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〜ゼロ・リトライ〜  作者: 門田 光
Ⅰ 鴉山の神隠し
9/30

~鴉山学園(表)5~

「旧校舎?」


「ああ、そうだ」


 モスドナルド(ハンバーガーショップ通称モスド)に着くなり、隆弘はそんなことを口にした。


「それがさっき言ってた面白いこととやらか?」


「なんだよ? その胡散臭そうな目はよー?」


「…旧校舎ってことは、前の校舎…ってことだよな? ンなもん、うちの学校にあったか?」


 どうでもいい感じにオレはそう答えた。

 隆弘へ疑心を抱くのには理由がある。


 高校受験の頃だ。確か六十年ほど前に校舎の建て替えが行われた、という記述をホームページで見たことがあるからだ。

 前の校舎を壊して、そこに新しく建てた、と。

 ということは、旧校舎なんて、そんなものは残っているはずがない。


 オレの考えていることが分かったのか、隆弘は失敬と手を前に差し出した。


「ああ、悪い悪い。違うんだ雁耶。旧校舎つっても、もっと前の校舎なんだよ」


「もっと前?」


「前の更に前の――つまり二つ前の校舎ってことになるな」


 人差し指と中指を立てて、得意げに話す隆弘。


「同じクラスの鈴木に聞いた話なんだけどよ、なんでもウチの学校がまだ鴉山学園じゃなかった頃。今とは違う場所に校舎があったんだと」


「へー、初耳だな、学校のホームページには載ってなかったぞ、そんなこと」


「ネットにあるのは、鴉山学園になってからの情報しか掲載されていないからなー」



「でも、流石にもう残ってないだろ? あったとしたらかなり古い建物だぞ?」


「オレもそう思ったんだけど、実はまだあるんだよ」


「へぇ、そりゃ珍しいな」


 というか、変だ。

 そんな昔の建物が未だに壊されずに残っているのはおかしい。


「えっと…ススキ? だっけ? そいつはまたなんで、そんなことを知ってたんだ?」


「鈴木な? お前…クラスメートの名前くらい覚えとけよ。一年の時も同じクラスだったろうが」


「そんなことはいいから、そのスズキより続きだ」


「そんなことって……ま、いっか。えーと春休みの終わり頃だったかな。仲のいい先輩に連れられて一回真夜中に、そこに行ったらしい」


「行ったのか…」


「…って言っても、鈴木は怖くて中までは入らなかったらしいけどな」


 根性ねぇよなー、と大げさに手を広げる隆弘。

 そこで、


「大変お待たせいたしました。照り焼きバーガーポテトセット、ストロベリーシェイクSサイズお持ちしました」


 ようやく店員が注文していたハンバーガーを持ってきた。

 トレイごとハンバーガーを受け取って、空いたテーブルに座る。


「ふー、やっとメシにありつける」


「…なんか今のお前、テスト期間の先生みたいな疲れた顔してんな」


 ほっとけ! と心の中で叫んで、ハンバーガーに(かじ)りつく。

 うん、美味い!

