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〜ゼロ・リトライ〜  作者: 門田 光
Ⅰ 鴉山の神隠し
8/30

~鴉山学園(表)4~

「終わった~~~~~ !」


「二人とも、お疲れさま。ありがとうね!」


「ふぅ……」


 あれからメシも取らず(皐月と姫川は仲良くコンビニ飯を食べました)、ひたすら書類と格闘すること三十分足らずで作業は終わった。


「円城君、すごい早さで終わらせていったね」


「ホントよね、私達の倍くらいは書類を捌いたんじゃない?」


 姫川と珍しく皐月まで感心の言葉を口にする。


「いや、別に大したことはしてないんだが」


 オレは嫌なもんは嫌だ。

 だから嫌なもんを早く終わらせただけで、褒められる筋合いはない。


「昔からあんたって、なにかに集中するのは得意だったわよね」


「そうだっけか?」


 覚えてねえなぁ。


「読書している時とか、いくら呼びかけても全く返事しないんだもん」


 あぁ、そう言われて思い出した。

 その時確か、『無視すんなっ!』って殴られたんだっけな。


「おかげで本当に助かったよ~。ありがとうね円城君」


 絶えず称賛の言葉を送ってくる姫川。

 その横でむーっとむくれる皐月。


「望來ー! 私はー?」


「もちろん皐月もだよ。ありがとう」


 そう言われて皐月はえへへ、と嬉しそうに頬を緩ませる。

 二人のやり取りは傍から見ていて、犬とご主人様の光景にしか見えなかった。



「終わったのなら、さっさと帰ろうぜ」


「うん、戸締りとかはやっておくから二人とも先に帰っていいよ」


 さりげなく後は任せてという姫川。


 この生徒会はブラックだけど、会長はとても優しくて、ホワイトだ。

 上司にするなら、こういう人がいいと思います。


「別にいいわよ望來。最後まで付き合うわよ?」


 しかし、そんな上司の好意を無下にするのは臨時で派遣された皐月だ。

 別に、生徒会の正式なメンバーじゃないんだから、そこまでしなくていいと思うんだけどなぁ。


「い、いいよぉ…別に。皐月は円城君と一緒に先行ってて」


「……望來、なんか必死になってない?」


「…なってないよ? もぉ~、皐月は強情だなぁ…せっかく二人きりにしてあげようとしてるのに…」


「ちょ! 望來! 何言ってんのよ?」


「何って、応援してるんだよ?」


「い、いいから! そういう気遣いはいらないから!」


 ごにょごにょと小声で話し合う女子二人。

 何を話してるか全然聞こえないけど、それより早く帰りたい。

 本来なら午前中で放課なところを、メシも食わず働かされ……お腹がね、もう空腹の限界なんです。


「なぁ、くっちゃべってないで、とっとと戸締り済まそうぜ?」


なんだかんだ言って、結局動いていたのオレだった。


 生徒会室を後にして、三人で職員室へ鍵を返しにいくと、その道すがら知っている顔が見えた。


「よ、雁耶」


 隆弘だった。


「お前…まだ学校に残っていたのか」


「そういうお前こそ、どうしたんだよ? 帰宅部のエースと陰で言われているお前がこの時間にいるなんて変だぞー?」


 プッと、噴き出す女子二人。


 帰宅部のエース、というのは最近知ったオレの二つ名である。

 家に帰ること風の如し、とかなんとか呼ばれているらしい。

 誰がそんなふざけた異名をつけたんだか……見つけたら絶対シバく。


「ハハハ…円城君は生徒会の手伝いをしてくれていたんだよ」


「入学式で居眠りしてた罰としてだけどね」


 簡潔に説明する望來と、余計な補足をする皐月。


「ほぉー、それで伊織ちゃんに捕まってたのか!」


 なるほど、といった顔をする隆弘。


「入学式の時、伊織ちゃん、かんかんに怒ってたもんなぁ」


「ああ、お陰でしばらく生徒会とお付き合いしなきゃならん羽目になった」


「おいおい、いつもの信条はどうしたんだよ? 嫌なもんは嫌だってよく言ってんじゃねえか」


「生き方を貫くってのは、そう簡単なことじゃねえんだよ、隆弘」


 そう、圧倒的暴力の前にはどんな言葉も理屈も通用しないのだ。

 皐月や新塚先生といい、なんでオレの周りには怖い女性ばかりいるの?

