第9章:探偵の後悔
◆ 1 静かな冬の朝
十二月十五日。
探偵事務所の窓から、
白い冬の光が差し込んでいた。
梨沙は、
机の上に積まれたファイルを見つめていた。
- 美咲の退去
- ユキの恐怖の完成
- 10月10日の録音
- 警察相談
- 純子の囲い込み
そのすべてが、
ひとつの線で繋がっている。
そしてその線を引いたのは、
他でもない自分だった。
梨沙は、
胸の奥に重い痛みを感じていた。
「……私は、何を壊したんだろう」
◆ 2 美咲は後悔しない
その日の午後。
美咲から短いメッセージが届いた。
『新しい生活、順調よ』
梨沙は、
その文章を何度も読み返した。
美咲は後悔していない。
たくまを捨てたことも、
自分の世界を守ったことも。
梨沙は返信した。
『よかったです。
息子さんも元気ですか』
美咲からすぐに返事が来た。
『ええ。
あの家にいた頃より、ずっと』
梨沙は、
その言葉に胸が締めつけられた。
美咲は救われた。
ユキも救われた。
しかし――
たくまは。
梨沙は、
その名前を心の中で呟いた。
◆ 3 たくまの“薄れていく存在”
十二月十八日。
梨沙は、
たくまのSNSを確認した。
投稿は減り、
言葉は短く、
反応も少ない。
たくまは、
世界から“薄れて”いた。
- 美咲の世界にはいない
- ユキの世界からは消された
- 職場でも距離が生まれている
- 純子だけが近くにいる
梨沙は、
その構造を理解していた。
「……あなたは、
誰の世界にも属さなくなってしまったのね」
純子の存在は、
たくまの空白を埋めているように見える。
しかしそれは、
“依存”という名の静かな囲い込みだった。
梨沙は、
その危うさを感じていた。
◆ 4 梨沙の“気づき”
夜。
事務所にひとり残った梨沙は、
録音データを再生した。
――深根会。
――危ない。
――狙われてる。
たくまの声。
混乱と恐怖が混じった声。
梨沙は、
その音声を聞きながら
静かに目を閉じた。
「私は……
この瞬間を“証拠”として扱った」
しかし、
たくまにとっては
“助けを求める声”だったのかもしれない。
梨沙は、
その可能性に初めて気づいた。
「私は……
たくまさんを救うこともできたんじゃないか」
その言葉は、
胸の奥に深く沈んでいった。
◆ 5 美咲との対話
翌日。
梨沙は、美咲に電話をかけた。
「美咲さん……
たくまさんのこと、気になりませんか」
美咲は、
少しの沈黙のあとで答えた。
「気にならないわ」
梨沙は息を呑んだ。
美咲は続けた。
「私は、たくまの“影”に何年も苦しんだ。
だからもう、戻らない。
後悔もしない」
梨沙は、
その言葉に何も返せなかった。
美咲は、
完全に“別の世界”に移動していた。
たくまの世界は、
もう美咲の地図には存在しない。
◆ 6 梨沙だけが苦しむ
電話を切ったあと、
梨沙は机に突っ伏した。
美咲は救われた。
ユキも救われた。
しかし、
たくまは――
誰にも救われなかった。
梨沙は、
その事実に胸が痛んだ。
「私は……
たくまさんの世界を壊しただけなのかもしれない」
その後悔は、
もはや小さな影ではなかった。
梨沙の中で、




