表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

Ep01:明けを切り裂く赫い星

 それを目にしたのは偶然だった。


 いつもよりほんの少しだけの早起き。

 彼女、アリア•オンディーヌは目起きの眼を擦りながら、外の空気を浴びるためにバルコニーへ出た。

 見慣れた風景。ひんやりとした朝の風を感じながら段々と白んでいく空を眺めて、徐々に目を覚ませていくとそれ(••)は流れた。


(あか)い、流星……。赫?」


 空を流れた一筋の赫い軌跡は美しかった。(おそ)れを感じるほどに。美しさと妖しさが同居する光だった。


 この世界『ネムレスト』において流星とは吉兆だ。なぜならば、流星は『勇者』を運んでくるものだから。

 今ここに立つアリア自身(•••••)もそうだった。

 つまりきっとアレはそういうことなのだろう。


 コンコン!と忙しないノックの音が部屋に鳴り響いた。それから間を置かずして扉の向こうから男の声が聞こえる。


「早くに申し訳ございませんアリア様!ヘイゼル司教様より、早急に貴女様を聖堂へお連れするよう仰せつかり参りました!」


 ただ事ではないといった気迫を伴った声に、アリアはやはりと思う。十中八九、今しがた空を裂いた流星に関わることだろう。

 バルコニーから室内に戻り、扉の向こうで跪いているであろう彼に声を掛ける。


「承知した。支度をするので、暫し待たれよ」


 言いながら身支度を整えていく。

 清々しい朝を台無しにされたような気分がして少々ゲンナリする。

 しかしこれは仕事、立場もあるアリアは愚痴ひとつ漏らさずに割り切った。

 とはいえ、朝のティータイムがキャンセルされたことには残念に思う。


 着替え終わり、最後に姿見の前に立って髪を軽く整えてから部屋の扉を開けた。

 男の姿が見えないので、視線を下に向けると案の定、伝令兵の彼は跪いて待っていたようだ。その顔には緊張が張り付いている。


「待たせた。では向かうとしようか。司教様のもとへ」


 凛と告げて、アリアは伝令兵を伴って聖堂へと早足で歩き出した。



「おお。お待ちしておりましたぞアリア様。この度は早くにお呼び立てしてしまい申し訳のうございます」


 聖堂の厳かな扉を開けると、中では聖衣を見に纏った老女、ヘイゼルが待っていた。

 彼女はこの都市の司教として勤めている。


「偶然にも早起きしてな。あの赫い流星のことだろう」

「なんと。見られたのですねあの星を。これもお導きか……」


 そう言って祈り始めたヘイゼルに、アリアは話を進めるように促した。

 彼女にとってヘイゼルの信心深さは理解の外にあった。


「私を呼んだということは、中央から何かしら来たのだろう私宛に。何をすればいい」

「これは失礼致しました。件の流星はミアレス領内『保護指定区域A-1号』付近へと落下したものと見られており、そこにいるであろう新たな同胞を迎えに行くように、とのことでして」

「A-1号……滅びの碑か。また厄介なところに喚ばれたものだ。承知した。即刻、部隊を編成して向かう」


 踵を返して聖堂を後にしようとすると、ヘイゼル司教から声が掛けられる。


「アリア様、差し出がましいかと思われますが御武運を。今朝流れたのは蒼ではなく赫。何事もなくお役目を終えられることをこのヘイゼル、ここで祈っております」

「そうか。頼もしいことだ。留意しておこう」

「何卒よろしくお願い致します。『勇者』アリア•オンディーヌ様と異邦より招かれた新たな『勇者』に祝福が有らんことを——」


 アリアにとっては無縁な祈りを背に受けて今度こそ聖堂を出ると、新入りを迎えに行くべく部隊編成に入るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