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〜ゼロ・リトライ〜  作者: 門田 光
prologue
1/30

〜邂逅(かいこう)〜

邂逅かいこう……思いがけなく出会うこと。めぐりあい。

 気がつけばオレはそこにいた。



 それは真っ白な世界だった。

 人や建物もなく、まるで病院の無菌室(むきんしつ)の様などこまでも白い空間。


「また会ったね」


 ふいに背中から聞こえた声。

 振り返るとそこには、長い白髪をなびかせる少女が立っていた。

 雪の様な白い肌、純白のワンピース。赤玉(ルビー)にも似た紅い瞳。




挿絵(By みてみん)




 それは、散りゆく花びらのように儚げで、綺麗な女の子だった。


「誰だ……あんた?」


 オレがそう尋ねると、少女はひどく落胆した。


「その様子だと、やっぱり何も覚えていないみたいだね」


 そう言って、少女は寂しそうに笑う。

 今にも泣きしそうな哀しい笑顔だった。


「…絶対に忘れないって言ったくせに、…すぐにこれなんだもんなぁ。もぉ」


 ブツブツと嫌味ったらしく呟く少女。

 何やら不貞腐れているようだった。

 ムスッとした姿はどこか拗ねた子どもを思い描かせる。

 少女が気分を害した理由に心当たりはなかった。


 当たり前だろ。

 今しがた『また会ったね』、と言われたが会ったのは今が初めてなんだ。

 オレにこんな少女と出会った記憶はない。


「でもまぁ、しょうがないか」


 少女は溜め息をつくと、改まって真剣な顔でオレに尋ねてきた。


「今の君にはここがどんな風に見える?」


「どんなって……真っ白な空間、にしか…」


「そう、なにもない、真っ白すけの世界。君がそう言うなら君にはそうなんだろうね」


「ここは夢なのか?」


「そうだよ。でもそうでもないし、ひょっとしたらそのどちらでもないかもしれない」


「どういうことだ?」


「そうしてしまったのは君だよ」


「オレのせい?」


「だから、君にはちゃんと責任を取ってもらわなくちゃいけない」


「せ、責任…?」


 聞き捨て出来ない言葉だった。


「あれだけのことを君はやったんだもん。…忘れたとは言わせない、済まされないよ」


「え…?」


 ゾクリ――背中に刺さるような悪寒。

 少女の有無を言わせない迫力に、思わず息を呑む。

 それは少女の儚げなイメージからは想像できない、棘のある攻撃的な態度だった。

 表情が強張っていたのか、オレの顔を見て少女は元の柔和な口調で語りかけてきた。


「ゴメンゴメン、脅かすつもりはなかったんだけど、君があんまりにも無頓着だからさ。まぁ、これもやり直すチャンスだと思ってみなよ」


 やり直す?

 …何をだ? 少女の言っていることはいちいち曖昧だ。そのうえ端的なもんだから、さっぱり分からない。

 この少女はオレに何を伝えたいのだろうか?


「なんのことか分からないって顔だね?」


 心を見通したような言いぐさだった。でもその通りだ。

 オレは、最初からこの少女の言葉を何一つ理解できていない。どうしてもらいたいのかも見当がつかない。


「大丈夫だよ…今は何も分からないだろうけど、そのうち、きっと思い出すよ…」


 勝算があるのか、少女は自信満々に語る。


「今度は…間違えちゃダメだよ?」


 そう短く呟いて少女が微笑んだ直後、視界が白い光に包まれた。

 つんざくような刺激にたまらず目を(つぶ)る。

 そうして何も見えなくなった時だった。


 急になんでそう思ったのかは分からない。

 初めて会ったはずの少女の声……。




 それは――とても懐かしいものだった。

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