一話 二人の青年、一人の男
1話目をガラリと変えました。
廃墟、廃屋、殺風景。
風で土ぼこりがまい、視界は悪い。
地面は乾燥しきっており、ところどころひび割れが見える。
草木の姿はなく、元が何とも知れない瓦礫があるだけだ。
人がいるような環境ではない。だが、そこに三つの人影があった。
その影は二対一で対峙していた。距離は離れている。そのうち、一人側が口を開いた。
「引っかかったなバカめ! この場所にあの方がくるはずないだろ?」
その人影――男は、さも愉快そうに大口を開けて笑う。
砂が多少口の中に入ったようだが、気にせず、さらに続ける。
「情報どおりまだガキじゃないかぁ。その年で大人様に盾突くからこうなるんだよぉ!」
男は正面に黙って立っている二人を挑発するように、左腕に装着している機械を見せびらかした。
「ゲヘヘ。この腕にはまっているものが何かわかるかぁ?」
その機械のレバーを思いっきり引き、正面に突きつけた。
「お前らを殺す兵器だよぉ!」
男の体のほうから二人へ向けて機械の青い光が走り、その光をそのまま撃ち出した。
光はボーリング玉ほどの球状になり、空を切って飛んでいく。
そして二人の目の前に着弾、爆発。周囲を跡形もなく消し飛ばした。
予想通り――予想以上の土ぼこりがまい、機械をはめた男は盛大に咳き込んだ。
「……最悪だぁ。ったく、こんな仕事、もっと金をもらわんとやってられん!」
そこでもう一度咳き込みそうになり、自分の口を覆った。
「こんな場所とっとと離れて、金と地位をもらって、楽に生きよう」
「それはいい考えだと思うよ。……でも、残念ながら叶わない夢だね」
「っ!?」
背を向けて帰りだしていた男は、慌てて振り向き、左腕のレバーを引きなおした。
「……よく避けたな」
光が再び走る。撃ちだされた光を簡単に避け、その子供は舞い上がった砂の中に姿を消した。声だけが存在を証明する。
「この場所に来るはずがない? 確かにその通りだよ。でも、俺達の目的はあくまでも兵器の殲滅だよ?」
突然、強烈な掌底が男を襲った。反射的に左腕の機械でその攻撃を受け止めた。
「ガキが! なめるんじゃねぇ!」
左腕を振り払い、レバーを引く。
その様子を確認した子供は、いつの間にかもう一人と合流しており、姿を現した。
その姿は、確かに大人とは呼べなかった。
掌底を撃った子供は、温かみを感じる深い茶色の髪をしており、その髪をただ単に短く切ってある。
目は鋭くも柔らかくもなく、瞳の色は髪の毛よりもなお深い茶色をしている。
顔立ちは幼さを少し残しているが、弱さを感じさせない。
微笑を浮かべている口元には、自信と余裕に満ちている。
全身に無駄なく筋肉がついており、身長は小さくない程度。
そんな青年だった。
「零磁、今回はどうなる? わかるか?」
もう一方はまだ大人だった。
丁寧な黒色をした整わせて短く切ってある髪に、同じ色の澄んだ瞳。
スッとしまった顔からは、普段の冷静さがうかがえる。
身長は青年――零磁と呼ばれた茶色の髪の青年よりは大きく、こちらも平均的に鍛えられている。
「わからないよ真心さん。俺の機械音痴はどうなるか、俺にもわからないんだよ」
武器を構える敵を前にして、まったく危機感のない会話を交わしている。
黒髪の男、改め真心は、ため息をついて片手で頭を抱えた。
「まったく……どうなるかわからないなら、なんでやるんだよ」
「しょうがないじゃん! なんかそっちの手で防がれたんだから!」
まるで親子か兄弟のような会話。その会話に怒鳴り声が乱入する。
「てめぇら! いいかげんにしろよ……!」
青い光がさっきよりも強く輝き一瞬にして手の先へ走り抜けた。
そしてまばゆい光の玉が放たれ、零磁と真心は木っ端微塵になった――はずだった。
結果としては、光が走った後何も起こらず、男の顔が驚きで満ちただけだった。
「な、なんだ!? おい! こんなときに故障かよ!」
腕の兵器を握りこぶしで叩く。
刹那、男の体に激しい電撃がほとばしり、バリバリという音が鳴り続けた。
その激しい音、光は男の体を焼き尽くし、灰にするまでおさまらなかった。
男の断末魔は一瞬にして消え、残ったのは茶色くなった兵器だけだった。
その光景を最後まで見届けた二人は、風で飛んでいった灰を眺め、そのまま視線を兵器に移した。
「ねえ、これの型番って、N-03であってる?」
深い茶色の瞳で零磁が問う。
「ああ、そうだな。改造は……されてないな。完全に支給品だ」
兵器を手に取りまじまじと眺めながら、真心はふいに、零磁の髪の毛と兵器のこげ色を比較した。
その色があまりにそっくりで、真心は吹きだしてしまった。
「ちょっと真心さん、何笑ってるの」
「あぁ……悪い悪い」
零磁の顔から目を背け、今一度、茶色くなった兵器を調べた。
「うわ……。完全にショートしてるな。もって帰っても意味なさそうだな」
ため息をつき頭を抱えた。
「まったく、なんで零磁が触る機械は全部こうなるんだろうな」
「わからない!」
即答だった。
「でも、理由をつけるんだったら、機械音痴……だからじゃないかな?」
自信満々でそう言う。
「いやいや、機械音痴とかそういう問題でもないような気がするが……」
そこまで言ったところで、真心は考えるのをやめ、意識を再び兵器の残骸へ戻した。
「これ、外装は使えそうだな。精密な部分は全部だめになってるが」
少しさとす感情がこもった目で零磁を見る。
零磁はあははと苦笑いするだけで、深く気に留めた様子はなかった。
「よし、じゃあ帰ろう! 赤三人組と合流しなきゃね」
真心は残骸をしまって、その提案に答え、零磁と共に歩き出した。
それからしばらく歩き、建物がまだまともな地域に来たとき、二人は足を止めた。
二人を囲むようにずらずらと、人が出てきたからだ。
無言で呼吸を合わせ、二人は警戒態勢をとった。
「あなたたちですかな? 兵器の殲滅に乗り出した方々とは」
緊張している二人に話しかけたのは、白髪ですりきれた服を着た老人だった。
より、至らなくなってます。
なんとなくでいいので、感想をくださると助かります!