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五話 お祭り騒ぎ、二つの情報

最終更新から約二年……。

「助かったよ志波さん! 命の恩人だね!」


 零磁が駆け寄って、手を差し出す。

 握手を求めているのだ。

 それに対して志波は、少し迷った後、岩を握っていないほうの手を差し出した。


「いや、言ったじゃないか。貸し借りはなし、だぜ?」

「それでも恩人!」

「だから、それはなんか違うっていうか……」


 話を聞かない零磁に、志波もたじたじである。

 その姿を見かねたのか、老人が助け舟を出した。


「皆様、本当にありがとうございました……!

 このご恩に一体どうやって報いたらよいのやら。

 私達に出来ることは、なにかございますでしょうか?」


 その言葉を聞いて、真心がすばやく反応した。


「それでしたら、情報交換、しませんか?」

「情報交換……ですか?」

「ええ、私達のほうでも調べているのですが……。

 なかなか情報が集まりませんので。

 ですから、敵のお膝元で頑張っておられる皆様から、情報をいただけないかと」


 敵を制するにはまずは情報から。

 真心はそう考えていた。

 確かに実行に移す行動力、戦闘に役立つ筋力など。

 必要な力というものは、たくさんある。

 しかし、最重要なのは情報だ。

 兵器が日々進化していくこの世界では、情報収集により敵を知ることが、行動の成功率を格段に引き上げる。

 今までの真心の経験も、そのことを裏付けていた。


 真心の提案に、老人はその意図を推し測り、快諾した。


「私達が知っていることなど、少ないとは思いますが」


 と、謙遜することも忘れずに。


「それでは、ここではなんですから、私達の住処で話しましょう。

 ほら、皆様をご案内して差し上げなさい」


 避難していた人々の中から、数人が出てくる。

 それに釣られるようにして大勢が動き、零磁達を取り囲んで家の中へ流れ込んでいった。

 老人はそれを見送り、中に入ろうとしたが、志波がそれを呼び止めた。


「すみません。包帯持ってきてもらっても、いいっすか?」

「それなら、家の中で皆にやってもらうといい。

 皆喜んでやってくれるだろう」

「あ、いや……その……」

「なんだ、何かあるのか?」


 志波はしばらく躊躇っていたが、踏ん切りをつけたようで、岩を握っていたほうの手を見せた。

 その手は、真っ赤に染まっていた。

 真っ赤な鮮血は、手の甲から出ているようだが、手全体に広がっていて、大げさなものにしている。


「こ、これは……!?」

「自分で……やりました。

 恥ずかしながら、俺は、動けなかったんです。

 俺よりも小さい子供ですら、立ち向かっているというのに。

 守っているだけじゃ駄目だ、攻めなくてはならない。

 そう言ったのに、俺は何も出来なかった……!

 だから、そんな気持ちを断ち切って、覚悟を決めるために……」

「自分の手の甲を……」


 老人は唇をかむ。

 そして、包帯を持ってきてほしいという言葉の意味を、理解した。

 志波は、その傷を見せたくないのだ。

 これからも守るべき人々と、勇敢に立ち向かっている子供達に。


 少しした後、勇敢な男の肩を二度叩くと、振り返って入っていった。

 叩かれたほうは一瞬戸惑ったが、すぐに気恥ずかしそうに笑った。



 その頃室内は、人々でごった返していた。

 興奮した賛辞や、好奇心による質問が、わいさわいさと飛び交っていた。

 もちろん、その対象は零磁達五人である。

 その言葉諸々に、嬉々としてこたえているのは、零磁と爽。

 浦耶と真心は勢いに押されて、苦笑い。

 守十は黙ったまま。

 時折、賛辞や質問ではない黄色い悲鳴が起こるが、それは主に真心に向けられているようだ。

 それをよしとせず、ふくれっ面をしているのは……まあ、言うまでもないだろう。

 そうこうしているうちに、志波を従えた老人が入ってきた。

 お祭り騒ぎな今の状況を受け止め、深くため息をつく。

 そして地面に杖を三回、強く打ちつけた。

 あっという間に静まり返り、視線が老人に集まる。


「今から、かなり重要な話をする。

 関係ないものは部屋から出て行ってほしい」


 命令口調ではないが、皆はそれに素直に従った。

 素直に従って……零磁と爽も出ていった。


「え、ちょっと!」

「あ、お気になさらず。いつものことです」

「はあ、そうでござい、ますか……」


 そう言って人々によって埋もれていた簡素な椅子に腰掛ける。

 真心は既に座っていた。囲まれていた時から、椅子を見つけていたようだ。

 その真心の後ろに浦耶と守十が立ち、老人の後ろには志波が立った。

 誰も気づかなかったが、志波の右手には、包帯が巻かれていた。

 それを隠すように後ろで手を組んで、老人の後ろに立ったのであった。

 

