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毎週土曜、聞こえてないから告白するの

作者: 緑ノ暇
掲載日:2025/12/17

毎週土曜日午前8時。

図書館とも公民館ともどちらとも言えない、小さな町の一角へ強い風に吹かれて

乱れた前髪を直しながら歩いて行く。


学習席の前から2番目、いつもの場所。

今日もヘッドホンをしながら自習する君の後ろの席に座る。


少しだけ茶色の短髪も、私と違って大きな背中も、よく分からない難しそうな参考書を勉強する姿も。

どうしてか分からないけどすごく好き。

話しかける勇気はないくせに、独り言として知らず言葉が出てきてしまう。


「おはよう」

「今日は風が強いね」

「昨日食べた新作の肉まんが美味しくてね」


小さな声は、ヘッドホンの音楽にかき消されてあなたに届くことはない。


サラサラと聞こえるペンの走る音は、君の勤勉さを物語っているようで。

でも君と違って勉強が苦手な私じゃ、30分机に座って自習するだけで限界なんだ。

8:30を超えると入り始める近所の方々。

幸せな時間の終了の合図。




「付き合ってください…!」

「…え」



同級生からの思わぬ言葉に思わず体が硬直する。

無言の私を察してか、慌てるように言葉を繋いだ。


「俺、意識されてないのは分かってるけど。お試しで1ヶ月…、1週間とかでもいいから、どう、かな」

「………ちょっと、今すぐに返答は出来ないから…考えてから答えるね」

「…分かった、待ってる!」


運動部らしいくしゃっとした太陽のような笑顔で返される。

断られるかもしれない。それでも相手に想いを伝える姿はどうにも眩しくて、とても凄いことで、羨ましくて、

…少しだけ憎たらしい。


好きな人がいる、って言えばいいだけだった。

言えなかったのは、報われない恋を終わらせたかったからなのか。




「おはよう」


いつもの土曜日。いつもの席。いつものように挨拶する。


「…昨日、告白されたんだ」

「お試しだけでも、って言われちゃった」

「告白を出来る人って凄いよね。それだけで尊敬」

「私は…怖くて出来ないから。だからもうここには来ないことにする」

「ばいばい」


鞄を持って歩き出した瞬間、手を掴まれる。

驚いて横を見ると、顔を真っ赤にした君がいた。


「……このヘッドホン、集音機能があるんだ」

「えっ?」

「君の小さな『おはよう』も。告白されたって言った時の震えた声も。……ページをめくる音まで、全部聞こえてた」

「う、そ」

「えっと…まずはお友達から始めませんか。だから来週も、またこの場所で」




毎週土曜日午前8時。

私は今日も、前髪を気にして歩いていく。

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