〜邂逅(かいこう)〜
邂逅……思いがけなく出会うこと。めぐりあい。
気がつけばオレはそこにいた。
それは真っ白な世界だった。
人や建物もなく、まるで病院の無菌室の様などこまでも白い空間。
「また会ったね」
ふいに背中から聞こえた声。
振り返るとそこには、長い白髪をなびかせる少女が立っていた。
雪の様な白い肌、純白のワンピース。赤玉にも似た紅い瞳。
それは、散りゆく花びらのように儚げで、綺麗な女の子だった。
「誰だ……あんた?」
オレがそう尋ねると、少女はひどく落胆した。
「その様子だと、やっぱり何も覚えていないみたいだね」
そう言って、少女は寂しそうに笑う。
今にも泣きしそうな哀しい笑顔だった。
「…絶対に忘れないって言ったくせに、…すぐにこれなんだもんなぁ。もぉ」
ブツブツと嫌味ったらしく呟く少女。
何やら不貞腐れているようだった。
ムスッとした姿はどこか拗ねた子どもを思い描かせる。
少女が気分を害した理由に心当たりはなかった。
当たり前だろ。
今しがた『また会ったね』、と言われたが会ったのは今が初めてなんだ。
オレにこんな少女と出会った記憶はない。
「でもまぁ、しょうがないか」
少女は溜め息をつくと、改まって真剣な顔でオレに尋ねてきた。
「今の君にはここがどんな風に見える?」
「どんなって……真っ白な空間、にしか…」
「そう、なにもない、真っ白すけの世界。君がそう言うなら君にはそうなんだろうね」
「ここは夢なのか?」
「そうだよ。でもそうでもないし、ひょっとしたらそのどちらでもないかもしれない」
「どういうことだ?」
「そうしてしまったのは君だよ」
「オレのせい?」
「だから、君にはちゃんと責任を取ってもらわなくちゃいけない」
「せ、責任…?」
聞き捨て出来ない言葉だった。
「あれだけのことを君はやったんだもん。…忘れたとは言わせない、済まされないよ」
「え…?」
ゾクリ――背中に刺さるような悪寒。
少女の有無を言わせない迫力に、思わず息を呑む。
それは少女の儚げなイメージからは想像できない、棘のある攻撃的な態度だった。
表情が強張っていたのか、オレの顔を見て少女は元の柔和な口調で語りかけてきた。
「ゴメンゴメン、脅かすつもりはなかったんだけど、君があんまりにも無頓着だからさ。まぁ、これもやり直すチャンスだと思ってみなよ」
やり直す?
…何をだ? 少女の言っていることはいちいち曖昧だ。そのうえ端的なもんだから、さっぱり分からない。
この少女はオレに何を伝えたいのだろうか?
「なんのことか分からないって顔だね?」
心を見通したような言いぐさだった。でもその通りだ。
オレは、最初からこの少女の言葉を何一つ理解できていない。どうしてもらいたいのかも見当がつかない。
「大丈夫だよ…今は何も分からないだろうけど、そのうち、きっと思い出すよ…」
勝算があるのか、少女は自信満々に語る。
「今度は…間違えちゃダメだよ?」
そう短く呟いて少女が微笑んだ直後、視界が白い光に包まれた。
劈くような刺激にたまらず目を瞑る。
そうして何も見えなくなった時だった。
急になんでそう思ったのかは分からない。
初めて会ったはずの少女の声……。
それは――とても懐かしいものだった。