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王子と姫

「兄様、私男性不振になりそうです」

「嬉々として学院に行くと言い出した妹の台詞とは思えないね」


部屋に入るなりの私の言葉に、軽く肩を竦めて兄様が答える。


目の前にいる兄は、私とほぼ同じ容姿をしている。

少しクセのある栗色の髪に、榛色の瞳。身長もほとんど同じ。

大きく違うのは髪の長さくらいだろうか。私は腰のあたりまでの長さだ。

双子とはいえ、男女でこれだけ似ているのも珍しい。

ちなみに、私が男顔なのではなく、兄様が女顔なだけなので、そこは間違えないでほしい。


しかし、自分の姿を客観的に見るというのも妙な体験だ。もう慣れてしまったけれど。


「だって授業内容が面白そうだったんだもの。男性と女性とでは学院で学ぶものは違うし。可愛い仕草のお勉強なんて馬鹿馬鹿しいものわざわざ学びに行こうなんて思うわけないじゃない。もう身に付けてるのに。私はどうせなら政治学とか、世界史とか、馬術、剣術が学びたかったの! このチャンス生かさないでどうするのよ」

「それで、僕の姿のまま男に混じって勉強すると言って聞かなかった君が何を今更」

「だって、女の子を誑かしては捨て、唆しては泣かせる女の敵がすぐ傍にいるんですもの。それくらい考えるでしょう」


力説しているとため息を吐かれた。


「僕はシアを見てると女の人が怖くなるけど」

「私のどこが」

「その変貌ぶりとか」

「失礼な」


私は二重人格ではない。裏と表を使い分けているだけだ。


私は見た目通りの王子ではないし、目の前にいる兄もまた、姫ではない。

兄様の姿をしている私が姫で、私の姿をしている兄様が王子だ。

精神が入れ替わる呪術をかけられている。



こんなことになった経緯は簡単。


まだ私たちが幼かった頃、魔女に一服盛られた。

父を慕っていた魔女が実らなかった恋に思い余っての行動だったらしい。


数日寝込んだ後、私が最初に見たものは隣でぐったりとしている私の姿。

一瞬、幽体離脱でもしたのかと思ったけれど、しばらくして目を覚ました私を見て、ああ、兄が私なのか、と納得した。だって、私はあんな挙動不審な行動とらないもの。


私たちが同性の双子だったのなら顔は同じことだしそのまま放置でも良かったかもしれないけど、性別まで変わってしまうと流石にそうもいかない。

父様から魔女を問い詰めてもらい――というか分かるまで帰ってくるなと追い出し――魔女から聞き出したことには「私たちが大人になれば自然と解ける」とのこと。

それ以外は頑として口を割らないので、詳しくは分からない。

だが、魔女は嘘をつくと力を失うので、偽りはないはずだ。

まあ、元に戻るのなら問題ない。いや、実際は大有りなのかもしれないが、どうにもならないのだから仕方ない。

そして、恋愛感情のもつれで呪いをかけられましたなどと国民に発表するわけにもいかない。


こうして、私は兄として、兄は私として生活する日々が始まった。




元に戻った時にぼろが出ないようにと日課としている学院での出来事を報告していると、部屋のドアがノックされ、入室の許可を得た兵が顔を出す。


「カラム殿下。陛下が執務室へ来るように、と」

「分かった。すぐに参りますと伝えて」


そう言って伝令を下がらせた後、振り返って兄様に笑顔を向けた。


「兄様。いってらっしゃい」

「僕じゃなくて、父上が呼んでるのはシアだろう」

「だって、カラムに来てほしいって。私カラムじゃないもの」

「分かってて呆けない。王子を呼び出して見た目姫の僕が行ったり、姫を呼び出して君が行ったらおかしいだろ」

「えー。嫌な話っぽいから行きたくなーい」


心底面倒くさくて可愛らしくだだをこねてみると、兄様は額に手を当ててため息をついた。


「…シア、僕の姿でそういうことしないで」

「兄様、私の姿で僕とか言わないで。ため息つくのはアンニュイな乙女っぽくて良いですけど」

「頭痛い…」

「それは数分後の私の台詞です」


さて、兄様をからかうのはこれくらいにして、父様の元へ参りますか。






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