 普段はジャンクフードなんてあまり口にしない方なのだが、空腹の時は何を食べても美味い。


「ふぉええふぉおふぁっふぁはんは(それでどうなったんだ)?」


「食べながら話すんじゃねえよ。何言ってんのか分からねえ」


「んぐ…それで、どうなったんだ? まだ続きがあるんだろ?」


「…まあな」


 そう言ってニヤッと軽薄そうな笑みを浮かべる隆弘。


「おかしなものを見た」


「……?」


「中に入った先輩達が言ってた言葉だ。鈴木はそう聞いたらしい」


「おかしなもの…?」


「鈴木が言うには、その先輩方が―――慌てて校舎から飛び出てきたらしい。何かから逃げてきたような、恐ろしい目に合ったような―――そんな風に見えたらしい」


 いつの間にか、隆弘から稀薄そうな笑みが消えていた。

 オレは黙ってフライドポテトをつまみながら、隆弘の話を聞き続ける。


「何があったのか聞いても、先輩達はみんな口を揃えては、おかしなものを見た、の一点張りで詳しいことは決して話そうとしないんだとさ」


「へー、話だけ聞いてる分にはちょっと怖そうだな」


「だろ! オレもこの話を聞かされた時はワクワクした」


「ワクワクする? ゾクゾクじゃなくて?」


 隆弘の表情は、朝、一緒に登校していた時の皐月と同じだった。


 確かに興味深い話ではあるけどさ、ワクワクはちょっと違う気がすると思う。


「鈴木は話してて、お前のことを不審に思っただろうな」


「いやぁ、それはないんじゃねぇかな」


「なんでだ?」


「いやな…鈴木の奴、結構参ってたみたいでよ。多分、不安を紛らわせたくて誰かに話したかったんだろうな。無我夢中でずっと一方的に話し続けててさ」


 そこまで聞いて、隆弘が言わんとしていることは分かった。


 一方的に話しかけてきた――だから、話し相手のことなんて気にしていないってか。

 とにかく喋りたかった、それだけで鈴木は良かったのだろう。


「内容が面白かったからよかったよ、じゃなきゃぶん殴ってるとこだった」


「ひどいな、お前」


「いやいや、雁耶。想像してみろ? リスニングの国語バージョンを延々と聞かされるようなもんだぞ?」


「それはひどいな」


「なぁ? 殴りたくなるのも頷けるだろ?」


 オレ、間違ってないよな? って感じに同意を求めてくる隆弘。

 最後のポテトを飲みこんで、オレはこう答える。


「いや、もし聞いてるのがオレだったら、無視して帰ってるよ。というか、そもそも聞く気もないから、話かけられた時点で断って帰るな」


「お前も人のこと言えねえぞ!?」


「嫌なもんは嫌なんだよ」


 野郎の一方的トークを聞くくらいなら、自ら甘んじて生徒会の仕事を請け負うわ!

 いや、それもそれで嫌だけど。


「とまぁ、こんな感じなんだけどよ。どうだ? なんか気になるだろ?」


 ズイッとテーブルの上に身体を乗り出してくる隆弘。

 ドリンクをストローですすりながら、オレは考える。


 こいつのこの態度。なにがしたいか、おおよそ見当は付く。

 どうせ『一緒に行ってみようぜ』とかそういうのだろう。


 でもまあ、隆弘の言ってることは確かに興味深い。

 ぶっちゃけかなり気になっている。

 ホラーチックな場所が身近にあることを知って、柄にもなくはしゃいじゃってます。オレ。


 だが、ここで隆弘の言うことに賛同してはいけない気がする。

 否、気がするではない。

 するなとオレの中のゴーストが(ささや)いている。

 というのにも、これまた理由がある。


 今までこいつとつるんでロクな目に遭わなかったことが一度たりとないからだ。


 なにがあったか話そうにも説明することが多すぎるので、結果だけ言おう。


 他校の不良と喧嘩に巻き込まれたり、警察に補導されたり、そのことが皐月とアオ姉にばれて死ぬほど怒られたり、な、殴られ…たり……蹴られ……っ!


「雁耶…なんで急にそんな泣きそうな顔してんだ?」


 隆弘の言葉でハッと我に返った。


 い、いかん、過去のトラウマを思い出してたら涙が…


 てなわけで説明終了。

 これ以上はオレが限界です。


「……別に気にならないな」


 そう告げて、席を立ち、トレイを戻しに行く。


「って、ちょっと待て! おい」


 オレの肩を掴んで、引き止めてくる隆弘。

 それがちょっと鬱陶しく感じたので、これ以上にないくらい不機嫌な顔で振り返ってやる。


「なんだよ」


「いや、なにナチュラルに帰ろうとしてんだよ」


「メシ食べ終わったからに決まってるだろ?」


 それ以外になにがあるってんだ。


 隆弘の顔は引きつっていた。


「……帰宅部のエースって呼ばれるわけだぜ」


 やめろ、オレをその名前を呼ぶな。

 口には出さないけど、それ、皐月に殴られるのと同じくらい嫌なんだからな。


「で、まだなにか?」


「急に泣きそうになったり、不機嫌になったり、コロコロ態度が変わる奴だなぁ」


「で?」


「マジで気にならねぇのか?」


 これ以上にないくらい真剣な顔で問い詰めてくる隆弘。

 なんでこんなに必死なのこいつ。

 しかし何度言われようとオレの意見は変わらない。


「ああ、気にならん」


「マジで?」


「マジで」


Really(マジで)?」


Yes(マジで)



 ………………。



「なんだよ、つれねえなぁ」


「悪いが、そういうのは他当たってくれ」


 なんなら鈴木? ススキ? どっちでもいいから、そいつを連れて行け。


「そっかぁ、なら仕方ねえ」


「おう」


 これでこのやり取りはお仕舞だ。


 本当なら家で昼飯を食べるはずだったんだけどなぁ。

 やれやれだ。


「なぁ、雁耶」


「なんだよ?」


 まだあきらめてねえのか、こいつ。

 しつこいな、まるで宗教の勧誘だ。


 何度も言わせてもらうが、オレの信条は“嫌なもんは嫌だ”。

 この程度で折れるオレではない――



「実は最新の黒髪ロング成人向け写真集があるんだが…」


「分かった、何時(いつ)集合だ?」


「それでこそだ親友!」



 ――が例外はある。


 どんな確固たる信条もエロには勝てない。

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