Ep03:都市『ミアレス•ネスト』へ
城塞都市『ミアレス•ネスト』
馬上に多少慣れた頃に聞いた、現在向かっている場所。曰くこの世界には12の大都市があり、ミアレス•ネストはその内のひとつだという。
道中は十数分と短い時間だったが、途中野党が出て、それをごく短時間で兵士達が制圧したりとある意味で異世界情緒といえる出来事があった。
非日常のスリルに色んな意味で心臓を高鳴らせたケントに、アリアは目汚しをしたと謝罪をした。
さて、都市に到着したところでまずケントは巨大な城門に圧倒された。アリアの一声で、音を響かせながら重々しく開く様を口を開けて眺める。
ぱからぱからと蹄を鳴らして歩く背に揺られて門をくぐれば眼前には中世ヨーロッパのような街並み。城門から、遠くに見える城へと真っ直ぐ続く石畳の大通り。それと一行の帰りを待ちわびていたかのように大勢の人々が歓声を上げて迎えていた。
「全く、人の口に戸は建てられんとは言うが……」
アリアは呆れたように独りごちるが、どこか誇らしげでもあった。
「アリアさま!おかえりなさいませ!」
「アリアさまー!おはようございます!」
「今日もお美しい!」
「ママー!アリアさまー!」
人々は口々にアリアを讃える声を上げる。
それに彼女が片手を挙げて応えると、一段黄色い歓声が上がった。彼女の人気ぶりが伺える光景。
「大人気ですね、アリアさん」
「まぁ、な。有難いことだ。とはいえ貴殿も他人事ではないぞ」
「え?」
一言の会話の後に、民衆が上げる声の中からアリアを讃える声とは別の言葉が聞こえ始めた。
「おい、後ろに乗ってるのは」
「まさかあの方が?!」
「おお、流星のお導きか!」
「新しい勇者様だ!」
次々と上がる声。勇者様、勇者様。
気のせいだと思いたかったが、明らかに民衆の視線はケントに向けられている。
異世界に来て勇者とはまさかそんな。ケントは困惑するが、人々の熱狂はそれを押し流すように盛り上がっている。
「貴殿も応えてやれ。大層歓迎されているのだから」
アリアに促されて、片手を挙げれば民衆の好奇と歓喜の熱は更に勢いを増してケントを圧倒した。
「アリアさん?さっきから俺、勇者様だなんて言われてますけど……??」
「そうだ。貴殿はこの世界に勇者として召喚された。そしてそれは既にこの都市全体に知れ渡っている」
「うそぉ……」
ケントの頭の中に、これまで触れてきたファンタジー作品がぐるぐると回る。
異世界転生したら勇者でした、だなんて余りにもご都合主義で王道が過ぎる展開にケントはますますの混乱に陥る。
もしや魔王の討伐を頼まれたりするのだろうか。先程現れた凶器を携えた野党なんかとも戦ったりしなければ?頭を抱える。
一読者としては好きな部類ではあるし、そういう妄想も一通りしてきたが、実際当事者となれば勿論のこと話は全く別のものだ。
「そう緊張するな、というのも無理な話か。とはいえせめて胸ぐらい張っておけ。素直に民からの歓迎を受け取っておくことだ」
アリアに激励のような言葉を掛けられ、ケントは顔にぎこちない笑みを貼り付けながらも胸を張り、人々に掛けられる声に手を挙げて応える道中を過ごしたのだった。
(やっべぇ、めちゃ恥ずかしい……!!)
内心、真っ赤に沸騰させながら。