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Ep04:異例の召喚

書き直すって結構労力使うんですね……

第4話です


「聖堂へ向かう」


 ケントお披露目パレードともいえる道中を経て彼の精神が疲弊した頃、城へと到着し馬から降りるとアリアはそう言ってつかつかと歩き始めた。

 どうやら休憩は挟ませてもらえないらしい。先を歩く彼女の背中を追ってケントは歩く。


 道行きで歩くそこは、廊下というには余りにも荘厳で、高い天井に柱が整列し聳えていて、ケントはゲームの世界を想起した。都市へ到着してからというもの見るもの全てに圧倒されている。

 長い廊下を歩くこと数分。控えめでありながら高級感溢れる重厚な扉が見えた。

 そこが目的地である聖堂らしく、扉の前に立ち止まったアリアは厚い扉を隔てた向こうに声を上げた。


「アリア•オンディーヌ、只今新たな勇者をお連れした!」


 それをきっかけに、重い音を響かせて扉が開かれる。

 アリアの背中越しに見えた室内は、まさに聖堂に相応しい静謐な雰囲気を漂わせており、足を踏み入れれば空気そのものが違うように感じられた。

 聖堂の奥には巨大なガラス片とでも表そうか。それが確かな存在感を放ちながら鎮座している。


「お待ちしておりました。お勤め、ご苦労様でしたアリア様。そちらの少年が?」

「はい。滅びの碑付近に居たところを保護致しました。彼が此度の流星に招かれた勇者です」

「左様ですか。私はこの都市で司教を拝命しておりますヘイゼルと申します。お見知りおきを」

「ど、どうも」 


 年長者に下から丁寧に対応される事に居心地の悪さを覚える。

 

