邪竜ファーヴニル
戦争に出かけたシグムンドは、はじめのうちは調子よく敵を斬ったり、突き刺したりして、快進撃を繰り出していたが、オーディンは気まぐれを起こす。
ヴァルハラから地上をのぞいていたオーディンは、あいつ用済み、とばかりに、シグムンドのグラムを、真ん中から折ってしまった。
敵の将軍に身体を貫かれたシグムンドは、ぐったりとくずおれ、荼毘に移された。
こうして王子シグルズは、みなしごになって、鍛冶を生業とするレギンに弟子入りするのであった。
彼はいつも、折れたグラムをお守りにして持っていた。
レギンがシグルズに、
「もういいころだから話そう。じつはおまえの祖先のオーディンが起こした事件があってだな・・・・・・」
シグルズはオーディンが人間界を浮浪し、生ませた貴族の子孫である。
つまりシグルズには、正当な神の血が混じっていた。
レギンはそのことからはじめ、オーディンの身代金である黄金と指環の話をし、ぜひとも竜に化け、とぐろを巻いて守っている兄のファーヴニルを倒してほしいといった。
ところがシグルズは、態度がすこぶる悪く、
「けっ、ばかにするな。どうせあんたは、俺がどうしようもない愚か者で、力でねじ伏せることしかできない、おおうつけだ、とでも、いいてえんだろ。たしかにあんたの鍛冶道具を、このバカ力で壊したさ」
まくし立てるシグルズの機嫌をなだめようと、レギンはグラムの打ち直しを申し出る。
「お前の父の剣は、ワシが直すから、ぜひ頼む」
シグルズは仕方なく承知した。レギンもあとからついてくる。
フランケン山脈の中腹で、ファーヴニルが待っていた。
「お前の名はなんと申す」
シグルズはつばを吐いて、名乗りを断った。
「初対面で名前を言うのは、まずいんでね。おおかた、のろうつもりだろう」
「考えすぎだ・・・・・・」
ファーヴニルはとぐろを巻いて、黄金を守っていた。
「じゃあ言うよ。俺はシグルズ。父は英雄、シグムンドだ」
「ほう、高貴な血筋だな」
「だから黄金をよこせ」
シグルズは鍛えてもらったばかりの、美しい、シグムンドが使っていた当時のままを再現できた、幻の剣を構えて、ファーヴニルを脅した。
「断る」
ファーヴニルがニヤリと笑い、毒の液体を吐き出した。
跳躍して一歩か二歩、後ろに下がるシグルズ、今度は剣の切っ先を向けて突進した。
「うおおっ」
ファーヴニルのうろこを切り裂き、かのものを倒したシグルズは、満足そうに鼻息を荒くしていた。
そして袋にいっぱい黄金をつめ、馬に乗せると、ファーヴニルが言った。
「ワシを倒しても、その黄金は呪いがかけられているのだ・・・・・・だからワシはお前に殺された。お前という禍によってな! いいかシグルズ、その黄金に頼るのではないぞ。引き返せといったわしの忠告を聞かなかったばかりに、お前は・・・・・・」
ファーヴニルはそこまでいって、息絶えた。
「なにを、バカな」
忠告を無視したシグルズを待っていた運命。
それは、激しく、はかない最期・・・・・・。
ファーヴニルは邪悪ではない気がするんだよねぇ。
本当に邪悪なら、
「世界の半分をくれてやろう、どうだシグルズ」
でしょうよ。
え、ちがうって? 爆