ヴァルキューレのヒルド
ファーヴニルが残した宝の中には、指環が入っていた。
装飾が独特で、シグルズの気に入った。
彼は袋に指環をしまうと、焔で燃えている城を見つけ、愛馬のグラニを走らせ、とりでを越えた。
中庭に立派な鎧を身に着けた兵士がいて、シグルズは鎧をつないでいる紐を断ち切り、彼の正体を見て愕然とする。
なんと、それは絶世の美女であった。
彼女は目覚め、
「あなたは誰? 私を起こしたのはあなたですか」
シグルズは彼女の美しさの虜にされてしまい、名前を告げる。
「私はニーベルング族の王子、シグルズと申します」
「私はブリュンヒルト。オーディンを知っていますか。あのものから眠りのルーンと呼ばれる、呪いの魔法を受けたのです」
ブリュンヒルト――ヒルトは、かつての出来事を淡々と語る。
オーディンの命令で、兜のグンナルという老人兵士を助けたワルキューレの隊長ヒルトはオーディンから罰を受けてしまったのだと。
もともとオーディンは、老兵グンナルを殺すつもりでヒルトを差し向けたのだから。
「私はオーディンに言いました。私をねじ伏せるような強い男か、あるいは、眠りの魔法を解いてくれるような英雄となら結婚すると。そしてあなたが来たのです。あなたがきてくださらなかったら、私は永遠の眠りについていたことでしょう。あなたにこの角杯と、最高の蜜酒と、それからルーンの秘術を教えましょう」
それから・・・・・・ふたりは愛し合い、一晩過ごすと、シグルズは必ず迎えに来ると約束し、城を後にした。
ブズリ王の娘、ブリュンヒルトは、シグルズを愛したばかりに運命が暗転するとも知らず。
ここで謎な部分がいくつかあります。
なぜブズリという王の娘でオーディンの娘でもあるか。
おそらく、拾ったんだろうと考えてください。
もしくは生まれ変わり。
北欧ではインド思想が普及していたのか、生まれ変わりを信じてました。
ワルキューレはオーディンを守り、命令を受けると、強い英雄と呼ばれる騎兵隊長などと結婚します。
角杯に蜜酒は、古代の高級な器と麦酒、つまりビールです。
貴人しか飲めませんよ、もちろん。
現代ほど泡は出なかったみたいですけどね。
そこに蜜を入れて飲むのが主流でした。