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〜ゼロ・リトライ〜  作者: 門田 光
Ⅰ 鴉山の神隠し
22/30

~鴉山の神隠し(全)1~

七年前起きた鴉山の神隠し……その全容について語ってみようと思う。

下手くそな説明かもしれないが聞いてくれ。

 鴉山の神隠し。


 今じゃ誰もがあまり知らない事件だ。


 内容は、七年前、鴉山学園の女子生徒が行方不明になったこと。


 消えた女子生徒の名前は百合原彩香(ゆりはらさやか)

 当時、鴉山学園二年生で美術部所属。

 大人しめな性格で友好関係は広くなかったらしい。


 彼女は下校後、午後八時十二分に旧校舎の入り口に立っているのを目撃されたのを最後に一切の消息を絶った。


 失踪から三日後、旧校舎内で捜索が行われたが、百合原はおろか鞄や身に着けていた物も見つからず、手掛かりは掴めなかった。

 警察は事態を重く見て、本格的に捜査を開始。

 百合原の近辺をしらみつぶしに当たっていったらしい。

 だが一週間経っても百合原は発見されなかった。


 人一人が忽然と姿を消したこの事件を、当時の人達は畏怖の念をこめて、鴉山の神隠しと呼んだ。


 その後も捜索は続けられると思われたが、間もなくして、なぜか捜索は打ち切られる。


 新塚先生に聞いた話では、これは学校側の決定とのことだ。

 学校はこの話が広がらないようにと職員達へ箝口令を敷いた。


 鴉山学園は創設百年を超える歴史ある由緒正しき学校だ。

 百年……約一世紀にも及ぶその年数には、それなりのイメージと風潮がある。

 当時、学園理事長はこのことが公になり、学校のイメージが悪化するのをひどく恐れた。

 これも新塚先生から教えてもらったのだが、理事長には、警察の捜査を取り止めさせることが出来るくらいの発言力と権力を持った親戚がいるらしい。

 そこで、身内である警察のお偉いさんに協力してもらい、事件を隠蔽工作した。


 新塚先生はこの件で理事長とかなり揉めたらしい。

 生徒一人の命と学校の名誉は天秤にかけられるものじゃない。それは教職者として最も恥ずべき行為だと言っていた。

 全くもってあの人らしい台詞である。

 何度も抗議したそうだが、取り合っては貰えず、結局この事件は当事者達の中で処理され、世の明るみへ出ずに終わった。


 そうなる前に、新塚先生は行方不明のまま処理されて、百合原の家族は黙っていないはずだと、百合原の自宅を訪ねたことがある。

 少しでも事態を公にリークしたかったからだ。

 ニュースに流れるような出来事にまで発展すれば、学校も黙っていられないだろう、と踏んでいたらしい。

 その際、クビにされても構わなかったと言っていたことから、七年前の新塚先生がどれだけ本気だったか想像できなくもない。

 新塚先生は職を失う覚悟で百合原の自宅まで赴いたが、それは無駄足に終わった。

 百合原の家族は父親だけで、家族仲はひどく冷めていた。

 無関心と言ってもいいかもしれない。

 新塚先生は、血の繋がった他人と表現していた。


 父親は娘がいなくなったことを特に気にしなかったらしい。

 むしろ気が楽になったと言っていたそうだ。

 学校側からは多額のお金が支払われており、恐らく口止めを含むものだと思われる。


 百合原を気にかける人間は誰一人としていなかった。

 唯一の家族だった父でさえも。


 誰にも気にかけられない人間。

 生きながらに存在を認められない


 それはもう幽霊と同じではないだろうか。


 オレはこれこそが、事件が忘れ去られることになった最大の理由だと思う。


 新塚先生はどう思ったのだろうか?

