恋愛練習用短編『同窓会』
中学校の同窓会。長い付き合いの友人から、そんな集まりがあると聞いたのはつい先日。バイト中は電源を切っている携帯電話のメールを見た時だ。
なんなんだろうと思って見てみると、同窓会のご案内とタイトルに打ち込まれていた。その下には、僕の携帯以外にも複数のアドレス。一度に大量に送信したのがわかる。
文を読み進んでいる内に、それがもう三日後の話だとわかった。初めは行く気はしなかったのだけれど、友人に誘われて顔を出す程度に参加することとなった。けれど、今はそれに感謝できる。
白と青をメインとして、絵の世界から逃げ出してきたような魅力的な女性。顔からはうっすらと昔の面影が顔を覗かせている。
僕を見つけて、片手をあげながら笑顔でこっちを見る。一瞬驚いたけれども、キチンと片手をあげて答えることが出来た。
「久しぶりね」
「久しぶり。ところで、髪型変えたんだ」
「ええ。ツインテールじゃ、いつまでも子供っぽく見えちゃうから」
今と同じような服装で、ツインテールの髪を揺らしながら男子に混じって走り回る。運動が苦手な僕は、それにとても憧れていた。なにより、あの時折見せる心の底から楽しそうな笑顔が魅力的だった。
「そう? 子供らしくは見えないんだけどな」
「それって、私が老けた……って言いたいの?」
「そんなこと無いよ。昔に比べて、もっと魅力的になってる。正直、見惚れてたよ」
「いきなり言うわね」
喉を鳴らしながら、昔のような華やかな笑みを見せる。うん、これが見れただけでも今日は十分来たかいがあった。
「けど、本当にそう思うの?」
「本当だよ」
その姿は、中学時代からより一層に女性らしくなっている。青い服の上から白いパーカーを着ていて、空みたいだなと思わずこぼした。それを聞いて、嬉しそうに笑う。そういえば、空が大好きな人だった。
黄色いスカートはそんな空とピッタリだと感じて、今も活発的な印象が残っているような気がする。
「……あんまりジッと見ないでよ」
「え? ごめん。なんだか、気を悪くしちゃったみたいだね」
昔のことを思い出しながら、ぼんやりとしてしまったらしい。せっかく話しているのに、なんだか悪いことをしちゃったな。
「そ、そんなに落ち込まないでよ……」
初めは強く言ってみせたけれど、語尾のほうはほとんど聞き取れなかった。心配までしてもらって、なんだかとてもふがいないな……。
「落ち込んでなんかいないよ。それよりも、今日はどうして?」
「え? 友達に誘われて、顔見せ程度にね。なんだか、思ってたほどつまらなくないけど」
「うん。僕もそう思う」
そう思って、回りを見渡す。ファミリーレストランの一室を占拠して、大人たちが騒ぐのは少し場違いかなと思ったけど、なんだか見ていて楽しくなってくる。それに、変わっているようでみんなはなにも変わってなかった。
「何よその顔。人の顔を見ていきなり笑うだなんて、失礼じゃない?」
ジロリ、とこちらを睨んでくる女性が目に映る。いけないと思った矢先、左手を腰に当てて右手の人差し指を伸ばして怒っていますポーズ。昔から変わっていない癖に、思わず笑いがこぼれる。
「また笑って」
「悪いとは思ってるよ。けど、止まらなくて」
旧友との再会。初めは色々と考えていたはずなのに、目の前で会ってどうでもよくなってしまった。
改めて、目の前の友人は魅力的な人だと思う。中学生の頃はクラスのアイドルと呼ばれていたけれど、今はなんなんだろう。
マドンナは古いと思うし、心のオアシスというのも何だか変だ。ただ、前に比べてとても美人になった。
「嘘ばっかり」
「そんなことないよ。ただ、君があまりにも幸せそうに笑うから。僕はそれに釣られただけだよ」
「そっか」
「そうだよ」
それで、会話が一度止む。
今も大人たちがワイワイと騒いでいて、僕はなんだか孤立したようになってしまっている。前を見ると、目を伏せて幸せそうに笑う姿が目にうつった。今の僕を鏡で見たら、きっとこんな顔をしているんだろうな。
「さて……と。それじゃあ、私はそろそろ行くね」
席から立って、時計を確認すると出口のほうへと向かう。僕も、そろそろ行かないといけないかもしれない。大学のレポートの期限が結構危ないのを無視してここへきたんだ。元々顔見せ程度だったのにながいしすぎたかな。
「そっか。それじゃあ僕も」
「あれ? 案外早いのね」
小走りで追い付くと、以外そうな顔で僕のほうを振り向いた。
「まあね。こう見えても、大学のレポートが少し危ないんだ」
「なにやってるの? もう。しっかりやりなさいよ」
「わかってるよ。ちゃんと提出期限には間に合わせる」
期限が危ないのは、バイトでの仕事が急に増えたからだ。初めは余裕があって終わる予定だったのに、二人が抜けて一気に忙しくなった。なんでも、恋人同士になって別の仕事に就こうと考えたからだっけ。店長は、泣きながら二人にお疲れ様といったのを覚えてる。その言葉を聞いて、二人とも泣き出したのを見ていてなんだか泣きたくなってしまったのは秘密だ。
「あ」
「ん?」
いきなり立ち止まり、思い出したかのように鞄から携帯を取り出す。なんだろう?
「メアド、交換しよ」
「別にいいよ」
特別断る理由も無かったし、パーカーのポケットから携帯を取り出すと赤外線通信を始めた。
「それにしても、なんでいきなり?」
「なんとなく。別にだめじゃないんでしょ?」
「まあね」
そうこう言っているうちに通信は終わり、わかれることになった。帰り際、携帯が鳴った。メールだ。
文章を見てみると、テストと書いてある。本文には、『届いてる?』と打ち込まれていた。
それに届いてるよと返す。数分後、返信が帰ってきた。女性が携帯を打つスピードはとんでもなく速いと言っていたのを思い出す。本文には、『大学のレポートが落ち着いたら、お茶でもどう?』と打ち込まれていた。
別に落ち着いたら構わないと思う。それに、またあえるのはとても嬉しいことだ。少し興奮気味となる心を抑えて、返信する。
ふと、空を見上げた。
星が無い夜。都会だからか、空気があまり綺麗じゃないから星が見えにくい。寂しいなと感じる反面、なんだかこれはこれで良いかもと思っている自分がいる。だから、普段は寂しいと感じる。
けれど、今日は不思議とあまり寂しいと感じなかった。
歩いているうちに、隣り合わせで輝いている星が見えたから。
誤字脱字、文法事項のミス。明らかにとんだ展開。
様々な指摘、お待ちしています。