 そして一拍置くと、真心から切り出した。


「まずは、私達が持っている情報が正しいものかどうか確認したいので、そちらの知っている情報でしたら、肯定か訂正、補足をしていただけると助かります」


 老人が頷くのを見て


「では、まず第一。

 敵は三つの会社からなり、その会社ごとに生産している兵器が違う。

 これに何かありますか?」


 と情報交換を開始した。


 老人は記憶を探る動作をして、首肯した。

 それ以上詳しくは知らないようだ。


「次に第二。

 その敵の本拠地に乗り込むためには、高く頑強な壁をどうにかするか、門を通るしかない。

 これには何かありますか?」


 無言で首を横に振った。


「そうですか。それでは最後です。

 あなた方はその壁の中に協力者がいる」


 ガタン、と、うろたえて老人が立ち上がる。


「ど、どこからその情報を……!?」


 動揺する老人を落ち着かせるために、優しく言った。


「大丈夫です。これは鎌をかけただけですから。

 ただ、あなた方がこんな危険な場所で生活できていることから、勝手に推理しただけです」


 顔色をまったく変えずに言う。

 それを見て、半分納得するように座った。


「しかしそうすると都合がいいですね。

 あなた方のお仲間になんとかしてもらえれば、壁の中に進入出来るということですよね?」


 その言葉に、老人は気まずそうな顔をする。


「ぬか喜びをさせてしまい、大変申し訳ないのですが……。

 こちらから壁の中への連絡手段は、ないのです。

 定期的にあちらから物資を提供してくれる、というだけでして」


 どんどん声が小さくなっていき、面目なさそうに項垂れた。

 その様子を見てもさして落胆することもなく、真心は話題を変えた。


「わかりました。ではこの話はここまでで。

 さて、唐突に話は変わりますが、そちらが何か知っていることはありますか?

 どんな些細なことでも、関係ないと思うようなことでもいいです」


 腕を組んで、しかめっ面で記憶を探る。


「本当に、関係ないかもしれませんが……」


 弱々しく言い出した。


「電磁生命体計画、というものをご存知ですか?」

「電磁生命体計画……」


 その一文字一文字を理解するために、復唱する。

 真心の後ろの二人も、首をかしげた。


「それは一体どういう計画なんですか?」

「私も正確には知らないのですが、確か、電磁波を人間に融合する、ものだと……」

「電磁波を人間に……!?」


 電磁波にはいくつか種類がある。

 電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線など、目に見えるものから見えないものまで。

 そんな実体を捉えようもないものを、人間に融合するなど、その場にいる全員が理解し得なかった。


「やはり、忘れてください。関係がなさそうですので」


 とてつもなく弱気になっていく老人。

 しかし真心はかなり感情のこもった声で


「そうおっしゃらないでください。

 とても、貴重な、貴重な情報です。

 そんな計画の存在など、私達はまったく知りませんでした。

 その情報が嘘であれ本当であれ、何か、重要な意味を持っていると思います。

 これは私の直感なんですがね」


 と老人に感謝の言葉を述べた。

 老人は顔をほころばせて、深くお辞儀をした。

 と、そこで思い出したように、手を叩いた。


「そういえば、もう一つありました。

 最近この周辺で、刀を腰に差した人を見かけたという話があったのですが……。

 どうやら、あなた方の仲間だったようですね」


 老人が守十を示す。

 しかし、これに浦耶が慌てて反応する。


「え? 零磁さんと真心さんはともかくとしましても。

 私達がここに――この辺りに到着したのは、銃撃してしまった、直前なんですけど……」


 間。この場所に残った察しのいい人たちは、すぐさま同じ結論に至った。

 だが、真心たちはさらにもう一つの予想を立てた。

 きっと――


「きっと、そいつの正体はすぐにわかると思いますよ。

 正体も何も、敵であることは間違いないと思いますけどね」


 言葉が終わるか終わらないか。

 外が急に騒がしくなる。

 トラブルメーカー、帯葉零磁の本領発揮である。


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