 違うのは唯一一人、姫川望來こと、望みんくらいだ。


 なんて思っていると、皐月が冷たい視線を送っていた。


「何、格好いいフリしてんの? バカじゃない?」


「……」


「そんな子どもみたいな台詞、口にしてて恥ずかしくなんないの? あんた」




挿絵(By みてみん)




 ほら、見てよ、この容赦なさ。

 マジ、邪悪の化身だろ、こいつ。

 しかしこれで黙っているオレではない。


 オレはな、やられっぱなしってのは性に合わないんだよ!


「自分のことをめちゃくちゃ可愛いとか抜かす奴にだけは言われたくないな」


「ちょっ……な、なな何テキトーなことを言ってんのよ!?」


 朝の件を出した途端――超動揺する皐月。

 普段ならここで真っ先に殴られるのだが、生憎ここは職員室の近く。

 流石の皐月も、先生達の前では暴力をふるえまい。

 ははは、ザマァ見ろ!

 大船に乗った気分でオレは喋り続ける。


「ホントのことだろうが? 朝、『私みたいなー』、とか言ってたじゃねえか!」


「ちょっと! 言い方に語弊があるわよ?」


「どこがだ? 似たようなもんだろ?」


「ち・が・う・わ・よ!」


「いいや、同じだね!」


「なにを――――ッ!!」


 どんどんヒートアップしていくオレと皐月。

 そのまま言い争っていくうち、段々お互い何を言っているのか分からなくなってきた。

 

「あのー二人ともー?」


「夫婦喧嘩は余所でやってくんねえかぁ?」


 申し訳なさそうに言う姫川と面白そうに言う隆弘。


「「誰が夫婦だ(よ)っ!?」」


 たまらずオレ達はハモって突っ込む。



 …………数分後。



「はぁはぁ…こ、このままじゃ、らちが明かないわね」


「そ、そうだな…」


 お互い肩で息をするオレ達。

 これ以上無益な言い争いを続けるのもアレなので一時休戦することにした。


「望來、早く鍵返して帰ろっ?」


「うん……そ、そうだね」


 先へ行く皐月と望來。


「バイバイ円城君、逢坂君」


「じゃあねー二人ともー」


 そう言って、頭を下げる望來と手を振る皐月。


「おー、また明日!」


 しゅびっと手を上げて答える隆弘。

 続けてオレも同じように手を上げた時だった。


 キッと皐月が睨んできた。


 その目は、


(後で覚えておきなさいよ?)


 と言っていた。


「お、おう…」


 言葉に詰まりながらも、なんとか短い返事を返す。


 あいつ、結構根に持つんだよなぁ。

 キレやすいくせに、後を引かせるのだから、あいつもあいつでタチが悪い。

 うーむ……次、学校の外で会った時が怖い。

 今度プロテクターでも買おうかな。



 二人の姿が見えなくなるまで眺めていると、ククッと笑い出す隆弘。


「いやぁ、青春だねぇ~雁耶」


「さっきのやり取りを見て、なんでそんなことが言えんだよ?」


 今更だが、どう見ても小学生がやるような低レベルの醜い争いだった気がする。

 女子達がいなくなったところで、オレは最初の疑問を思い出した。


「んで? なんでお前も学校に残ってたわけ?」


「ちょいと面白い話を耳に挟んでな、それでクラスの奴と駄弁っていたらこんな時間になってたんだよ」


「ほう」


 オレが嫌々働いてる中、教室でクラスメートと楽しく会話をしていた、と。

 そう考えると、なんかムカつくな。オイ。

 皐月なんか、友達だからという理由で、自ら生徒会の手伝いに来ていたというのに、こいつは……。


 遊んでる余裕があるなら、ちょっとくらいオレの手伝いに来てくれてもいいんじゃない?


「それで伊織ちゃんに聞いて、お前を探してたんだけど………どうした? 急に不機嫌っぽくなったな」


「いや、なんでもない。ありもしない可能性について考えただけだ」


「なんだ、そりゃ?」


「どうでもいいことだよ」


 こいつが人の手伝い――なんて殊勝なことするわけがない。

 仮に立場が逆だったとしたら、オレもこいつを見捨てる自信がある。

 全財産賭けてもいい。


「はぁ、オレ達も早く帰ろうぜ。いい加減腹ペコで死にそうだ」


「なんだよお前……昼メシ食ってねえの?」


 そうなんだよ、メシも食わず、仕事に没頭してたんだよ。

 そう言ってやりたかったが、声を出すのもだらしかった。


「なら、モスド寄っていかね? さっき言ってた面白い話。ちょうどお前に話したいと思ってたんだよ」


「別に構わねぇけど」


 なんだろう?

 面白い話ねぇ。すごくどーでもいい話な気がするけど。

 ま、食べれるところに行けりゃいいか。

 メシさえ食えれば文句はねえ。

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