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〜ゼロ・リトライ〜  作者: 門田 光
Ⅰ 鴉山の神隠し
27/30

~剣×剣4~

短めですが、どうかご容赦を。

「ブゥ――っ!」


「ど、どうしたんだい? 円城君?」


 つられて驚きの顔をする鴉間先生。

 しかし、構っていられる余裕はない。


「な、なな、なななんで、なんっ!?」


 パ二くって、早口で言おうとし、勢い余って舌を噛んでしまった。

 頭を上げると姫川は、片側だけ下ろしたお下げを整えて、顔はそのまま、視線だけで此方を見据えた。


 まずい、今最も会ってはならない人物と直面してしまった。

 それも上位ランキング一位の!


 最悪のナイス・タイミング。


 悪運ここに極まれり。


 こんなことってあるの? ねえ、あるの?

 ズル休みして、上司に見つかってしまうなんて、そんなのあんの?

 残酷だよ神様……。

 もしこれが神様の悪戯なのだとしたら、オレは今後無神論者を貫く所存です。


 姫川はから身体全体を向けると、ニコニコと、いつもの慈愛百パーセントのスマイルを浮かべている。

 パッと見た限り、どこも変わっていない。変わっていないんだけど……なんかその後ろから空恐ろしいオーラが見え隠れしてる。

 色でいうと紫とか黒…?


「ねえ、円城君。一つ聞いていいかな?」


「な、なんでございましょう?」


「どうして円城君は美術室にいるのかな?」


「そ、それは~」


 なんて言えばいいんだよ――っ!?

 最近こんなんばっかじゃねえか、畜生――!

 これでこのやり取り何回目だ?


「円城君…」


「は、はい?」


「別に私は生徒会を休んで、ここにいることを責めている訳じゃないよ?」


「と、言われますと…?」


「先に私の質問に答えてくれないかな?」


 圧力を感じる。

 怖い……笑顔なのに、望みん、なんか怖いよ?


「それとももう忘れちゃった? ならもう一回聞くね? どうして円城君は美術室にいるのかな?」


 繰り返された質問は機械のように正確で、先ほどのものと同じ。

 声に感情が感じられないところとか、超そっくり。


「どうして円城君は美術室にいるのかな?」


 なぜ復唱した!?

 逃げたい! 今すぐここから逃げ出したい! お家に帰りたいよぅ!


「あの、姫川さん? ちょっと待ってくれない?」


「私ね、これから職員室に行って、新塚先生にこの書類を提出して、それからまた生徒会室に戻らないといけないんだ。その他にもまだやることがいっぱいあるんだ」


「そ、それは暗に、時間がないから早く答えろって言ってます?」


「嫌だなぁ、円城君。私は別になにも言ってないよぉ?」


 ふふふ、と微笑む姫川。だが目が笑ってない……。

 絶体絶命のピンチ。助けてくれる仲間はいない。頼れる隆弘は置いてきてしまった。


「えっと、姫川さん。いいかな?」


 しかし助けは意外なところから出てきた。


「なんですか鴉間先生?」


「円城君はね、僕に相談しにここへ来たんだよ」


「相談?」


「うん、彼は今、友達と喧嘩中らしくてね。そのことですごく悩んでいるんだ。子犬を殺された顔をするくらい」


「……そう、なんですか」


 鴉間先生がそう言うと、姫川の硬い態度がややほぐれた。

 た、助かった! 鴉間先生ありがとう! あなたは今、生徒の命を救いましたよ。


「なら、そうだと早く言ってもらえるとよかったんですけど」


「…そんなの恥ずかしくて言えるかよ」


 高校生にもなって、仲直りの仕方が分からないオレです。


「まあ、理由が分かっただけでもよしとしよう、うん」


「悪い…」


「ん? なにが?」


「いや、生徒会休ませてもらってまでして、まだあいつと仲直り出来てないこととかさ、なんか申し訳なくて」


「そうだと思うのなら、一刻でも早く、皐月と仲直りしてくれないかな」


「う……それはそうなんだけど」


 他人に言われると、やっぱ心にグサッてくるよなー。


「あんな皐月、初めて見たよ? ものすごく辛そうなんだから」


「え、あいつが?」


「そうだよ。最近なんか暗いし、お昼もご飯、あんまり食べないし、それこそ子犬を殺されたような顔してたよ?」


「…………」


 皐月が? あの皐月が? 落ちこんでる?


「だからさ、こんなところで油売ってないで、早く仲直りしてあげて……このままじゃ皐月が可哀そうだよ」


「……なるべく前向きに善処します」


とりあえず議員なんかが使いそうな十八番台詞を言っとく。

オレは出来ないことは約束しない主義だ。


「なるべく? 絶対にでしょ?」


「え…?」


「返事は?」


「りょ、了解…」


「声が小さいよ? そんなので皐月とまともに話せると思ってるの?」


「サー! イエッサー!」


 怖ぇー、望みん超怖ぇー。


 これを機に、オレには、“帰宅部のエース”に次ぐ記念すべきセカンド・ネーム、“生徒会の社畜”というあだ名がつけられるのだが、この時まだ知る由もない。


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