「それで、陛下は」

「主上様にございましたらば——」

『俺は既に居る』


 男の声がした。若いが、低く重く響く男の声。その声はガラス片の方から聞こえた。

 三人の視線がそちらに向くと、透き通っていたガラス片の表面にノイズの様な紋様が走り、それが落ち着くとともに一人の男が映し出された。

 アリアとヘイゼルが即座に跪き首を垂れ、ケントは慌ててそれに倣って膝をつく。


『構わん。頭を上げろ』


 男は華美すぎないが、一目で一等の品と分かる椅子に腰掛けこちらを睥睨していた。

 黄金の短髪に切長で鋭く覇気のある碧い眼光の若い男。ただ画面越しにそこに座しているだけだというのに凄まじい圧力を感じる。


『さて、貴様が此度の赫い流星によって導かれた勇者だな。先ずは此方から名乗ろう。俺はメビウス•ゼフィライト=ホロスコープ。国王の地位に在る』

「俺、あ、いえ。私はケント、神崎賢斗といいます」


 メビウスの覇気に当てられ、辿々しくもケントは名乗り、それを見てメビウスは口角を僅かに上げる。


『そう緊張するな。所詮は王という役職に据えられているだけで大した男ではない』


 絶対に嘘だ。即座にケントは脳内で叫んだが流石に口には出せなかった。


『多少はアクエリウスから聞いていると思うが、貴様はどこまで現状を把握している?』


 初耳であるアクエリウスという名が状況的にアリアの事を指していると推測した上で、ケントは自信なさげに口を開く。


「その、なんか勇者として召喚?されたーぐらいの事ぐらいで……すみません」

「発言、失礼致します。口下手な私です。情報に齟齬が発生するのを防ぐ為、彼には異世界より喚ばれた勇者であるとだけ伝えてあります。後は、精々この都市の名ぐらいです」


 ケントの言葉を引き継ぐ形で話したアリアに、ふむとメビウス。


『アクエリウス。貴様は己を卑下する癖を改めろ。実力が伴っていようと、それでは民にも我らが同胞たる勇者達にも示しがつかん』

「申し訳ございません、その様に努めます」


 訓戒に頭を下げるアリアを見て、「他の連中にもその生真面目さを少々分けてやりたいものだな」とメビウス。


「あの、いいですか……?」

『構わん、話せ』

「勇者達って、他にも勇者がいるんですか?話しぶりからして何人もいるみたいですけど……」

『その認識で合っている。現状約1,500名の勇者が我が国に属している。貴様にもそこに名を連ねて貰うことになる』

「と、いうことはアリアさんも?」

「そうだ。アクエリウスはその中でも最上位12名に与えられる十二勇星(ゾディアック)の地位に席を持つ者だ。今貴様のいる都市ミアレス•ネストの統治者でもある」


 それを聞いて思わずアリアを見るケント。まさかそれ程の重要人物が自分の出迎えといういわば小間使いのような真似をしていたのかと驚く。で、あれば先程の訓戒にも頷けるというものだ。


『話を戻すが、貴様は勇者として召喚された。これに間違いはないが、ひとつ問題がある。その為に俺自身が直接話をすることにした』

「問題……?」

『通常、勇者召喚の儀は複数人を同時に喚び出す。欠員が一人出た程度では執り行う事もない。そして今回、我々は儀式を執り行っていない』

「それってつまり、誰が俺を召喚したか分からないってこと、ですか?」

『そうだ。同時にそれは異常なのだ。何故ならば勇者召喚の儀は最重要機密として厳重に秘匿、管理されている。仮に持ち出した者がいたとして早々行使できるようなものでもないのだよ』


 話がきな臭くなってきた事で、ケントの額から大粒の汗が一筋流れる。王道異世界転生ないし召喚ものかと思えば、追放ものの流れが見えてきたとなれば焦りもしよう。


『先程、赫い流星と言ったのを覚えているな。召喚された勇者は流星によってこの世界『ネムレスト』に運ばれてくる。しかし、だ。この流星は本来蒼いのだ。その点でも貴様の召喚は異常だ。だから念の為、アクエリウスを貴様の迎えに寄越した』


 ケントは先程の感想を訂正する。小間使いどころではなかった。最大級の警戒態勢で対応されていたのだ。

 追放どころか異端処刑コースまで見えてきたケントの汗は止まるところを知らない。


『だからといって貴様をどうこうするつもりもない。貴様の置かれた状況を知らせる為事実を述べただけだ。勿論経過は観察させてもらうが、通常通り召喚された勇者と同様に扱わせてもらう。その身を害すことはないから安心しろ』


 淡々と述べるメビウス。その無意識の迫力もあってか、それを正面から受けているケントは生きた心地がしなかったが、彼の言葉に幾分の安堵を得た。


『さて。俺自身の目でとりあえずの確認は終えた。後のことはアクエリウス。貴様に任せる』

「拝命致しました」

『ではケント。俺からはここまでだ。我らは新たな同胞たる貴様を歓迎する。ではな』


 その言葉を最後にプツリとガラス片に映し出されていたメビウスの姿が消える。

 緊張の糸が切れたケントはぺしゃりとその場にへたり込んだ。


「立てるか、ケント殿」


 アリアが手を差し伸べ、それを借りてケントは立ち上がる。本日二度目。女性の手を借りて立つ事に少々情けなく思う。


「すみません……」

「気にするな。寧ろ誇るがいい。移し身とはいえ陛下を前にして気を保てるだけで大したものだ。先の跳躍といい、貴殿は大成する素質を持っている」


 フォローを受けて喜ぶ自分と、気を遣われていることに気まずさを覚える自分に板挟みにあって、曖昧に笑い「ありがとうございます」と一言言う。


「差し当たって、私からこれからの話をしようと思う。場所を変えよう」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ——


 聖堂に響く程の低い唸り声のような音が鳴った。ケントは自分の腹を触るが、出所は己ではない。ヘイゼルも首を傾げている。つまりこの出所は——


「……その前に食事が摂りたいなー、なんて」

「……くっ、殺せ……ッ」


 顔を真っ赤にしたアリアさんが漏らした言葉に思わず吹き出しそうになった自分を褒めてやりたいと後にケントは述懐する。

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