 あの人は人一倍生徒を大切にする教師だ。内心気が気でなかったはずだ。

 辛かったし、憤ったし、哀しくて、そして悔しかったんじゃないだろうか。

 あの人は凄い。

 そんなことがあったにも関わらず、まだあの学校にいるのだから。


 さて、神隠しのことについて話を戻そう。


 以上が鴉山の神隠しの全容だが、話は終わりじゃない。

 ここからはその話を聞いたオレ個人の意見を述べさせてもらう。


 オレは失踪した生徒――百合原彩香について聞いてみた。

 どんな人物だったのか純粋な興味があったからだ。

 もしかしたら彼女の日常生活、その背景からなにか分かるかもしれない。

 そんな考えも一応ない訳でもなかった。


 新塚先生はすんなりと教えてくれた。

 それも鮮明に分かりやすく。お陰で百合原彩香という人間のイメージ像が大まかには出来上がった。

 ただ、その生徒の話を聞いているうちにオレはあることが気になった。


 まず、百合原彩香という人間についてだ。

 結論から言おう。


 彼女は異常だった。


 百合原は大人しめな性格で、友人も少なかったことから恐らく口下手なのだろうとオレは推察した。

 しかし、彼女に友人が少なかったのは別の理由があった。


 彼女、百合原彩香には、ストーカー癖があった。

 なんでも、好意を抱いた相手のこと、どんな些細なことでも知りたがり、知らないと気が済まなくなるという狂気的な一面を持っていた。

 住所と電話番号は当然、家族構成、休日していたこと、朝食べたものまでだ。

 部屋から窓の外を見ると、玄関の近くに立っており、此方を見て笑っていた、という証言もある。

 被害に遭った人の鞄、机、なんなら部屋の窓際等、身の回りには盗聴器が仕掛けられていたこともあったとのことだ。

 被害者は中学の同級生と、高校の一つ上の先輩。二件は確認されている。


 いやー素直に怖いと思ったね。

 例え、皐月レベルの美少女でも絶対に嫌だよ、こんなメンヘラ女。


 なんだかいなくなってくれたことに安心感を覚えてしまうが、当時はこの考えの人間がほとんどだったらしい。

 これもこの事件が忘れ去られることになった要因の一つでもある、とオレは考えている。

 要は臭いものには蓋をしとけって話だ。


 で、この話でオレが気になったのは三件目の被害者だ。

 この人物について話を聞いたとき、妙だな、と思った。


 三件目の被害者……鴉間義郎(からすまよしろう)、当時教育実習生として鴉山学園に来ていた。


 因みに現在は鴉山学園、美術教師でもある。

 ウチの生徒達の仲では、担任にしたい先生ランキング二位と新塚先生に続く人気教師だ。教師達の中でも評判がいい、と聞いている。

 二十代半ばと教師の中では生徒と歳が近いのもあるが、温厚な性格に、その内面を実体化したような優しい顔つき。誰にでも分け隔てなく接する態度から学年問わずに生徒達からは親しまれている。


 特に女子達からは異常なほど人気を評している。

 その人気は鴉間先生が美術部の顧問というだけで女子の入部希望者が後を絶たなかったくらいだ。

 なにこいつら、生存者に群がるゾンビなの? と疑いたくなる光景だった。

 ハーレム感とか全くの皆無。

 ありゃ紛争地帯もいいとこだ。


 噂では最近、女子達の中で鴉間親衛隊なるものが結成されたと聞いているが、一体何から守るんだろうね? 女子達はそんなことしてないで各々への不可侵平和協定でも結ぶべきだと思う。


 また話が逸れた。


 オレがこの先生を気になった理由について話そう。

 実は失踪した百合原を最後に目撃したという人物……この鴉間先生なのだ。


 オレはそのことに並々ならぬ疑問を抱いている。

 別にこれといった根拠もない、あんな人格者を疑うなんて自分はどうかしているとは思う。

 ただ、今まで被害にあってきた二人は百合原のストーカー行為の苦情を出しているのだが、鴉間先生からはそんなものは出ていない。


 聞いた分だと百合原のストーカーはかなり悪質なものだ。

 当人にその気はないのだろうが、被害者からすれば堪ったもんじゃない。中にはノイローゼになる者もいたそうだ。

 なのに、鴉間先生の様子には変わった点は一切見られず、普段通りだったという。

 聞きようによっては気丈な精神の持ち主とも取れるだろうが、オレは違うと思っている。

 日常生活に干渉され、覗かれて、まともな状態でいられる人間なんているはずがない。


 ソースは皐月に叩き起こされるオレだ。


 自分の時間に他人が侵入してくるのはかなり苦痛だ。

 まぁ……もう大分慣れたけどね。今じゃ皐月がオレを起こすのは習慣だし。

 とにかく過去の経験から、そう断言させてもらおう。


 ストーカー被害に遭っていながら、そのことに対し、なにも苦情はなかった、

 そんな人物が、失踪前のストーカーを最後に目撃している。


 そこにはなにか矛盾があるように感じられた。

 一見なんの問題もないが、目を凝らしてみると、回転している歯車が噛み合っていない、そんな歪さ。

 なにがそう思わせるのかは、ハッキリとは言えない。

 だが、その正体不明の歪さがオレに、鴉間先生は怪しいと思わせるのだ。

少しだけ細部を編集しました。

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