軍団を見つけた。


「待てえええ!」

「まさかの全力疾走!?」


 驚いた爽がなにやらジェスチャーをすると、集団が四つに分かれた。


「い、いつの間に!?」


 急ブレーキをかけ、どれを追うか迷った。

 そして、一番元気な男子軍団を追いかけることに決めた。

 ちなみに、爽は女子軍団と共に逃げている。

 爽は老若男女問わず、その人懐っこさで、あっという間に人気者になるのだ。

 決して守十たちが、怖がられるというわけではない。決して守十が、だ。

 目標を定めた零磁は、再びその俊足を走らせる。

 単純に考えれば、もう既に捕まっててもいいくらいだが、子供達は建物を巧みに使って、零磁の前から出たり消えたりしているのだ。

 これがなかなか捕まらない。

 悪戦苦闘しているうちに、建物がない荒地に出てきていた。

 子供の叫び声が上がったのはそのときだった。


「この声、ケンカしてたあの男の子か!」


 少し行くとその子はすぐに見つかった。が、普通に見つかったわけではなかった。

 刀を二本、両腰に差した男に、胸倉をつかまれて浮いていたのだ。

 その姿を見止めるやいなや、地面を強く蹴ってさっきよりももっと速く、駆け出した。


「その子を離せ!!!」


 一瞬にして距離をつめた零磁が、男に向かって飛び掛った。

 零磁の掌底が届くまでに、男は子供を後ろに投げ飛ばし、両腰から刀を抜いて、防御体制をとった。

 そして、零磁を受け止め、弾き飛ばした。

 痛みに一瞬顔を歪めたが、着地と同時に、第二撃を繰り出した。

 男はそれを避け、背中に一太刀浴びせようと、右手の刀を振り下ろす。

 身体を半身にし、かわし、勢いそのまま、投げられて泣き出そうとしている男の子に駆け寄った。


「大丈夫?」

「怖かったああああああああ!!」


 優しく語りかけた零磁に泣き付く。

 どうやら、大きな怪我はないらしい。

 ちょっと待ってて、と言い、振り返った。

 その相手は、左手の上に電子モニターを出し、何かを確認していた。

 体つきから、かなりの手練だと推察された。


「一応確認するが、帯葉零磁で間違いないか?」


 渋い、渋い声だった。


「うん、そうだよ。また、俺を狙いにきた感じの人かな?」


 距離をとってあっても、油断なく構える。


「ああ。かなり報酬がいいんでな。悪いが、俺の収入源になってもらうぞ」

「それは、嫌だなぁ」


 電子モニターをしまうと、男は右手の刀を地面に突き刺した。

 不可解な行動に戸惑う心を、底の方に押し込め、冷静に様子を伺った。

 瞬間。地面を這うように、一直線に炎が放たれた。

 放たれたと言うよりは、零磁に導火線が付いていて、それをたどるような感じだった。

 その速度たるや、これもまた、導火線に付いた火のようだ。

 零磁を飲み込まんと、炎の大蛇があっという間に迫ってきた。

 それを見ると、すばやく後ろに飛び、男の子を突き飛ばした。


「熱っ!」


 零磁の服の端が少し燃える。

 慌ててたたき消すと、男の子を少し見、そして男を睨みつけた。

 男の前の地面には、真っ直ぐな焦げ跡が付いている。

 その発端は、どうやら、男が地面に刺した刀の先のようだ。

 つまり、剣先から炎が放たれたという事だ。


「変わった刀を持ってるね。欲しいよ」


 視線はなおも鋭いまま。額に流れる汗を拭き、軽口をたたく。


「これは炎刀えんとうだ。そこらの兵器とはわけが違う」

「どうやら、そうみたいだね」


 零磁は今までも、刀らしきものを使う相手は何度もしてきた。

 そこから得た経験もあり、剣士と戦うのは得意なほうだった。

 しかし、この男は剣士としても、兵器使いとしても、今までのやつらとは格が違った。


(敵も、そろそろ本気を出してきたのかな)


 構えを改め、再び臨戦態勢に入る。

 男も、刀を引き抜き、構えた。

 片時の静寂を挟み、次は男から仕掛けた。

 二本の刀を乱れるように、しかし正確に振りぬく。

 手を伸ばしただけでは届かない、絶妙な間合い。

 避けることに精一杯で、じりじりと押されていく。


「だ、ダメだっ!」


 大きく飛びのいて、間合いを取り直す。

 ふと見ると、男の子がいなくなっている。

 上手く逃げたのだろうか。


(でも、よかった。これで、思い切れる)


 長く静かに一呼吸すると、左腕を前にした構えをとった。

 だが、そんな余裕はなかった。

 今度は目の前にさっきと同じような勢いで、何本もの氷の剣が、地面を這うように出現し、迫ってきていた。


「氷!?」


 避けそこなって、右わき腹に切り傷を負った。

 服に血がにじむ。さすがの零磁にも、焦りの色が見え始めていた。


「そのまま直撃していれば、氷付けになって、苦しまずに済んだものを……」


 左手で刀を引き抜く。


「へへ。簡単に、やられるわけにはね」


 少し笑ってみせる。


「さっきの流れから行くと、それは氷刀ひょうとうって感じかな。

 ますます、欲しくなったよ……」


 男は立ち止まって、その言葉を聞く。

 そして、少し瞳に暗い影を覗かせると、炎刀の切っ先を、零磁に向けた。


「やるわけにはいかん。どうしても欲しいならば、奪ってみせろ」


 地面を強く蹴り、切りかかる。


「ああ、やってやるよ!」


 再び左腕を前に出し、振り下ろされている軌道に躊躇なく飛び込む。

 男はそれに一瞬ひるんだが、止めることなく振り切った。

 しかし、左腕を切り落とすにはいたらなかった。

 零磁は勢いが付く前に、自ら刃に左腕をあてがったのだ。

 懐に飛び込んだ零磁は、思いっきり引いていた、右腕を、全力で付き放った!

 男のみぞおちに一撃、深々と手のひらが食い込む。


「うう……らあああ!!!」


 怒気に満ちた男の叫びと共に、刀によって零磁が、また弾かれる。

 すぐに受身を取って立ち上がろうとしたが、そこに、刀が振り下ろされようとしていた。

 零磁は覚悟を決めた。もう、打てる手はない。

 だが、そこで振り下ろされるべき刀は、なかなか振り下ろされなかった。

 男は、暗い影を落とし、歯を食いしばっている。


「なんで……」

「零磁さん!!!」


 叫び声と同時に銃声が鳴り響く。

 男は我に返り、銃弾を防ぐと、零磁に何か投げてよこした。

 そして、そのまま逃走体勢に入った。


「何を迷っているの?」


 零磁の問いに、固まった。だがすぐに、黙って走って行った。


======================================================================================


「で、その傷とこれか」


 傷だらけの零磁と、男がくれた物――電子認証カードを見比べて、ため息をつく真心。

 零磁のすぐそばで泣きじゃくる男の子の頭を、優しく撫でる。


「君が助けを呼んでくれたんだね。ありがとう」


 さらに零磁に強く頭を押し付けて泣き出した。


「あ、真心さん。男の子泣かせたー」

「もう一度、今度は全員で話し合う必要がありそうだな」


 零磁の言葉を無視し、頭を抱えるが、微笑して、座っている零磁の頭を優しく――強くぶっ叩いた。

鬼ごっこでじゃんけんなしとか、実際にやったら、どんな反応されるんでしょうか

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